あなたの優しい手 初夏の昼過ぎ、ベランダの扉を開けると、傑が縫い物をしていた。大きな手のひらの中には覆面ヒーローのぬいぐるみ、ただし腕や背中が裂けて、中の綿が出てしまっている。彼は扉が開いても、黙々とそのぬいぐるみを縫い続けていた。マリオカートをやろうと意気込んできた俺は、それに言葉をなくしてしまう。
「それ、いつまでやんの」
最初のうちは物珍しくて見ていた俺も、段々と暇になって訪ねてしまった。でも傑は「あとちょっと」と言うだけで、俺の質問にはきちんと答えてくれない。
「それ、誰の?」
しかしそう尋ねると、傑はようやく顔を上げて、コントローラーをさげている俺を振り返った。切れ長の瞳、さらさらの髪、時間をかけて拡張した大きなピアスに、ほのかに香る昨日の湯の石鹸の匂い。そんな傑を構成するもの全てに、俺はそんな質問、しなくてもよかったなんて思ってしまう。
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