汝、罪と呼ぶことなかれ 凍てつく冬の夜よりも冷たく、深く昏い場所で眠ってしまえ。
己の抱いた感情が、恋と呼ばれるそれなのだと知った時、男は握り締めた掌の内側に血がにじむほどに爪を食いこませて、今すぐにも消えたくなる衝動を耐えた。
「クラージィ?」
突然黙り込んだ男の名を訝しそうに呼んだのは、200年という月日を越えて再会し、今では懇意にしている人物だった。かつて、やせ衰えて飢えていたクラージィに自分の食事を分け与え、そしてクラージィが身を挺して野犬から守り抜こうとした吸血鬼。あの日に比べて老いた見た目をした、ヨセフという古い血の吸血鬼は、黙り込んだクラージィを気づかわしそうに見つめ。
「クラージィ」
白くなるまで握りしめた掌から、血が滴っているのに気づいて、今度は宥めるように名を呼んだ。
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