彼とあの子「五条さん」
うん? と振り返った五条の視線が宙をさまよう。思い出したように視線を下ろす様を見て、自分はもとより彼の眼中にないのだろうと津美紀は思う。
「なぁに? 津美紀ちゃん」
五条の口元が一瞬で笑みの形に変わる。真っ黒な眼鏡で隠されたままの瞳はどんな表情を浮かべているのだろう。津美紀の目線に合わせるように膝を折った五条を見つめながら、津美紀はもう一度固い声で男の名を呼んだ。
「五条さん」
軽く首を傾げた五条がサングラスを親指で持ち上げた。露わになった宝石のような瞳が津美紀の瞳とかち合い、瞬き、ふと表情を改めた。そしてサングラスをはずし胸ポケットに納めながら、五条が問う。
「どうしたの。津美紀ちゃん」
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