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    こはく

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    こはく

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    懲りずにまた切ないPsyBorgを書きました。
    設定は曖昧かもしれません。
    Noctyxが全員友情出演しています。
    お読みいただけると幸いです。

    #PsyBorg

    醒めない夢をふたりで僕の愛しい恋人が倒れたと、
    人づてに聞いたのは一体何時間前のことだっただろうか。
    目の前に広がる風景に唇を噛む。
    はーっと意図的に息を吐き出してから、
    病室の白いベッドですやすやと眠る彼の頬にそっと口づけを落とした。
    ぱた、とその頬に涙が落ちる。慌てて拭う。
    触れた肌はいつも通り、氷のように冷たいままだった。

    「Uki!大変だ」
    家の前で突如としてサイレンが鳴り響いた。
    驚いて窓を開けると、そこには警察としていつも街の平和を守ってくれている友人の姿があった。
    「どうしたのSonny?パトカーで来るなんて初めてじゃない?」
    驚きながらも、親友の声に少しほっとして、2階の窓から大きな声で返事を返す。
    「無理を承知で仕事中に出てきたんだ!頼むから落ち着いて聞いてくれ」
    「…なに?」
    落ち着いていないのは君のほうじゃない、と言いかけて飲み込んだ。
    めったに見ない彼のその必死の形相に、否が応でも体が強張っていくのを感じる。
    きっとその時点で只事ではない何かが起きていた。
    そして、その後告げられた言葉は案の定、いともたやすく僕から理性を奪った。
    「Fulgurが、倒れたんだ」

    そこからはもう記憶が途切れ途切れで、鮮明に覚えていることなんてひとつもない。
    どうしよう。どうしよう。今朝僕が気付けなかったから。あぁ、家を出る前、僕は彼に一体どんな言葉をかけてあげられただろうか。
    「浮奇、大丈夫だ。お前のせいじゃないよ」
    そんな心の内を察したように、Sonnyは信号待ちのたび後部座席に座る僕にわざわざ振り返って微笑み、優しくてあたたかい声をかけてくれた。
    「Fulgurが自分の意志で隠していたんだ。だから浮奇が気にすることじゃない。第一それは彼も望んでいないよ」
    その言葉たちがなければ、きっともっと取り乱していたことだろう。
    病院についたとき、僕は辛うじてサニーに短いお礼を告げた。ありがとう、と。
    それだけで全てを汲み取った彼は、持ち前の太陽のような笑顔でグーサインを寄越してくれた。
    道中、彼の言葉と声とその笑顔にどれだけ救われたかわからない。
    全く僕は良い親友を持ったものだ。

    気もそぞろに受付の看護師さんに声をかけ、なんとか案内してもらって病室まで辿り着いた。
    ドアを開ける前、僕はひとつ深呼吸をした。
    そうでもないと倒れてしまいそうだったからだ。
    それでも心臓の音に負けそうになりながらなんとか、ゆっくりと、音を立てないようにドアを開けた。
    そこには、世界で一番愛しい人の健やかな寝顔と、お馴染みの友人たちの姿があった。

    ベッドを取り囲むようにして3人で座った。
    暫くの沈黙を破るように、まずYugoが言った。
    「今日昼の12時くらいからさ、俺ん家に来てたんだよ」
    その顔は幾分か血の気が引いていて、手も震えていた。
    「スゲー具合悪そうだったから大丈夫か?って何度も言ったんだけど、そのたびに問題ないって笑うからもう何も言えなくなってさ、ずっとただ一緒にゲームしてたんだ」
    しんとした病室に
    Yugoの良く通る声が響いては消えていく。
    ふ、と嘲笑うような息が聴こえた。
    「…俺がもっとちゃんと言えばよかった」
    そう言ったYugoの瞳には薄っすらと涙の膜が浮かんでいた。
    それを見たAlbanが次に口を開いた。
    「Yugoがさ、Fulgurが倒れたって大パニックで泣きながら電話してきたから急いで駆け付けたんだよ。俺が来たときにはもう救急車で運ばれる直前だったから何も大したことはできなかったけど」
    Albanもそのいつも明るい顔に影を落とし、普段よりワントーン低い声で言った。
    そんなAlbanにYugoが慌てて言う。
    「でも、来てくれて助かったよ、本当に」
    「そんなの、当たり前だろ兄弟」
    Albanが、一番事の顛末を近くで見て落ち込んでいるYugoを精一杯励ますようにニカッと笑った。
    そんなふたりを見て、僕は思わず口を開いていた。
    「悪いのは僕だよ」
    今まで沈黙を貫き、さぞ酷い顔をしていたであろう僕が急に喋ったので、ふたりの目が一斉にこちらを向く。
    それでも言葉は溢れて止まらなかった。
    「僕が、彼に言わせなかったんだ。なんでいつも、何も話してくれないんだよ。僕もなんでもっとちゃんと言っておかなかったんだ。なんでも話せ、話してくれって。恋人である前に仲間だろうって。君を、もっと、守らせてくれよって」
    段々と涙声になっていくのがわかる。後悔が、溢れて止まらない。
    「Ukiのせいじゃないよ」
    Yugoが一番優しい声で言った。
    Albanは微笑んで背中を擦ってくれた。
    「それに、そう言うのなら俺たちみんなの責任だ。Fulgurも含めてだよ。だって、俺たちは仲間じゃないか」
    力強く言って、いつも通り笑うYugoに強張っていた肩の力がみるみる抜けていく。
    とうとう涙は止まらなくなって、子どもみたいに声を上げて泣いた。
    ふたりはそんな僕に、とても長い時間寄り添っていてくれた。
    申し訳なくて、もう大丈夫だからあとは任せて、と無理やりにでも笑って言うと、ふたりは顔を見合わせてごめんな、と謝り、エールを送るように僕の肩を代わりばんこに叩いて行ってしまった。
    ひとり、愛しい人の寝顔を見ながら病室で過ごす静かな時間は耐え難いほど恐くて、苦しかった。
    頑張れ、頑張れと必死な想いでずっと手を握っていた。
    冷たいその手が一層哀しくて、僕のほうが死んでしまいそうだった。
    どれほど長い時間だっただろう。
    すっかり日の落ちた窓の外をぼんやり見つめたことまでは覚えている。
    僕は、その手を握ったまま眠りに落ちていた。

    夢を見た。
    僕の愛しい恋人は天使であった。
    その背には羽が生えていて
    優しくて、愛らしくて、手を離せばいとも簡単に飛んでいってしまいそうで
    怖くなって手を伸ばした。
    その必死な手は、何にも触れることなく
    虚しく空を切った。

    「ふーふーちゃん、」
    世界で一番愛しい人の声で、きっと目を覚ました。
    ぼやけた視界でも、その姿を一番に認識する。
    Ukiは泣いていた。寝たまま、瞼を閉じたまま泣いていた。
    俺の手をしかと握り締めて、必死に名前を呼んでいた。
    哀しくて、堪らなく愛しくて、そっと、優しく頬を撫でた。
    あたたかい。それが何より尊いことのように感じる。
    また、泣かせてしまったな。
    そのことを心の底から悲しく思いながらも、どこかで喜んでいる自分がいる。
    あまりの愚かさに呆れて、ひとつ溜め息をついた。
    いっそこの天使のような寝顔をずっと眺めていたかったが、見つけられてしまった以上はそういうわけにもいかない。
    叱られる勇気を持たなくては。
    決意を胸に、その綺麗な鼻の頭を、握られていない左手でとんとん、と優しくつついた。
    「Uki、Uki、朝だよ。起きてくれ」
    んぅ、となんとも間抜けな声が聴こえてくる。
    この愛しい姿を見られるのは、俺だけの特権だった。
    そしてこれから先も一生、譲るつもりはない。
    今度は繋がれた右手をぎゅっぎゅっと握ってみる。
    「Uki、Uki、起きて」
    少しだけ強請るような声色で言う。
    すると、Ukiの世にも美しい瞳がゆっくりと開き、瞬く間にこの世界に輝きを見せた。
    「………ふーふーちゃん?」
    大きく開かれた紫色の瞳が、ただひとり俺を捕まえる。
    「おはよう」
    言っている最中にも抱き締められた。
    それも肋が折れそうなほど強く。
    苦しいよ、と伝えるように背中を緩く叩きながら、愛しさと優しい香りに顔を埋めた。
    それは、なにより幸せな時間だった。
    暫くすると、少しずつ力が弱まり、代わりに左の耳元で啜り泣く声が聴こえ始めた。
    驚いて、咄嗟に目の前の背中を擦る。
    大丈夫だ、俺はここにいる、と言い聞かせるように。
    それが伝わったのか、Ukiは泣きながら必死に言った。
    「お願い。お願いだ。もうどこにも行かないで。苦しい姿も悲しい姿も僕だけに見せて。お願いだからひとりで苦しまないで。だってそれが一番哀しいよ。ふーふーちゃん。僕は、僕は君を」
    「愛してる」
    遮るように言った。
    精一杯のごめんなさいと、ありがとうを込めて。
    それは、これから先も唯一俺が叶えてあげられない願いだったから。
    最後まで聴いても、きっとYesとは言えなかった。
    Ukiはこちらを向いた。胸が不規則に上下していて、あまりの痛々しさに目を伏せたくなった。
    「愛してるよ、Uki」
    優しく目を細めてゆっくり言うと、Ukiは更に顔を歪めた。
    「そればっかりだ」
    そう言ってとても哀しそうな顔で笑った。
    「うん。ごめんな」
    Ukiは零れる涙を止めようとはしなかった。
    だから代わりに、俺が優しく拭った。
    「また、見つかっちゃったな」
    頼りなく笑ってみせると、Ukiは酷く苦しそうに笑った。
    「君のそういうところ、しぬほど嫌いだ」
    あまりに可愛らしくて声を上げて笑ってしまう。
    「笑わないで」
    睨まれたのですぐにやめる。
    「あとで、SonnyとYugoとAlbanにも謝りに行くよ
    みんなめちゃくちゃ心配してたんだよ」
    非難の視線を一身に受けながらも、母のように振る舞う恋人の姿にまた目を細めてしまう。
    そんな俺を呆れたように睨んでから、また、ふ、と困ったように笑う。
    そして、俺をぎゅっと抱き締めた。今度は心地良い強さで。
    そして、弱くて脆い、ともすれば聴こえないくらいの小さな声で囁いた。
    「だけどもう少しだけ、こうしていて」
    そのお願いに抗う意味など、この世界のどこにもなかった。
    白いだけの病室は、Ukiが居るだけで鮮やかな色を見せていた。
    背中に回された手を心から愛しく思い、そっとまた体を寄せた。
    祈りを捧げるように、目を瞑った。
    どうか、どうか、この夢が、
    まだ、醒めないように。
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