とくべつ「はぁ? なんで僕が」
「ご機嫌ななめだな。じゃあ、また今度な」
「今度とかないから」
「それはお前次第じゃない。俺次第だろ」
「……へんなの」
カシャカシャと生クリームを立てる小気味いい音のほうに向かいつつ、その視線はなおも金色に輝く瞳に向けられている。「おわっ、あっちで待ってろって!」「のろま」憎まれ口は騎士からから料理人に移されたようだ。
こうして、賢者やほかの魔法使いが出かける際には必ず声をかけるようにしているのだが、死神のような甘党はけっして色よい返事をしない。放っておけばいいものの、「大人数はいや」といえば二人で出かける提案をするし、甘いものが好きだと知ればレストランではなくカフェに誘う。いくら面倒見のいい騎士とはいえ、なぜそこまでするのか。誰もが思う当然の疑問を投げかけた勇者は、まだ幼さを残す面持ちの案内人だった。
1985