本音はアルコールに混じってガァン!
数度に渡るスヌーズで時刻を訴え続けたアラームは拳骨という不本意な返答で任務を終えた。
「……うあ~……」
腕が一本生えていたシーツの塊からうめき声が聞こえ、しばらくすると黒い猫耳を持った頭が出てきた。
「いった……。飲み過ぎた……」
ブレイズは顔を覆っていた髪をかき上げながら目を開けた。先程理不尽な暴力を振るった時計に手を伸ばし、時間を確認する。
「大丈夫……今日は公休だから……まだ寝ても許されるはず……」
そこまで呟いたところでふと気づいた。
「え……ここどこ?」
内装こそ典型的なロドス単身オペレーター用宿舎のものだが、自分に心当たりのない家具や小物が置かれている。寝起きの鈍い頭で必死に考えつつ室内を見回すと、ようやく見覚えのあるものを見つけた。
グレーのジャケットとクロスボウ
「あっれ?まさか……」
なんとなく自分がいる場所に見当がつき始めた時、新たに気づいたことがあった。
服を着ていない。そしてシーツの中に自分以外の何かがいる。
おそるおそるシーツをめくり、焦りで完全に覚めてしまった目で中を覗き込むと、
「んん……」
ブレイズと同じように何も身に着けていないグレースロートが、ブレイズにしがみつくようにして眠っていた。
「何か言うことはある?」
「すいませんでした……」
ブレイズは服を着るのもそこそこに床に正座でグレースロートに見下ろされていた。食堂はそろそろモーニングタイムが終わる時間だが、グレースロートから起きざまに喰らったビンタの跡が中々引かなかったため、彼女の部屋から出られなくなっていたのだった。
「ホントに昨夜何があったか覚えてないの?」
グレースロートは冷ややかな目をブレイズに向けた。
「はい……」
ブレイズは歯切れ悪く答えた。
昨夜はトレーニング後にベテランのオペレーター達とバーに入った事は覚えている。いつも通りわいわい騒ぎながら飲み倒して、日付が変わる頃にお開きになった。ほろ酔いで自分の宿舎へ戻っていたはずだったが、何故かそこから先の記憶が無いのだ。
「あんたエリートオペレーターでしょ?みんなの模範にならなきゃいけないのにそんな体たらくで……」
グレースロートの説教が始まり、ブレイズは耳を後ろ向きにして聞き流す姿勢に入った。聞き流しながらも、一つ気になることが出てきた。
「……ちょっと!ちゃんと聞いてるの?」
「でもさ、グレースロートなら酔った私でも追い返すくらいは出来たよね?なんでしなかったの?」
「それはっ……」
グレースロートは言い返そうとしたところで固まった、しばらく言葉を探しているようだったが、そうしているうちにみるみる顔が赤くなってきた。
「……もういい!早く出てって!しばらく顔も見たくない!」
「ちょっと、せめてシャワーだけでも貸してよ」
「自分の部屋で浴びなさい!」
ブレイズはグレースロートから投げつけられたジャケットを顔でキャッチし、ほうほうの体で部屋を飛び出した。
「もう、短気なんだから」
ブレイズは追い出されたドアに向かって舌を出した。
「とはいえ悪いのは私だしねぇ。もっと気を付けないといけないなぁ」
「はぁ……」
グレースロートは溜息を付きながらシャワールームへ向かった。熱いお湯を浴びながら昨日のことを反芻する。
「グレースロートぉ。君はいなくならないよね?」
「布が邪魔。君の温もりが分からない」
「あったかい。ずっと一緒にいてよね」
「……深夜に泣きながらやってきたら断れるわけないじゃない」
グレースロートの愚痴はシャワーの音にかき消された。