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    poskonpnr

    @poskonpnr

    エアスケブは一応受け付けてるけどかくかは知らん
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    poskonpnr

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    isrn
    ワンドロお題の「夏休み」から連想ゲームをし、全く関係ない話になりました なんか夏 なんかまだブル─口ックおる
    +1Hぐらいやってる気がします すいません。。

    「え」
     嗅ぎ慣れたような匂いに凛は意識を戻した。辺り一面が白一色の部屋を見、ここが医務室の類であるとすぐに判断して首を回す。こめかみに鈍い痛みがあった。
    「あ、糸師さん、具合どうですか」
     返事をするまでもなく、看護士らしい男が凛の横たわるベッドをのぞき込んだ。そのスクラブを見るに、どうやらここは練習場にある医務室でなく病院らしい。
    「……っす、大丈夫です……?」
    「全然、無理しなくていいですよ。糸師さん練習してたんですけどね、倒れちゃって。覚えてます?」
    「……あ」
     久々の早朝練、まだあたたまりきっていない空気が心地良かった。気温の上昇を嫌って練習自体は昼前には終わることが決まっていたが、いつにもまして気をつけて水分は摂るようにしていたつもりだ。ただ、思ったより蒸し暑いのは気になっていて、あるタイミングから吐き気がしていたように思うが、それがどれくらいの時間帯のことだったのかはもはや分からない。覚えているとも、いないとも取れる微妙な相槌で凛が返すと、看護士は大して気にも留めていないように笑った。
    「コーチの方かな? どなたか女性が付き添いで来られてて……あっ」
     看護士がこの後の段取りを伝えようとしたとき、病室の引き戸がそろりと開く。失礼しまーす、とこもった声と共に顔を出したのは潔だった。
    「は?」
    「よー、凛! ここ、入って大丈夫でした?」
    「大丈夫ですよ、どうぞ」
     聞いた割に、潔は遠慮のない様子で凛のベッドの隣にあった丸椅子へ掛けようとする。看護士もそれを気にせず話を続けた。
    「コーチ戻られました?」
    「まだ着いてはないんですけど、もうじきって連絡ありました!」
     どうやら看護士は帝襟のことをコーチだと勘違いしているらしい。しかし潔はそれには特に触れず、やたら快活に返事をしてみせた。付き添いが戻ったのであれば、と宿舎へ戻る段取りが凛を除いた二人の間でポンポンと進み、あっという間に凛と潔は病室に取り残されてしまう。
     つい10秒前まで軽やかに跳ねていた会話がどれもリノリウムに沈んで、どこからともつかない機械の動作音が響いた。耐えかねたように潔が口を開く。
    「……ここまでどうやって運ばれてきたか、聞いた?」
    「……ああ」
    「最近暑かったしな、ちょっと体調悪そうにしてる奴も、ちらほらいたから……」
     潔は先ほど看護士に見せた明るさが嘘のようにボソボソと話した。それもそうだろう、と凛は勝手に合点する。
     凛と潔は友達ではない。
     プレースタイルの相性がいいから同じチームになると話題を集めることが多いが、それ以外のポジティブな接点は特にない。なぜ病院までついてきたのが他でもない潔だったのかと凛は訝しむが、おおかた凛の倒れる様子を見ていたのが潔だった、そんなところだろう。輪から外れている人間にばかり声をかけにいくのが潔だ。
     敢えて話を繋ぐ必要もない、と凛は相槌もそこそこに床へと脚を下ろす。既に乾いてしまっているが、練習着はきっと倒れたときからずっと着たままだ。うっすら漂う汗の匂いで分かった。荷物を探そうと視線を回すと、潔が自分のバッグに手を伸ばして背を丸めた。
    「あの、着替え。勝手にカバン触るのもどうかと思ったから……俺のならある、けど」
    「……入んねえだろ」
    「別に、着なくていいよ。あるだけ」
     なんで目線の動きだけで分かんだよ、と凛の頭には文句めいた言葉が浮かぶが、それはついぞ音にならなかった。一応、と予防線を張って差し出された潔のTシャツを受け取り、しばし考える。このまま突き返しても何ら問題はないが、病室にいるところを見られてなお意地を張るのはかえって恥ずかしいことのような気がした。クーラーの冷たさに耐えながら汗まみれの練習着を脱ぎ、潔に投げて寄越す。実際に潔のものを着てみるとそこまでサイズの差は気にならなかった。

     エアコンの風に当たるのがつらく、凛は外で帝襟の迎えを待ちたいと要求した。運ばれたのが総合病院だったので、たっぷり5分ほど歩いてからようやく外の蒸し暑い空気に潜る。どれだけ気を失っていたのか、陽はもう一番高いところを過ぎていた。
     いつも大股でゆったりと、しかし周囲と比べるとそれなりに速く歩く凛は、今日に限ってはまさしく「とぼとぼ」という擬音が似合う様子でスニーカーを擦った。どことなく歩調の合わないまま、凛の手の甲と潔の手首がぶつかる。
    「うわ、つめたっ」
    「……だから外がいいっつったんだ」
    「あー……なんか、気ぃ利かなくてごめん」
    「は?」
    「いや、上着とか持ってくんの忘れてた、焦ってて」
     心底申し訳なさそうに呟く潔。凛はその後頭部を軽くはたいた。
    「いで」
    「お前俺のこと何だと思ってんだよ」
     ほんの少し前を歩いていた潔が凛の方へ向き直る。少し考えてからこう返した。
    「顔……真っ白で……しんどそう」
    「……会話しろこの愚図」
    「どういうこと……?」
     軽く言い合っている間にロータリーの辺りへ着く。帝襟の車がどれなのか考え出す前に、短くクラクションが鳴らされた。すぐ近くの軽がするりと凛たちの側で停まり、助手席側の窓が開く。
    「ごめんね遅くなっちゃった……!」
    「いえいえ! 車ありがとうございます!」
    「どういたしまして。糸師くん後ろどうぞ、先に手続き済ませたからこのまま帰りましょう」
     これもどうやらわざとではないらしいので凛は非常に居心地悪く感じてしまったが、潔は当然のように後部座席のドアを開けて凛を待った。やはり下手な抵抗を見せると負けたような気がしてしまうため、黙って乗り込む。閉めるぞー、と潔が外から声をかけたとき、凛はドアにかかったその手を勢いよく掴んだ。
    「寒い」
     冷房で冷えただけではない、貧血も相まって氷のようになった指が潔の日焼けた手で溶け始める。「あ」と潔が目を丸めたのを見て、凛は内心ほくそ笑んだ。この気恥ずかしさをお前も味わえばいい。あんまり間を開けても帝襟に怪しまれてしまうため、潔は反応の割には早々に決断し、凛と同じく後部座席へ乗り込んできた。
    「糸師くん、エアコン強すぎないかな?」
    「……っす。あの、すんませんでした」
    「ううん、これは大人の管理の甘さが原因ですから。糸師くんがちゃんと水分摂ってたのも聞いてますし、気に病まないで」
     こちらこそごめんなさい、と噛み潰すように言う帝襟の表情をルームミラー越しに見たとき、再び凛の指が熱に触れる。見れば、馬鹿みたいに真面目な顔で潔が凛の指をこねていた。
    「お、ま……」
     帝襟の謝罪に何か返そうと思ったのに、潔は凛の手を一回り小さな自分のものでくるんでいる。よりはやく熱が伝わるように、とでもいうような力の込め方。これに先ほどの凛のような「からかってやろう」という魂胆は微塵もないようで、潔とはまったく目が合わない。それなら、さっき凛がわざと甘えたようなふりをして見せたのに驚いたのも、「甘えた」という事実に対してではなく、あるとすれば「そんなに寒かったのか」という、ただただ凛の体調を気遣ってのこと。今さらその手を払う気にもなれず、代わりに凛は腹の中の空気を全部吐き出す勢いでため息をついた。
    「……もう、大丈夫です。明日は復帰できます」
    「うん、今日は夜までゆっくり休んで──」
     潔が人に、まして凛におもねるような態度を取るはずがない。集団の幸福と自分の得点のためにしか動かない男の指が離れていくとき、凛はひとつの諦めとともにその手首を掴み返した。
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