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    tmkhrak96

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    恋轟2参加作品
     共通話後の爆轟版の話です。

    #爆轟
    BakuTodo

    そば粉のガレット 夕食を終え、休日前の夜を各々談話室で過ごしていると同じソファ席に座っている人間に話しかける声が聞こえてきた。

    「瀬呂ちょっといいか?今夜の事なんだけどよ、さっきデザートに杏仁豆腐出ただろ?クレームダンジュだと生クリーム被っちまうからベイクドチーズケーキに変えようと思ってんだが……」
     ソファに深く座って寛いでいる瀬呂に砂藤がソファ越しに何やら相談してしている。
    聞き耳を立てるつもりは全くなかったが、真横で繰り広げられる会話は嫌でも爆豪勝己の耳に入ってくる。
    「あー確かに今日中華だったねー。別に俺は生クリーム系続くの気にならないけど轟、最近杏仁豆腐すごい好きだからめっちゃ食べてそうだよねぇ
    …うんメニュー変更したげといてよ。俺もドリンク変更するわ!バタフライピー見せて驚かせたかったけどベイクドチーズケーキには弱いな〜?アッサムでミルクティーかねえ?」
     
     重ねて言うが聞き耳を立てるつもりはないが真横で展開される会話に入学以来色んな意味で気に食わなく、色んな意味で気になって仕方がないクラスメイトの名前が出て来て聞き流そうとしていた会話を聞き流せなくなってしまった。

    「おい、お前らさっきから何の話をしてやがる」
     ソファから立ち上がった爆豪のあまりに凶悪怒気を放つ顔に気圧された2人は本来の身長差なら見下ろす筈の爆豪を見上げて震え上がった。





     土曜の午後10時過ぎのハイツアライアンス5階の角部屋で轟焦凍は仮免補講の課題を終わらせて一息ついていた 
    (今日は冷やす系の菓子らしいから匂いがしてこねえんだな。おかげで集中して勉強できたけどちょっと残念でもあるな……)

     焼き菓子を作る時に隣の砂藤の部屋から香ってくる卵やバターの焼ける匂いが密かに好きだった轟は少し残念に思いながらも、もう少ししたら訪れる級友達との楽しい時間に胸を躍らせながら勉強道具を片づけ始めた。

     ひょんな事から毎週土曜の夜に5階の男子全員でティータイムを過ごす事になったのだが、同年代の友人と秘密の時間を共有する経験のなかった轟はこの時間が何物にも変え難い大切なものになっていた。
     
    (今日は夕食後のデザートも杏仁豆腐だったし嬉しい事ばっかりだな)

    表情には出ないが内心ウキウキとしている轟は壁につけていた座卓を部屋の真ん中に移動し始めた。
     今日は瀬呂が珍しいお茶を淹れてくれそうだから白磁のティーカップではなく色がよく見えるガラスの飲み口に銀の持ち手がついたカップを出す。

    (今日は砂藤も瀬呂も初めてのものを持ってくるって言ってたな。いつもあいつらが持って来てくれるものは上手いしきれいだから楽しみだ)

     轟が自分ができる用意を全て済ませてワクワクしながら座って2人の訪問を待っていると廊下からガチャガチャを何やら運んでくる物音と足音が響いて来た。
    内開きのドアならぶつかることはないだろうと轟は自分からドアを開けて歓迎した。

    「いらっしゃい!早かった……な……」
     ノックを待ちきれずドアを開けて入室を促した轟の目に映ったのは待っていた砂藤でも瀬呂でもなく下の階の爆豪勝己だった。
     思いもよらぬ人物の訪問に驚いて固まってしまった轟を押し退けるように何やら沢山の荷物を両手に持った爆豪が部屋に入ってくる。
    「本当に夜な夜な菓子食ってたんだなお前ら。夜更かしに加えて夜間に高カロリー、カフェイン摂取とか舐めプが過ぎんだろ!お前らバカか?」
     吐き捨てる様に言いながら勝手に部屋に入り込んだ爆豪は轟が用意したガラスのティーセットを座卓の下に追いやると持ち込んだ荷物をセッティングし始めた。
     そのあまりにも傍若無人な振る舞いに固まっていた轟は我に帰り抗議した。
    「おい。いきなり部屋に来て何なんだよ。使うんだから勝手にティーセット下に置くなよ。何か要件があるなら手短に済ませてくれ。もうすぐ砂藤と瀬呂が来るんだ」
    「来ねえぞ」

     轟の抗議を一言で切り捨てて爆豪は持ち込んだ荷物をさらに広げていく。
     カセットコンロとスキレットをセットしたかと思えば今度は何やらジップロックに入った粉を銀のボウルにザルを使って篩い淹れてペットボトルの水をさらにその中に投入していく。
    「しょうゆ顔と砂藤はクソ髪の部屋でスpラ大会しとる。この俺のSwitchをアホ面に貸してやるって言ったら小躍りでしょうゆ顔や砂藤を呼んで夜通しチームプレイする事になったんだよ。」

     轟にはよく分からない単語が羅列するがとにかく今晩は恒例のお茶会がなくなった事だけは理解した。

    そして悲しくなった。

    (俺はよく分からねえけどA組の皆は結構ゲーム好きだもんな……場所や茶器は提供してても俺はいつも飲み食いさせて貰うばっかりなんだし偶には2人も違う事してえよな……)

     知らない間に恒例の集まりが反故されていた事に寂しさを覚えた轟は表情には出てはいないものの内心落ち込んでいた。
     突然黙りこくって動かなくなった轟を見て苛立った爆豪は投げやりに言葉を掛けた。
    「アイツらからなんか連絡きてねえんか?何も言わずに予定変える奴らじゃねえだろ」
     爆豪にそう言われてハッとした轟は仮免補講の課題に集中したいからと音を切って階  段箪笥に避けていたスマホに手を伸ばした。
     スマホには砂藤と瀬呂の両方から今晩はお茶会を中止にして欲しい旨が送られていた。
     急いで2人に返信する轟を横目に爆豪は銀のボウルをカチャカチャいわせながら何かをかき混ぜていた。
    「連絡あったんか?」
    「あぁ、2人ともからちゃんと来てた。ありがとうな、音消して課題してたから気づかなかった」
    「緊急の連絡とかもあんだからいつでも確認できる様にしとけや」
    「うん、そうだな。今度からそうしとく」
    「ん……」
     言葉はそっけないが轟の返事に何やら満足した爆豪はカチッと持ち込んだガスコンロを点火し始めた。
    「なぁ、爆豪。お前さっきから何してんだ?」
    「お前が仮免補講の夜に腹空かせて徘徊すっから砂藤と瀬呂に飲みもん食いもん恵んでもらっとるんだろ」
    「嫌な言い方すんなよ。確かに飲み食いさせて貰ってるけど俺は場所と食器を出したり洗い物すればいいって2人が言ってくれてんだぞ」
     内心後ろめたく思っていたことを指摘されて轟はムッとして反論した。
    「ハッ……半端な餌付けされて懐いてんじゃねえよ」
     いつもの爆豪らしからぬ小さな声でゴニョゴニョと話されて轟は首を傾げた。
    「何つったんだ?よく聞こえなかった」
    「うっせ!小腹が空いたからって食うにしてももっと色々あんだろうが!この俺が完璧な夜食作ったるから拝み倒して食いやがれ!」
     そう言いながら爆豪はスキレットに何やら液体を注ぐとT字型の木の棒で広げて焼いていく。
    「おぉ!すげえなきれいなまん丸だ……」
     轟が素直な感想を述べると爆豪が吹き出した。
    「プシシッまん丸ってお前……均等な円とかもっと賢そうな言い方あんだろうがよ。勉強できねえわけじゃねえのにお前言い方がガキくさい時あるよな」
    普段あまりお目にかかれない爆豪の屈託のない笑顔に轟は何やら胸が熱くなるのを感じた。
    「別にまん丸でも均等な円って伝わるだろ?」
    「まぁそうだけどよ、お前見た目とのギャップがあり過ぎんだろ」
    「俺がまん丸って言ったらダメなのか?」
    「別ダメとは言ってねえよ……」
    轟の素朴な疑問に素っ気なく返した爆豪が今度は小さなタッパーを出してその中身をスキレットで焼いている生地の上に乗せた。
    ジュウジュウと音を立てながら焼けて行く生地の四方を内側に折りたたむと爆豪はフライパン返を持っていない方の手を轟に差し出してきた。
    「皿、出来れば大きめのやつ2枚よこせや」
    「分かった。大きめなら柄とかは何でもいいか?」
    「出来れば無地でトーン低めの奴にしろ。黒か紺が有ればベターだ」
    「分かった」
    轟が緩いスクエア型の黒い皿を差し出すと爆豪は満足そうに片方だけ口角を上げた。
    「悪くねえ」
    そう言うと爆豪はスキレットの上で何やら香ばしいものとバターの匂いをさせた物をその皿に乗せた。
    「おぉ……すげえうまそうだな」
    「うまそうなんじゃなくてうめえんだよ!あとガラスのコップも出せや。出来るだけ長え奴な」
    爆豪に言われたものに近そうなコップを出すとまた新たなタッパーとペットボトルを出した爆豪がグラスに注いでいく。
    タッパーからは様々な形のフルーツが転がり出て来てその上からペットボトルから出た無色透明だがシュワシュワと泡を立てる液体が注がれてフルーツの色が液体に移り薄らピンクに色ずく。
    「……すげえ……キラキラしてきれいだな」
    部屋の照明が炭酸の泡に反射してキラキラと虹彩を放つ様を魅入っているとグラス越しに爆豪と目が合った。
    「こんなすげえもん作ってくれてありがとうな、爆豪」
    目が合ったグラス越しに轟が礼を述べると爆豪は弾かれた様に横を向いてしまった。
    「まだ飲んでも食ってもねえだろうが!見た目だけじゃなく味も味わいやがれ!」
    「おっ、そうだな。どっちもこんなにきれいなんだし絶対うまいよな。でもお前の分はまだ焼けてねえだろ?」
    「チーズが固まっちまうだろうが先に食えや!」
    「確かにとろとろのチーズもうめえけど一緒に食いてえから待ってちゃダメか?」
    轟が視線を合わせてくれない爆豪の視線を追う様に小首を傾げて聞いてみるとヴィランも逃げ出してしまいそうなぐらい凶悪な顔をした爆豪が目を吊り上げながら叫んだ。
    「今から爆速でガレット焼くからテメぇが食え!先に焼いたそれはこっちによこせや!」
    「え?作るのは爆豪何だから出来立ては爆轟がくえよ」
    「俺はやるなら完璧にすんだよ!いいか、テメエはこのキノコチーズガレットとベリーソーダを最高の状態で食う義務があんだよ!」
    爆豪のあまりの剣幕に圧倒された轟は「おっ、おう」と力なさげに返事をする事しかできなかった。

    2枚目も焼き上がり轟と爆豪は向かい合いながら座りいただきますと手を合わせて食べ始めた。
    「んんン!何だこれすげえうまい。中のチーズときのこもうめえけど、生地がうめぇ……すげえ香ばしくって……これ、俺好きだ」
    語彙が乏しいながらも何とか伝えようとする言葉に爆豪は得意げになった。
    「たりめーだこの俺が作ってんだぞ?ベリーソーダも飲んでみやがれ!」
    「おぉ、コレも上手いな。口ん中さっぱりするけど甘いし匂いもいいし、コレも俺好きだ爆豪……爆豪?」
    いつもの甘味とは違うがおいしい料理と飲み物を振る舞ってくれた爆豪に感謝の気持ちを伝えると何故か爆轟が顔を両手で覆って床に背を預けていた。
    「どうした爆豪!どっか悪かったのか?体調悪いなら誰か先生達に連絡を……!」
    普段膝を折ることのない爆豪が膝どころか腹を差し出した状態で自分の前に横になるなど異常事態の何ものでもない。何とかしなければと轟が動こうとすると血を這う様な声がして来た。
    「うるせえバカ。何ともねえんじゃボケ。強いて言うならテメェのツラのせいだわこのカス……」
    弱々しいながらもしっかり悪態をつく爆豪に轟は動きを止めた。
    「そうか?、ならいいんだけどよ」
    体調が悪いかとの問いに否定するのなら大丈夫だろうかと轟が納得しようとすると、爆轟は言葉を続けた。
    「生クリーム系ではねえけど食べではあったか?」
    「あぁ、チーズやキノコが入ってて腹膨れた。それにこのソーダで甘さも補充できて大満足だ。ありがとう爆豪。今日はすげえぐっすり眠れそうだ」

    「そうかよ……そらよかったな。それよりテメーは何で俺がこんな荷物持ち込んでまでテメー好みのそば粉で作るガレットやベリーソーダ食わせてやったと思っとんだ?」

    さっきまで視線を逸らしていたのが嘘の様に爆轟が轟の顔を見つめている。

    いつものよう軽口をたたくわけでもなくただただ轟を見つめてくるその熱い視線に轟は動けなくなった。

    「こんな大荷物で食材だって生地以外は調理してから持ち込んだんだ。何でこんな手間暇掛けとると思うんだ?」
    ジリジリと詰め寄る爆豪に何が怖いのか分からないまま詰められた分だけ轟は後ろに下がってしまう。
    そんな轟の腕を逃すまいと掴んだ爆豪は鼻と鼻がぶつかりそうな距離まで詰め、とうとう逃げ場がなくなった轟は何とか声を絞り出した。
    「な、なんでなんだ?」
    轟が質問に質問で返すと爆豪はニヤっと笑うと

    「下心があるからだよ」

    そう言いながら轟をそのまま床に押し倒してしまった。

    轟を押し倒してのし掛かって来た爆豪は背に部屋の照明を背負っているので必然的に逆光になってしまい顔に深い影を落とすのだがそれでもなお爛々と輝く爆轟の赤い目が轟をとらえて離さない。
    この既視感のある色はどこかで……先ほどのベリーソーダのだろうか?
    いや違う爆豪の目の様にもっと強烈で鮮やかな赤を俺は知ってる。
    「てめぇ、俺に押し倒されとんのに考え事とか本当、舐めてやがんな!」
    苛立った爆豪が轟の首に顔を埋めて来た。
    その時ふわりと香ってきた匂いに轟はハッとした。

    かすかに匂う甘い香り。

    元から嫌いではなかったが最近特に好きでその匂いを嗅ぐと幸せな気持ちになったこの匂いは……。

    「杏仁豆腐」

    「あぁ?テメエまだ食い足りねぇんか!!」
    この状況でスイーツ名を溢す轟に爆豪は呆れた。
    「いや、流石にもう食えねえぞ」
    「なら何でこんな状態で杏仁豆腐とか抜かしたよ」
    「砂藤や瀬呂にリクエスト聞かれた時大体杏仁豆腐を上げてたんだ」
    押し倒した状態なのに動じる事なく話出す轟に爆豪は進む事を戻ることもできずその態勢のまま相槌を打つ事にした。
    「アイツらもなんか言っとったな。そんで?それがどう今の状態と繋がんだよ」
    半ばやけになって轟の話につき合う爆豪の首筋に轟がすりっと鼻を押しつけてきた。
    「んなっ?!!」
    自分から仕掛けておいて轟からの接触に爆は驚愕した。
    「お前の匂いだったからだ」
    自分を押し倒した爆豪を至近距離でもしっかりと逸らさず見つめる轟の2色の瞳の力強さと美しさに魅入られた。
    しかし、ハッキリさせねばならない事がある。
    「俺が杏仁豆腐の匂いだぁ?」
    「そうだ。あぁ、よく見たらお前のその真っ赤な目も杏仁豆腐に乗ってるやつみてえだな……」
    「誰がクコの実だ!」
    「おぉ、アレそんな名前だったんだな」
    「名前も知らねーもんを人の目に例えんなや!」
    「悪い、元から好きな方だったけど最近特に好きになったのは爆豪みたいだからだったんだな」

    自分の腕の中で(納得はいかないが)自分に似ているものが更に好きになったと言う気に入らないけど気になっている同級生……。

    いやここはもうハッキリと認めよう。

    その強さも美しさもすっとぼけた言動行動もたまらなく好きな相手。
    下心があると言いながら押し倒されて抵抗どころかこんな告白紛いの事を言って来たんだ。
    コレはもうおつき合いとやらに発展していいのではないだろうか?
    誰がどう考えても両思いだろう。
    同性且つ、情緒などどこかに置き忘れたかの様な振る舞いの多い轟相手に告白など負け戦なのは目に見えていたので挑まなかったがコレはもう完全勝利確実な状況ではないか。

    (5階の連中は明日まで戻って来ねえしまさに千載一遇のチャンスだ。この好機をみすみす逃す程マヌケじゃねえぞ!)

    押し倒していた状況から起き上がり轟も引っ張り起こしてお互い座り改まる。
    「轟、俺はテメーにイラつく事が多々あるが好ましく思ってる事も結構ある。少なくとも俺の知らない所でお前が他の奴らとしけ込んで何かしてるのは我慢ならねえ位に執着しとる……
    「そうだったのか?」
    爆豪が慣れない心中を語っていると心底驚いたと言う顔をした轟が口を挟む。
    「おぉ、テメーも俺を憎からず思っとるみてえだから俺とつき
    「安心しろ爆豪。姉さんからもらったティーセットは基本五客あるからまだまだ放課後ティータイムには参加できるぞ」
    「あぁん?」
    人がせっかくこちらから告白をして口説こうとしているのに何やら違う解釈したらしい轟はすっとぼけた事を言い出した。
    「八百万に聞いたんだけどな、アフタヌーンティーって本来軽食も取るらしいんだ。正直そこまでガッツリはいらねえと思ってたけどお前が作ってくれたあのガレット?みたいな奴なら幾らでも食えると思うんだ。お前もあんな感じのものを作ってくれたらこのティータイムに参加……
    「し ね え よ ! !」

     先程まですっとぼけた所も好きだと思っていたが訂正だ。
    確信した勝利のフラグもバッキバキに折る所はナシだ。
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