甲隊士(女)と鬼の禰豆子 炭治郎と禰豆子が任務の合間に洞窟で休んでいた日。炭治郎は火を熾すための木片を集めていた。
すると突然殺気を纏った気配が現れ、咄嗟に避ける。
「ふむ、今のは避けれたか。」
「なっなにをするんだ急に!」
見ると、その人物は炭治郎よりも年上の女性。そして、炭治郎と同じ隊服を身に纏っていた。
「だが遅い。気配をある程度出されなければ察知出来なかったのか?お前は鼻が良いと聞いた。もっと、常に周囲を探っていろ。数百離れた所も嗅ぎ分けろ。これ程近付かれて気付いていては、力ある鬼ならば避ける間もなく食われるぞ。」
「…え?」
唐突に襲われて、唐突にダメだしされた…。
女性の隊士が持っていたのは、よく見ると太めの木の棒だった。恐らく避けられなくてもコブができるくらい……いや、よく見るとさっき炭治郎が避けた事でそばにあった木が犠牲になっているし、その木は抉れている。コブじゃ済まないだろう。
炭治郎は久しぶりに狭霧山の鍛錬で死にかけたトラップを思い出していた。
「…るのか。聞いているのか、竈門炭治郎。」
「はい!すみません聞いていませんでした!」
「………。」
「…あ、あの、何で俺の名前を?」
「私は用事の無い相手に話しかけたりしない。用事があるから名前を知っているに過ぎない。」
「なるほど…?では、どのようなご要件でしょうか?」
「私は鬼殺隊士だ。鬼を狩りに来たに決まっているだろう。…いつもそばに置いてる訳では無いのか。」
その言葉から、鬼とは禰豆子のことを言っているのだと気付く。
「ま、待ってください!禰豆子は確かに鬼になってしまったけど!まだ人を襲ってないです!」
「…だから?」
「え」
「だから、何だ。今まで襲ってないからこれからも襲わないと保証出来るのは、未来から来た奴だけだ。今のお前に何が保証出来る。」
「禰豆子は絶対に人を襲ったりしない!」
「口先ではどうとも言えるという話だ、莫迦者。」
尚も言葉を告げようとした炭治郎は、恐ろしく濃い憎悪の匂いを嗅ぎ、言葉を発せず喉を引き攣らせる。そんな炭治郎を見て、隊士は「お前は、」と静かな声で続けた。
「…お前は、信じようと思った鬼に襲われたことはあるか?
信じてあげたいと思った鬼が、次の瞬間には友を食らっていたことはあるか?
助けようと思った人間が狩るべき鬼を守った所為で、弟として可愛がっていた隊士が食われたことはあるか?
友を守れず、守られて生き残った隊士が抱く気持ちを聞いたことがあるか?
鬼を信じていた友が鬼に食われて、可愛がっていた友の妹に重責を背負わせてしまったことはあるか?
鬼がいる所為で自分の兄の変わり果てて行く姿を眺めることしかできない者の気持ちを聞いたことがあるか?
無いだろう?その気持ちが、解らぬだろう?なぜならお前には鬼となっても自分を守る妹がいる。他の鬼が自分を襲おうとも、妹という信じられる鬼がいる。だから、お前には“彼ら”の気持ちなど理解出来ようはずもない、出来るなどと言われたくもない。
それと同じように、“彼ら”には信じられる鬼(妹)などいない。いないから、お前の気持ちなど理解できない。人によっては理解したいとも思わない。だから、――」
「守りたいのなら、他者を目の前にして油断するな。」
ハッと気付いたときには目の前にいたはずの隊士は消え、その匂いは妹のいる洞窟へと続いている。
今の隊士の話を聞く限り、あの隊士は鬼嫌いだ。冨岡のように、見逃してくれるとは思えない。それに、炭治郎の鼻は、言いようも無い程の複雑な感情を隊士から嗅ぎ取っていた。
「っ、禰豆子!!!………ぇ??」
洞窟に着いた炭治郎が目にしたのは、暗い洞窟の中で箱から出されている禰豆子。そして、その禰豆子に何故か口付けをしている隊士だった。
「…な、なにをしているんですか!?!?」
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*甲隊士
立場的には、あまね様の護衛を務めることがある御館様の妹(兄夫婦至上主義過激派)。
隊士は稀血と言えば稀血だけど、実弥のように鬼を酩酊状態にさせるのではなく、飢餓感を抑えたり眠らせる効果がある。摂取させるとより効力が増す。