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    sirokuma594

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    sirokuma594

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    GWは忙しかった頑張り屋の恋人と、あわよくば手でも繋ぎたかった吸血鬼の話です。
    #ドラロナワンドロワンライ一本勝負 (@DR_60min)よりお題「休日」で書かせていただいたものを、一部修正して掲載しています。

    #ドラロナ
    drarona

    懲役4時間、内5回「冬が終わった! ビキニの季節だ! 下僕ども、今こそ新横浜に我が覇道を敷け!!」
    「海開きまで大人しくしとけやポンコツ!」
    「そして野球拳の季節でもある! さあそこ行く春服のお嬢さん! よよいのよい!」
    「そんな季節どこにもねぇよタコ!! 兄弟仲良くみなとみらいででも遊んで来い!」
    「ゴールデンウイークに? 観光客でバカ混むでしょ。ホントに神奈川県民?」
    「チクショーそうですね!」

    大型連休中も退治人に休みはない。なぜなら春になれば変態共も活性化するからだ。ロナルドのゴールデンウイーク最終日は、日付が変わるまで吸血鬼をとっちめて終わった。

    「今年のゴールデンウイークも何にもなかった……ちょっと遠出して飯とか……遊園地とか……あとは、アレ……スーパー寄ったり」
    「スーパーはいつでも寄れるだろ」
    「ま、まあロナルド、連休が終われば少しは落ち着くだろうし……今日はゆっくり休めよ」

    同じく無休で働いたショットやサテツに慰められながら帰路につく。5月にもなれば夜であってもある程度暖かい。日が落ちてから駆けずり回り続けたロナルドは汗だくで、べたつく首筋に眉を顰める。

    「お、ようやく終わったか若造。うわ汗くせっ」
    「ぶっ殺すぞ」

    スーパーのビニール袋を提げたドラルクが片手を上げて近寄り、そしてすぐ塵になった。ムカついたので追撃をかけてやろうかとハエ叩きを振りかぶり、しかし舌打ちを一つだけ零してロナルドは腕を下ろした。

    「つかテメェどこ行ってたんだよ。途中から消えやがって」
    「だっていつものポンチ共ばっかりだったし。特に目新しい新鮮な醜態も見れなさそうだったからな」
    「今からテメェを目新しく新鮮に殺せばいいのか?」
    「いいわけあるかボケナス」

    ロナルドはドラルクからいつもより二歩離れて歩く。なんとなくつまらない気分だった。ガサガサ音を立てるビニール袋を見るとはなしに見ると、丁度こちらを見ていたドラルクと目が合った。

    「これ気になる?」
    「別に」
    「拗ねるな拗ねるな」

    ジャーン、と奇妙な節回しで言いながら、ドラルクは二歩詰めて小型の白いビニールを広げる。

    「……鳥のエサ?」
    「アホ、ポップコーンの種だわ」
    「こんだけしかないじゃん」
    「煎ると膨らむんだよ。火の使えない野生動物は知らんだろうが」

    手のひらサイズのビニールに入った乾燥トウモロコシを指し、ドラルクは鼻で笑った。間髪入れずロナルドの拳が飛ぶ。

    「知ってるわボケ。前に作ってただろ。そん時はもっといっぱい買ってたじゃねぇか」

    以前ヒナイチや半田と共に映画上映会をしたことを思い出しながらロナルドは言った。ドラルクが再生するのに合わせて、ロナルドはまた少し離れる。汗臭いとは思われたくなかった。

    「ゴリラ一人前ならこんなもんだろ。あんま量買っても湿気ちゃうからな。今夜食べきるんだし」
    「今夜」

    ロナルドは呟いた。今夜。何か約束をしただろうか。慌てて最近の記憶をひっくり返すが、思い当たることはない。
    この十日間ほど、ロナルドはひたすら吸血鬼を退治し、家に帰って泥のように眠るのを繰り返していた。ロナルドの仕事が終わっても、ドラルクはまだ起きている。それでもろくに会話も出来ずにロナルドは眠った。連休で時間が出来たからと依頼されるご家庭の下等吸血鬼退治は、空いている昼間に行うことになる。それに合わせて動くためにも仮眠が必要だった。
    ゴールデンウイークにロナルドはドラルクとほとんど話していない。何かの約束などできるはずがなかった。

    二人が交際をはじめて、まだ1か月だというのに。

    「サプライズだサプライズ。せっかくゴールデンウイークだし、映画の上映会でもしようかと思い立ってね」
    「……せっかくの、ゴールデンウイーク」
    「なんだ、知らんのか? 元々ゴールデンウイークは映画の興行成績を上げるためのキャッチコピーだぞ。ホワイトデーとかとは違って、いまいち商業的じゃない形で名前だけ定着しちゃったけど」

    罪悪感の呟きを疑問形と取ったのか、ドラルクは指先をくるりと回して答えた。
    ポップコーン入れは前買った紙のやつの残りがある。ネズミーのバケットを洗って使うのもいいな。後はホットドッグでも作ってやろう。ジュースはヴァミマで買っていこうか。
    ドラルクが楽しげに話しかけてくるが、ロナルドの頭にはあまり入ってこなかった。

    (ゴールデンウイークはちょっと遠出して飯とか、遊園地とか)

    そういうことをするつもりだった。
    紆余曲折あってドラルクに泣きながら告白した日から、もう1か月だ。
    最初の1週間は恥ずかしくて、目が合っただけで奇声を上げてドラルクを殺していた。
    次の1週間はギクシャクと、なんでもなく振る舞おうとしてぎこちなくなった。
    ようやくロナルドが落ち着き、慣れないながらも恋人として振る舞おうと決意したのが2週間前。ゴールデンウイークに突入し、家でのドラルクとの会話が消滅したのとほぼ同時だった。

    (俺、こいつとどうやって話してたっけ)

    口喧嘩ならできる。でもそれは恋人との会話ではないだろう。
    ドラルクは、ゴールデンウィーク中ずっと放っておくような恋人と付き合っていて楽しいのか。気の利いたデートとか、甘い言葉とか、ロナルドの知っている善き恋人というのは、そういったものを惜しみなく相手に与えられる存在だ。ロナルドにはとてもできないような、そういったものを。

    「オイ聞いてるかおねむゴリラ」

    気が付けばドラルクが目の前で手を振っていた。ロナルドはハッと足を止める。

    「マジで疲れてるならドラドラちゃんプレゼンツ・オールナイトクソ映画上映会は延期するけど」
    「結局見んのはクソ映画かよ」
    「そうだが? B級、C級、Z級の映画をシャッフルして1枚ずつ引いていくロシアンルーレットだ。ちなみにZ級排出率50%! ヒリつくねぇ」
    「……なにが楽しいんだそれで」
    「わびさびを解さんガキめ。クソつまらんのが楽しいんだろうが。働きアリは3割が働かんというが、映画業界はこれだけの名作ならざるバッファを抱えているんだぞ。そう思いながら見ると、順当な大作というもののありがたみが更に増すだろう」
    「こんな俺と付き合ってて」
    「タイム」

    ビニールを提げたままの腕で、ドラルクはTの字を作った。

    「え、なに、そういう話? ゴメン私なんか文脈読み違えてた?」
    「俺、お前になんも、恋人らしいこととかできてなくて。ここ最近、お前のこと仕事の邪魔してくる移動式のうるせぇサンドバッグくらいに扱ってたし」
    「それは畏敬の念をもって改めろ。いやそうじゃなくて」

    ドラルクはそこで言葉を切った。視線を左下に向け、少し黙ってから俯くロナルドを覗き込む。ドラルクは軽く笑ってみせた。

    「そもそもスマートに恋人らしい運びを期待するんなら、君とは付き合わなくない? 童貞のハムカツ男が付き合い始めてすぐ歴戦の色男になるわけないだろう。そんな分の悪い賭けは私ならしないね」
    「そう、だよな。誰も俺なんかと」
    「オアーッ! ネガティブゴリラ! いつもはここまでヤバくないだろ、疲労のせいか?」

    ロナルドの両こぶしは体の脇で固く握られている。ドラルクは慌てたようにロナルドの頬を両手ではさみ、その目を覗き込んだ。

    「あのな、私は自分の嫌なことなんかできないの! 労力を払うのはやりたいことのためだけ! 伊達や酔狂で人間の男と付き合わないし、付き合いはじめなのにクソ忙しくなって露骨にしょんぼりしてる若造のご機嫌取りのためにおうち映画館デートも提案せんわ!」

    三白眼を大きく開き、ドラルクはそう叫んだ。白手袋越しの手の平に包まれ、ロナルドは青い瞳を見開く。ぎゅっとその目を瞑り、ロナルドは首を竦めるようにして更に下を向いた。

    「……ングッ、ふふ……」
    「ハ? なに笑ってんだクソガキ」
    「お、おうち映画館デートって単語がすげぇ洒落臭ぇから……」
    「ぶっ飛ばすぞカス!!!」

    即座に青筋を立てたドラルクは、そのままロナルドの頬を横に引っ張った。ドラルクには幼稚園児並みの握力しかないので、ロナルドがくつくつと笑う口の動きは妨げられることもない。

    「ハー、信じられん。善なるドラドラちゃんの心が弄ばれた」
    「ち、ちが……嬉しいぜ? おうち映画館……ンヒヒ……」
    「あったま来た、デビルシャーク懲役4時間にしてやるから覚悟しろよ」

    それでもなお笑い続けるロナルドに、ドラルクは呆れて手を離した。
    だって本当に嬉しいから、そんな目で見られても笑い止むのは無理だった。

    「なあ、ポップコーンは俺一人分?」
    「そうだが。どうしてもネズミーのポップコーンバケットが使いたいなら自分で洗えよ」
    「ジョンの分は? 今も居ねぇけど」
    「……ジョンには先におやつ作ってあるし。今日は早めに寝るって」
    「そう頼んだんだろ、おうち映画館デートだから」
    「そうですけど!? 調子乗りおって貴様、さっきのしおらしいのは何だったんだ」

    ドラルクはブツブツと不満を言いながら顔を逸らし、ビニール袋の紐をいじる。
    ロナルドは目尻を拭い、すんと鼻をすすった。動揺を隠せずビニール袋をより合わせる白手袋を掴んで引っ張る。うわ、とか、そういった格好の付かない悲鳴を上げて倒れ込む吸血鬼にわざと鼻先をぶつけて、

    「おうち映画館なら上映中にチューしてもいいか?」

    塵になって地面に散らばるロナルドのことが大好きな恋人に向けて、そう笑いかけた。
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    sirokuma594

    DONE200年物のメッセージボトルがようやく退治人の元に流れ着いた話
    #ドラロナワンドロワンライ一本勝負 (@DR_60min)よりお題「海」で書かせていただいたものです。
    純情inボトル、onペイパードラルクが初めて手紙を書いたのは、8歳の時の海辺でのことだった。

    流れる水の傍というのは、吸血鬼にとって昼と同じくらい恐ろしい。虚弱なドラルクであれば尚更だ。人間の子供であっても海の事故は多いという。当然、心配性の父母はドラルクを海になど連れていきたがらなかった。

    「おじいさま、あれはなんですか?」
    「手紙。瓶に入れてどこかの誰かが流したの」
    「てがみ! よんでみたいです」

    偉大かつ子供のような祖父の腕に抱かれ、ドラルクは海辺の綺麗な小瓶を指差した。夜の砂浜に動くものは二人の他になく、曇り空の果てから真っ黒な水が唸るように打ち寄せる音だけが聞こえていた。
    ドラルクは祖父に似て好奇心が旺盛だった。血族には内緒の二人きりの冒険にも当然付いていく。手紙入りの綺麗な小瓶も当然欲しがった。祖父はキラキラと期待に満ちた孫の顔を見て、裾が濡れるのも構わずにざぶざぶと波打ち際を歩いて行った。祖父の大きな手の中に収まった透明な丸い瓶を見て、ドラルクはさらに目を輝かせた。
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    東野文風

    DONE #ドラロナワンドロワンライ一本勝負
    @DR_60min
    第11回目『バトル』で参加させて頂きます(+10min)
    できてる本編ドラロナで糖度はあっさりめ。ドさんが捕まって闇コロシアムの賞品になったり、殴り込みに来たロくんがスケスケの衣装を着たりする話です。よろしくお願いします!
    催眠かセロリでも持って出直してこい ――やたら華美で豪奢な前時代的なコロシアムの中に、観客たちの歓声が湧き上がる。
     円筒形のケースの中に博物館の展示物のように押し込められたドラルクは、冷めた気分で最上階から見える景色を眺めていた。頭上の空気穴は砂粒を通さないようにきめ細かいメッシュが貼られており、適当に壁を蹴った反作用死で脱出を試みることは難しそうである。
    『それでは、本日の豪華賞品を求める勇敢な挑戦者を――』
    「はー……」
     つまらない気分のまま、ため息を吐く。自分が賭ける側になったり実況席に座ったりするならともかく、ただただ身動きできない賞品のように扱われるのは面白くない。
     スピーカーから聞こえる実況はスルーしつつ、反対側に見えるVIP席らしき場所へ視線を向ける。「悪い吸血鬼が私有地に潜んでいる気がするから調査して欲しい」という、やや具体性に欠けた依頼を事務所に持ち込んできた人間が一人、その男に露骨にゴマすりされてふんぞり返っている吸血鬼が一人。どうも自分たちはまんまと嵌められたようであった。
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    sirokuma594

    DONE200年物のメッセージボトルがようやく退治人の元に流れ着いた話
    #ドラロナワンドロワンライ一本勝負 (@DR_60min)よりお題「海」で書かせていただいたものです。
    純情inボトル、onペイパードラルクが初めて手紙を書いたのは、8歳の時の海辺でのことだった。

    流れる水の傍というのは、吸血鬼にとって昼と同じくらい恐ろしい。虚弱なドラルクであれば尚更だ。人間の子供であっても海の事故は多いという。当然、心配性の父母はドラルクを海になど連れていきたがらなかった。

    「おじいさま、あれはなんですか?」
    「手紙。瓶に入れてどこかの誰かが流したの」
    「てがみ! よんでみたいです」

    偉大かつ子供のような祖父の腕に抱かれ、ドラルクは海辺の綺麗な小瓶を指差した。夜の砂浜に動くものは二人の他になく、曇り空の果てから真っ黒な水が唸るように打ち寄せる音だけが聞こえていた。
    ドラルクは祖父に似て好奇心が旺盛だった。血族には内緒の二人きりの冒険にも当然付いていく。手紙入りの綺麗な小瓶も当然欲しがった。祖父はキラキラと期待に満ちた孫の顔を見て、裾が濡れるのも構わずにざぶざぶと波打ち際を歩いて行った。祖父の大きな手の中に収まった透明な丸い瓶を見て、ドラルクはさらに目を輝かせた。
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