「――――*カズデルスラング*」
「死にたいのか?」
寝入りばなに唐突に聞こえてきた罵倒に反射的にベッドの下の刀へと手が伸びるが、指先が触れた本の背表紙に今自分が置かれた状況を思い出し脱力する。その行動を止めるでもなく、傍らの男はぽつりぽつりと言葉を続けた。
「直訳だと『角に枕が刺さった間抜け』で合ってる? 枕とかテントとか訳せるけど」
「……言い伝えが正しければ枕でいい。数百年は前の、臆病者の王の伝説だが」
夜襲にあった際、豪奢な枕に角が刺さって身動きが取れずそのまま首を落とされた王の話は野営地では鉄板の笑い話だった。あそこで育った子供なら誰だって知っている、他愛のない昔話。焚火に照らされた誰かの笑う声は鮮明に思い出せるというのに、しかしその話を最初に誰に聞いたのかをエンカクはとうの昔に思い出すことができなくなってしまっていた。
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