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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。服屋の店員うきとバーテンふちゃ。いつも同じものしか書かない😅

    #PsyBorg

    夕陽を反射して眩しいショーウィンドーに並ぶのは馴染みのない洒落た服を着たマネキンで、それらが俺には一生買うことのないような信じられない金額の服であることは想像に容易い。いつものようにチラとそれを見るだけで通り過ぎようとした俺は、目の前のガラス扉が開いて金持ちそうな女性が出てきたのを慌てて避けて「すみません」と声を上げた。驚いて立ち止まったその女性の後ろから出てこようとした人が「わっ」と小さく叫んで、自分の声を恥じるように口元を押さえて「ごめんなさい……」と謝る。
    「すみません、大丈夫ですか?」
    「ええ、私は大丈夫。ごめんなさいね浮奇くん、急に立ち止まってしまって驚いたでしょう」
    「いえ、ごめんなさい大きい声を出しちゃって……ふふ、びっくりしたぁ。お兄さんもすみません、わざわざありがとうございます」
    「……あ、いえ……怪我がないようで良かったです」
    くすくすと笑みを浮かべ、その人は持っていた紙袋を女性に渡した。「また近いうちに。お待ちしております」と言っているのを見るに、どうやらショップの店員だったようだ。女性はその人と俺に数回会釈をして通りに出ると止まっていた車に乗り込んだ。思った通り、金持ち。怪我をさせていなくて良かったとホッと息を吐いた俺に柔らかい声がかけられた。
    「本当に大丈夫でしたか? どこもぶつけてない?」
    「……ああ、俺は大丈夫です。……ええと、お兄さん? お姉さん?」
    「……どっちがいいですか?」
    「選べるのか。……綺麗なお兄さん、かな」
    「ふふ、綺麗だって思ってくれるの? ありがとう。それで、お兄さんはどこか向かう途中じゃない? いつもこの時間にここを通るよね」
    「……ああ、すぐそこの店。バーをやってて」
    「んー、なるほど。……これも何かの縁だし、もし迷惑じゃなかったら後で店を閉めた後行ってみてもいい? お酒、好きなんだ」
    「……もちろん。待ってる」
    ショップカードを渡すと彼はそれを受け取り可愛らしい笑みを浮かべた。細く白い指の先はネイルが施されていて、頭のてっぺんから指先まで美しいんだなとわずかに見惚れる。
    「それじゃまた後で。お仕事頑張ってください」
    「……ああ、そっちも、仕事頑張って」
    「えへへ、ありがとう」
    ひらりと手を振られ、頷きを返して俺は店に向かって歩き出した。いつもより遅くなってしまったから急がないといけないのに俺の意識はすっかり彼に奪われていて、開店準備が間に合わずオープンを遅らせた。もとよりこんな早い時間から入ってくる客はいないから誰に文句を言われることもなく済んだのはよかったけれど。
    一度裏に引っ込み、冷たい水で顔を洗う。仕事は毎日の積み重ねだ。どんなお客様も疎かにはできない。改めて店に出た俺はいつも通りに仕込みを始め、ルーティンの中に入ってようやく落ち着きを取り戻した。
    しばらくするとパラパラと来店も増えてくる。常連の小説家がお気に入りのエナジードリンク風味のカクテルを作っているところで再び入り口の扉が開き俺は顔を上げた。
    今日、扉が開くたびにそこに現れるのを待っていた例のショップ店員の彼がそこにいて、俺と目が合うとにこっと微笑みを浮かべた。いつも通りになっていたはずの俺の思考は一瞬で彼に乗っ取られる。
    「こんばんは。雰囲気が良くて素敵なバーだね」
    「……本当に来てくれた」
    「本当に来るよ。社交辞令だと思ってたの?」
    「いや……俺があなたが来てくれることを望み過ぎてたから、来ないくらいが現実だろうと、予防線を張ってて……けど、来てくれて嬉しい。いらっしゃい、こんばんは」
    「……、……正直者」
    ぽつりと呟いた彼はさっきまでの余裕のある表情ではなく目元をわずかに赤く染めていて、拗ねたような目で見つめられると心臓が跳ねた。空いていたカウンターの端の席に案内し、出し忘れていた常連へのカクテルを先に出す。
    「ねえふーちゃん、あの人知り合いなの?」
    「あー……知り合いというか、今日知り合ったというか……もっと知り合っていきたいというか」
    「わお、とうとう春だ?」
    「……からかうな」
    「からかってないよ、おめでとう。うまくいくことを祈ってる。何か面白いことがあったら教えてね」
    「ネタにする気満々」
    「いつでも大歓迎」
    「遠慮しとく。ごゆっくり」
    好奇心を隠しもしない常連にひらりと手を振り、俺は再び彼の元へ戻った。店の中を見ていた彼は、声をかける前に俺のほうを向きふわりと目を細めた。
    「本当に素敵なお店。雰囲気もいいし、店員さんも可愛いし」
    「かっ、……それ、は、褒め言葉?」
    「もちろん。ねえ、何かおすすめのカクテルをもらってもいい? ビールは少し苦手だけど結構なんでも飲めるから、お兄さんの得意なやつで」
    「……ファルガーだ。ファルガーオーヴィド。あなたは、……たしか、浮奇?」
    「……そう、浮奇ヴィオレタだよ。ファルガーさん、……あの人はふーちゃんって呼んでなかった?」
    「ああ、常連はそう呼ぶやつが多い。特に深い意味もないあだ名だよ。浮奇も好きに呼んでくれ」
    「……いいの?」
    「……ああ」
    ただのあだ名だ。常連は誰でも呼んでいるし、実際深い意味はない。初めての客にそう言ったことは、ないけれど。
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