おやすみ夜がやってきた
生き物たちは皆自分の住処へ帰り、世界に等しく訪れる夜を静かに過ごす。
彼もまたその1人
草原地帯の端、かつて誰かが残した小さな洞穴で今日も寝床を整えていた。
「…………よし」
たくさんの藁を包むように布をかけた簡素な寝床、傍には小さなランタンと明かりのロウソク。掛けているケープにとろとろと温かな光があたり、出来た影が風で少しだけ揺れていた。
「ーーーー、ーーーー、、」
表から何やら聞こえてくる。
「ああ、またか
…………おいで、こっち」
見に行くと、数匹の蝶がうろうろと飛んでは何やら話をしていたようだ。
陽が落ちる前に温かなところへ行けなかったのだろう、これからどうしようかと算段をしているところを中に招かれて揚々と奥へ入っていくではないか。
「(この子らが迷子ということは、まだ他にもその辺に居そうだな…)」
蝶々達用にひとつ灯りを置き、遮光蓋付きのランタンを手に外へ出やる。
中の灯を遮りながらぴかぴかと合図のようにしてやれば、ほら、また迷子がひとり。
「ダメじゃぁないか
暗くなる前に帰らないと」
小さな迷子のマンタは男の周りを2周ほどしては髪や服をつついて甘えた。
男はこうして、夜目の効かない生き物を招いては共に夜を過ごすのだった。
いつからだったかこれが日課となっていた。
決して寒い訳ではないし雨が降ろうと生き物たちは割と平気だが、どうにも放ったらかしで自分だけ眠るのは落ち着かなかったらしい。
遊ぶように傍を飛ぶマンタに、時折つつかれながらも他に帰りそびれた生き物が居ないかぐるりと見て回った。
…うん、大丈夫そうだ。
帰ろうか。
今夜のお客は3匹の蝶と1匹の子マンタ。
そろそろ灯りを消すよ、さあ
今日もおやすみ