大学のレポート提出に伴う寝不足、抜けられないバイトの繁忙期、その上なぜかこういう時に壊れる移動手段の自転車。
シャルルマーニュはぐったりと肩を落として疲れを隠し切れないでいた。
普段ならどんなに疲れていようと恋人に良く思ってほしいと頑張るのだが、今日はそれすら出来ない。
よろよろと玄関の扉を開けてリビングへと向かうと、同棲している恋人がソファから身を乗り出して「おかえり」と言ってくれる。
その笑顔にふっと何かが落ちた気がした。
足早に近づくと、ソファに膝を乗せて勢いのままに抱きしめた。
ぎゅっと少し力をいれて肩に顔を寄せれば、シャンプーの香りなのかふわりと柔らかい匂いがする。
同じものを使っているはずなのに、自分の匂いとは違う立香の匂い。この匂いが好きだ。
しばらく堪能していると立香の手がシャルルマーニュの背中に回って抱きしめ返してくる。
「お疲れさま」
たった一言、それだけで力が抜けていく。
悪いと思いながら支えられなくなった体重を預けると、少しよろめいたものの立香はしっかりと支えてくれる。
自分がこんなに甘えただなんて知らなかった。
それを受け入れてくれることが嬉しいような恥ずかしいような、色々な感情が混じって何と言ったらいいのか分からない。
グルグルまじりあう感情を、とりあえずこれは幸福だとシャルルマーニュは確定した。
「っ……はぁー……」
もっとこのままでいたいとは思うけれどまだ今日やることはいくつもある。
立香だってそうだろう。
そう考え大きく深呼吸を一つして体を離せば、立香の手は背中から離れて両手でシャルルマーニュの頬を挟んだ。
「もう大丈夫?」
「ああ」
そう言うと、立香はその唇にキスを一つして立ち上がる。
何をされたか理解したシャルルマーニュが動き出す前にキッチンへと逃げると言った。
「ご飯並べるからちょっと待ってね」
「え……まって、もうちょっと」
固まったまま不満そうなシャルルマーニュに「あとでね」と悪戯っ子のように笑った。