「なんか、暇だなぁ」
忘れていた報告書の提出締め切り間際で余裕がないというのに、急にやってきた高杉社長はこちらの状況を説明するより先に勝手に人のベッドに腰かけて足を組み、よくだだでさえよくわからない話を勢いよくまくしたてていた。
しばらくは「えー」「すごーい」「そうなんですかー」という明らかに適当な返事でも、楽しそうに話してくれていたのだけれど、そんなものがいつまでも許されているはずはなく、どんどん声が不機嫌になりついには無言で寝転がってしまった。
言いたいことはいろいろあるし、ほんの少しだけは相手が出来なくて申し訳ないと思うけれど今はとにかく余裕がないのだ。
今のうちにと必死に報告書を書き上げメールの送信ボタンを押した途端、さっきの恐ろしい台詞が聞こえてきた。
暇。
今社長は暇だと言った。
その理由で、過去どれだけの大惨事が引き起こされただろうか。
思い返してぞっと背中が寒くなり、問題なくメールが送られたか確認するよりも早く社長の方へ首を回す。
それが分かっていたかのように、社長はこちらを見ながらの肘枕の姿勢でにやりと笑い、反対の手でブイサインをした。
一拍置いてからかわれたのだと理解して、ガクッと肩が落ちる。
ははは、と聞こえてくる笑い声に文句を言う気力もない。
「大丈夫。ちゃーんと反省してるから、大人しくしているつもりだよ」
にやにやと笑いながらの言い訳には何の説得力もなくて、つい言い返してしまう。
「しばらくは、でしょう」
「なんだ分かってるじゃないか」
悪びれもせずに楽しそうにそう返されては二の句が継げない。
言葉を失っている間に社長は体を起こしてベッドを降りると目の前にやってくる。
「さて、大人しくしているとは言ったが、実際暇で仕方ない」
言いたいことは分かるだろうと言わんばかりの態度で返事を待つ社長に、こらえきれなかった大きなため息が出た。
「もー……折角ですからシミュレーションルームでも行きますか?」
「そりゃいい、実演してくれるってことかい?それならアレが見てみたいね、ハロウィンの」
「お断りします! SAITAMAにしましょう」
「あそこは既に色々見たんだがなぁ。とはいえ、君と見て回れば以前とは違う面白いものに出会えそうだ。よし、善は急げだ」
「引っ張らないでください、転びます!」
手を掴んで引っ張られ、無理やり連れていかれながらも、これから起こる事への不安と期待に表情は緩んだ。