Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    sanga2paper

    少ないスキルとスタミナで創作に勤しむアカウント

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1290

    sanga2paper

    ☆quiet follow

    小説草稿
    エブリスタで選外になったので、こちらも公開にしました。草稿版です

    #創作スターシステム
    creationStarSystem

    オシツネサマ(仮) 曾祖母の遺した古い木箱。
     瓦礫の中から見つけ出せたのは、それだけだった。

     曾祖母は昔、霊能者だったという。
     木箱を背負い町を巡っては、自身に霊を下ろしたり、お告げをしていた。祖母は主婦だったが、曾祖母の教えを守り、遠出の時は木箱も持っていった。
    『オシツネサマは旅が好きだから、連れてかなきゃ。ウチを守ってくれる大事な神様。でも箱を開けちゃいかん。暴れてしまう』
     俺がむかし勝手に開けようとした時は、とんでもない形相で怒った。
     祖母から強く託されたものの、時々箱の中からカサカサ音がして気持ち悪いと、母は押し入れの奥に仕舞い込んでいた。

     奇跡的に箱は壊れていなかった。箱に巻かれた「禁」の紙も残っていた。
     だが海に攫われ外に放置されていたのだ、保たないだろう。開けたところで叱る人間もいない。最後に一度、中を見ることにした。
     「禁」の紙を解き、蓋を開ける。

     中に、布を巻いた汚いコケシのようなものが入っていた。楕円の頭には、横一線が彫られているだけだ。
    「……ショボい神様だな」
     こんな奴に家なんて守れるのか。いや実際、守れはしなかったのだが。
     と。
     コケシが起き上がった。
    「無礼者。ワシを誰だと思っている」
    「うわっ‼︎」
     流石に驚いた。

     コケシは自らを『オシツネサマ』と名乗った。自ら「様」を付けた。
    「お主がひ孫か。うむ、よく似ておる」
    「ひいばあちゃんなんて写真でしか見たことないから、わからねぇよ……その写真ももうねぇし。あの日」
    「何が起きたかは、わかっておる」
     コケシは下を向いた。
    「すまぬ。家を守れなんだ」
    「ホントにな」
     コケシは体に巻いた布の端をどうやってか持ち上げ、顔に当てた。
    「ワシは神だが、他所に訪い力を溜めねばならぬ。長年押し入れにいたワシは、もうチカラがない……ただのデクノボウじゃ」
    「そんだけ喋って何がデクノボウだ」
     大声を出しかけ、やめた。こんな木片にムキになるのは馬鹿らしい。
    「せめておぬしだけでも守りたい。だから今から旅に出るのじゃ」
    「ふざけんな‼︎」
     大声が出た。
    「大真面目じゃ‼︎ ワシは旅をせんとチカラが出ないのじゃ!」
    「知るか! 何もかも無くしたのにノンキに旅なんかできるかよ!」
    「おぬしにはまだ、ワシがいる! 必ず運を呼ぶから、まず出かけい!」
     自称神と怒鳴り合い、隣からうるさいと怒鳴られ、結局、奴を袋に入れて少し遠い店まで買い物に行った。
     感情的になったのは久しぶりだった。

     驚いたことに、その後すぐ再就職できた。
    「見よ、この霊験。さぁ旅に出るのじゃ」
    「仕事あるから行く暇ねぇよ」
    「では職場に連れて行くが良い」
    「絶対いやだ!」

     古ぼけた神様との暮らしは、こうして始まった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works