大丈夫?おっぱい揉む?「お疲れのようだな」
「あっ!おかえりなさい、Kェ」
「ああ、ただいま」
大きな鞄をとすんと傍のテーブルへと置き、留守を任せていた同僚へと声をかける。頬杖をつき背中を丸めるようにして座っていた富永は声をかけると同時にくるりと振り返り椅子から立ち上がる。
わざわざそこまでせずともよいのだが富永という男はそういうところで律儀というか真面目というか。
まあ、そんなところが好ましくもあるのだが。
富永が立ち上がったついでとばかりにううーんと伸びをすると小さくパキパキと骨の軋む音が聞こえる。
「大きな問題はなかったんですが件数が多くて。あ、でも丁度ひと段落したところっスよ」
「そうか。ご苦労だったな」
「いえ」
ねぎらいの言葉をかければにぱっと明るい笑顔がこぼれた。
「あとは俺がやっておく。今日は早めに休むといい」
「そうですか?でも片付けもあとちょっとだし……」
日中忙しくしていたために妙に目が冴えてしまい片付けをしながらクールダウンをしようと思っていたのだという。しかしやはりやや疲れが滲んでいるのははたから見ても明らかだ。
「ふむ」
どうしたものかというところでふと、ある男の話を思い出した。
これで疲れなんて吹っ飛ぶしイチコロだぜ。と。
「とみなが」
はい?と小首を傾げながら富永はこちらを見ている。
「疲れているのだろう。その……揉むか?胸を」
「はい!ありがとうございまうええええ⁈」
富永の素っ頓狂な大声が2人しかいない診療所に響き渡った。
「あの、いまなんて……」
「胸を揉むか?と聞いた」
「胸を」
「ああ」
「揉む」
「そうだ」
「なんでまた急にそんな……」
あまりにも突拍子もない言葉に富永はツッコミをいれることさえ忘れてマジレスをしてしまった。
「パートナーが疲れている時はこうするといいと聞いた」
疲れが吹き飛ぶからと。至極まじめな顔をして言うものだから困る。
「まァ、あながち間違っちゃいないけど。あとだいたい誰の入れ知恵かは想像がつきますけど。はあ……」
まず間違いなく彼の親友の仕業だ。絶対に。おおかた他愛もない会話の中で出た話題なのだろうがKにそんな俗世のふざけた冗談を吹き込んだらそりゃあ大真面目に実行するだろう。あんにゃろうめ。
あんた氷室さんに揶揄われたんですよ。そう告げると今度はだいぶ険しい顔をしていた。
「そういうのはおっぱいの大きい女の子が彼氏にやるもので……いや待てよおっぱいはデカいな?」
「それでどうする。揉むのか揉まないのか」
「え………………オネガイシマス」
散々突っ込んでおきながら、それはそれ、これはこれ。ありがたく享受することにした。
「そうか。わかった」
おいで、と広げられた両腕の中に飛び込んでめいっぱい深呼吸をした。
「はあああ……やわらか……僕もうここに住みたいです、K」
「気に入ってもらえたなら何よりだな」
しばらくは顔を擦り付けたりふにふにと厚く柔らかな胸板の感触を楽しんでいたようだが程なくしてすうすうと規則正しい寝息が聞こえてきたのでKは富永を抱え直し寝室へと足と向けた。