撤饌(おさがり) 目が覚めたからには起きなきゃならねえ。
本当はもう死んでて棺桶の中で腐ってんじゃねえかって妄想を夜ごと夢見るのだけど、カーテンの隙間から伸びる陽の手がやたらながくて眩しくて、おれの顔を横切るくらい長くて、いったい毎日毎日なにを必死に腕伸ばしてんだ、風になにか大事なモンでも飛ばされたのかといつも目を開けてしまう。
サボの唸り声が聞こえる、まだ寝てねえのか、いや寝て起きたのか、どちらにしてもあいつはあんまり眠らない、同じ家に住んでるのに生活リズムがいまだにわからねえけど大体元気にかわいいこと言って騒いでる、ルフィは耳栓して寝てるからおれがちゅーして服着替えさせてやるまで起きない、起きてる気もするけど、起きてねえって喋ってっから寝てんだろうなかわいい、一生家にいたらいい、しっかしサボはうっせえな、寝返りをうちあくびをする、眠り足りねえのかもな、なんでおれふたりと一緒に住んでるなんて思ったんだろう、ルフィは海に出てサボは死んでんのに。
今日オヤジのモーニングコールおれだったな、はやく行って点滴変えて、からだ拭いてやらねえと、オヤジのからだすげえデカくて、あんなデカくてつよそうな男におれもきっといつかなる予定で、だから背中いっぱいにオヤジをいれたんだ、おれの親はあんただけ、曇りも陰りも闇も黒もなにひとつないどこもかしこも真っ白なあんただけ、おれも真っ白に産まれたかった、何者でもない真っ白な、死ぬだけで大騒ぎされたりしないような、死んでみんなが喜んだりしないような、ああ眩しい、おれ生きてんのに体に穴開いたような気がする、街の中じゃ潮の臭いがしないさみしい、6メートル超えた人間なんかいるわけねえじゃんか。
今日のおれはどっちなんだ、どっちっていうのはどういう意味だ、わかんねえけど枕元にスマホがあるか電伝虫があるか、スマホってなんだでんでんむしってなんだ?とにかくどっちにしたっておれがはじめないといけねえ、おれがはじめて、サボがひっかきまわして、最後はルフィが終わらせるんだ、おれは絶対に終わりを見れねえけど、おれがはじめねえと終わらねえ、あいつが作った何かを、何か尊くて古臭くて、終わらない何かをルフィはきっと終わらせる。
そのはじまりがおれなんだ、何考えてんだろう、自分でも難しくなってきたからそろそろ二度寝してえところだがそうもいかない、はじまりのおれがルフィまで繋ぐにはまずサボに会わねえといけえねえ、だから起きなきゃならねえんだけど、今日あいつどうかな、おれの前じゃ大体にこにこしてるけどまたTikTokでわけわかんねえプロパガンダ垂れ流してたらいい加減パソコン窓から落とさねえとなんねえ、ああそうそう、今日はこっち、長高帽子を被らねえほうのサボ、ん?サボはそんなエセ紳士風のうさんくせえ帽子なんか被ったことねえのになんか想像しちまう、うう、似合ってねえな、嘘くせえもん、カップ麺お湯なしでガリガリ食っててゴリラみてえな握力してるサボが紳士なんて。
うわ軍歌が聞こえてくる、立ち上がれプロレタリアたちよ!!うらーっ!ってサボのクソでけえ声も食器割ってる音も聞こえてくる、毎日あいつはなにしてんだ、最近さみいからって酒飲んで革命ごっこばっかして、恥ずかしくねえのか、恥ずかしくねえよな親の保険金で一生働かなくて生きてける高等遊民だもんな、じゃあなんで革命したがってんだ、おれとふつうにメシ食って風呂入って一緒に寝るだけじゃ、ただのんきに息吸って吐くだけじゃ死んでる気がするのがサボってやつなのか。
「エースっ!今日こそワニだぞっ!熊ばっか飽きた!ワニ食いてえ!とっとと起きろよぉ~」
うるっせえなわかってるルフィ、じゃあ熊獲ったあとにワニな、朝からびいびい泣くんじゃねえ鳥か。
長くため息をつきながらゆっくり布団から顔を出すと、さかさまのサボの笑顔があった。
「エース♡今日デート行こう、昨日言ってたせんべい屋だっけ?クソも興味ねえけどついてってやってもいいよ♡」
サボのドタマにゴムの腕が貫通してる。
ばちっばちっとまばたきをする。
サボの頭にきらきらの朝日が反射してる。
何度まばたきしてもきらきらだった、よかったおとなのくせに生きてるかわいい。
布団をはぎ取られ胸ぐら掴まれて唇を噛まれたからしっかりめに目が覚めた、だっことかキスとか抜きあっことかした後全然離れてくれないサボを腰にくっつけたままルフィの部屋に向かった。