やさしい羽【中里と新美】「中里さん、図鑑を見せてください」と南吉が言った。私は快く承諾して、南吉を部屋へ招き入れた。
「どの図鑑が見たいのかね」
「あのね、鳥さんがのってる本が見たいの。鳥の羽根を拾ったから、どの鳥か知りたいんです」
なるほどよく見れば南吉の手には小さな羽根が一枚握られている。三寸ほどの茶色い羽根だ。私は彼を椅子に座るよう促して、図鑑を取りに本棚へ向かった。背中越しに南吉に尋ねる。
「その羽根は拾ってきたばかりなのかね」
「ううん。さっき鴎外さんとすれ違ったら、鴎外さんが羽根を拾ったのならちゃんと洗いなさいって」
「ほう、それで」
私は目当ての本を持って南吉のそばへ行った。椅子を引き寄せて隣に座り、机の上に図鑑を広げる。南吉は羽根を私にも見える場所に置き、図鑑を覗き込みながら話を続けた。
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