No,No,No,…Yes!「ねぇ、もう別れた?」
まるで世間話でも始めるような軽い調子の声が聞こえて、カインはそっと溜息を漏らす。
「……別れてないし、別れるつもりも無い」
「なぁんだ。一人だからやっと別れたのかと思って期待したのに」
隣から覗き込んでくる顔には、言葉にするまでもなく、つまらなさそうな表情が浮かんでいた。
薄暗い店内には落ち着いた音楽が流れていて、漏れ聞こえる客同志の会話が心地良い雰囲気を作り出している。知人の紹介で知ったこの店に足を運ぶうちに、店主とも仲良くなり、一人で飲みたい時にふらりと立ち寄れる場所になっていた。
「俺にだって一人で飲みたい時ぐらいある」
「ふぅん」
「それよりお前、また勝手に入ってきて、大丈夫なのか?」
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