モン・シャオフェイという男はとても素直だ。
実直、真っ直ぐ、清廉潔白…そんなものを絵にかいたような人間だ。
それでいて、ルールを外れる豪快さや、ちょっとしたルーズな面もある。おかしな好みや、愛嬌…それらがちょうど魅力として顕れるよりも、堅物になりそうな側面を崩しまろやかにして、まるで普通のそこらの誰かのように見せている。
もしかしたら損をしているのかもしれないが、おかげで俺のものになるまで誰の手もつかずにいてくれた。
彼を前にした時の、眩しさを愛しさを苦しさを理解するのはこの世で俺だけでいい。
その素直な男は、当然欲にも実に真っ正直だ。
とにかくシャオフェイの行動の一手目はキスだ。
もちろん、対タン・イーである場合のみであるが。
感動した。嬉しい。楽しい。
落ち着かせたい。触れたい。愛しい。
好き。
そんなどれもこれもが、まずキスでくる。
今ではすっかり慣れてしまったが、おそらくアレはキス魔の類だろう。
俺のいない場での深酒は禁止した方がいいかもしれない。
悪びれるでもなく、勝手なキスの後だろうが喜びでいっぱいの微笑みで見つめてくる。
もうだいたいそれで俺は全てを許してしまいたくなる。重症だ。自覚はある。
そんなシャオフェイのキスが…ここ数日まったくない。
何がおかしいのか俺以外には理解できないだろうが、とんでもなく異常な事態だ。
シャオフェイのキスがない。
そんなことはありえなかったのに。
何故だろう、どこか体調がすぐれないのか。悩みでもあるのか。…まさか俺に飽きたのだろうか。
まさかそんな…そう思うが、そう思う傍らで、あの素直な男が考えるより先に出ていたキスがなくなったということは…やはりそれは…と思う気持ちが止められない。
いやだ。そんなはずがない…。俺を離さないでくれ。
それでいて、ああ…なんだお前のその目は…。
まだ俺を好きじゃないか。
そんな目で見つめて、なぜキスをしてこない?
いつもならもう、この唇は奪われていて、幸せを集めたような笑顔が目の前にあるはずなのに。
「シャオフェイ…」
随分としゃがれた声が出た