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    桜餅ごめ子

    @yaminabegai

    このポイピクを見る者は一切の希望を捨てよ
    (特殊な解釈・設定を含む二次創作が多いのでお気をつけください)

    ◆個人サイト◆
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    POIPOI 256

    桜餅ごめ子

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    林檎を初めて食べた🥚のSS
    こちらのツイートのツリー(https://twitter.com/ri_04271027/status/1731359422574891508?t=ydyG1sib4LioFKqU_Mxs7A&s=19)から着想を得て書きました。許可ありがとうございます🙇‍♀

    ##全年齢

    ヴァニタスの林檎 排煙と火山灰で薄く烟る、ハルカンドラの夜空の下。不時着したローアの整備作業をしていると、今日のエナジースフィア探索を終えたカービィ達が戻ってきた。
    「ミンナ、オカエリ! 今日もおつかれサマ!」
     ボクは労いの言葉と共に、人数分の夕食と宿泊室を供した。食いしんぼうが二人もいるせいで全員お腹いっぱいとはいかないものの、それなりには満足してくれたようだ。ポップスターを発つ前に各自好きな間食を持ち込んでよいと伝えておいているし、足りない分はそれで補ってもらおう。
     ――今度はあのドラゴンをやっつけちゃっテヨ――そんなボクの嘘八百を、心優しき彼らはあっさり信じて、引き受けて。カービィ達は明日もまた、寂れた廃工場地帯へ向かう。
     火山に住まうあの竜の元を彼らが訪れる日も、ボクがあの冠を手にする日も――きっと、そう遠くない。

     静まり返ったローアのロビーにて。いずれ来たる戦いに備えて船を調整するため、ボクはコンソールを操作していた。すると、不意に背後から声をかけられた。
    「マホロア!」
     弾けるような明るい声。振り向くと、もはや見慣れた桃色の姿があった。
    「ヤァ、カービィ。どうかシタカィ?」
     騒がしい彼らがようやく就寝したから、心置きなく整備作業に集中できると思ったのに。そんな煩わしさが脳裏に滲む。しかしボクはそれを即座に引っ込めて、ニッコリと愛想笑いを浮かべた。いかにも、声をかけてもらえて嬉しいと言わんばかりに。すると、彼もえへへと朗らかに笑い返した。相変わらず、能天気な顔。
    「こんな夜遅くまでローアの整備してるの、大変だなぁって思って。だから差し入れ!」
     カービィはそう言うと、ボクに何かを手渡した。
     それは、初めて見るモノだった。
     ボクの手より少し大きい、丸みを帯びた物体。そっと撫でると、つるりとした固い感触が手袋越しに伝わってくる。
     何より目を引いたのは、その色。
     それは赤色をしていた。
     あの星で彼らの手助けをした時に見た夕焼けの、黄みがかった緋色よりも。
     今目の前で笑うキミの頬の、淡い紅色よりも。
     ずっとずっと鮮やかで、混じり気のない赤。
     ……何だろう、これ。
     そんな言葉が、思わず口からこぼれ落ちた。
     はっと息を呑む気配がして、咄嗟に顔を上げると、カービィが大きく目を見開いてボクを見つめていた。信じられないものを見るような、ひどく愕然としたような、そんな顔だった。しかしそれはほんの僅かな間のことで、ぱちりと瞬きしたら、カービィはやはり朗らかに笑っていた。
    「……出発する前、ウィスピーウッズにおすそ分けしてもらったんだ!」
     見間違いだったのかな。拭えぬ疑問を胸の奥に押し込めつつ、手のひらに収まる大きな球体を再度見つめる。
     ウィスピーウッズ。ローアのパーツの一つであるオールを持っていた、巨大な人面樹。カービィ達は、オールを取り返すためウィスピーウッズと戦った。カービィ達の戦いをモニター越しに監視していた際、ウィスピーウッズは木の実を武器として用いていた。よくよく思い返してみれば、その木の実は、まさに今ボクの手にあるこれと全く同じ色と形状をしていた気がする。その後、オールを取り返してきたカービィ達から話を聞いたところ、普段のウィスピーウッズは温厚な性格で、自らの枝に実らせた豊かな自然の恵みを、人々に与えているらしい。木の実といえば痩せて乾いた小さなものくらいしか見てこなかったものだから、ポップスターに宿りし生命の力強さには驚かされるばかりだ。
    「ワァッ、そうなンダ! アリガトウ、カービィ!」
     ニコニコと人好きする笑みを顔に被せてやれば、カービィもまた嬉しげに笑い返した。この木の実の使い道は分からないが、そんなことはさして問題ではない。カービィが純粋な好意でこれをボクにくれたことは、彼の表情を見れば明白なのだから。今はただ、にこやかに受け取ればいい。あとでこっそり廃棄なりなんなりすれば済む話だ。
    「皮をむいて切り分けるのもいいけど、ぼくはがぶっとまるかじりするほうが好きだなあ」
     カービィは頬に手を当てると、うっとりとした様子で宙を眺めた。口の端からよだれまで垂らしている。カービィのその様子から察するに、どうやらこの木の実は、食物として扱われているようだ。何でも食べられるカービィの言うことだから、あまり当てにはならないが。
     仮にこれが食物だとしても、口を付けるのは躊躇われた。ボクはすでに夕食を終えており、対してこの木の実は、夜食にするにはあまりに大きく、そしてずっしりと重かった。ただでさえ少食であるボクが、今これをたいらげるのは、おそらく難しい。食べ残してしまっても後処理に困るし、さりとて、これを食べるのを待ち望むかのようにボクをじっと見つめるキミの前で、食べないという選択もできない。
    「あ……、お夜食にはちょっと大きすぎたかな?」
     逡巡するボクの様子に気がついたのか、カービィはこてんと顔を傾げた。次いで、何でもないことのようにけらけらと笑う。
    「ごめんごめん! ぼくはいつもたくさん食べるものだから、つい……。食べきれなくても大丈夫、ぼくが食べるから!」
     任せて! 彼はそう言って、ぽよんと自らの胸を叩いた。その仕草が、その宇宙色の瞳が、初めて出会ったあの日のキミとオーバーラップする。つい最近の出来事のはずなのに、狂おしいほど懐かしい。ボクはその瞳の輝きから、逃げるように俯く。手元には相変わらず、赤くて丸い木の実がある。
     ボクはそっとその赤に口を付けた。手袋越しに感じたつややかさが、今度は唇に伝わる。まるかじりするほうが好き。彼はそう言っていたけれど、歯のない生き物であるボクにはどうにも難しくて。はむはむ、あぐあぐ。不器用に唇を這わせながら、どうにか皮の向こうにたどり着くと――、
     じゅわぁっ!
    「ン、ムゥ……ッ!?」
     果汁が口内に溢れる。甘くて酸っぱいくせに、ひどく清々しい。甘いものといえば、シロップ薬くらいしか知らなかったのに。酸っぱいものといえば、栄養補給用のタブレット剤くらいしか知らなかったのに。
     果肉が舌を撫でる。しゃりしゃりと耳をくすぐるくせに、ひどく心地良い。ジャリジャリするものといえば、口に入り込む砂塵や火山灰くらいしか知らなかったのに。
     甘くて、酸っぱくて。それなのに、べたつきもせず、刺々しくもなく。ただひたすらに、瑞々しい。
     こんなものがあるのか。
     こんなふうに、なんのしがらみも苦しみも与えず、ただ幸福をもたらすだけであれるものが、この世にはあったのか。
    「……なにコレ?」
     こぼれた言葉は、無愛想なほどに平坦だった。驚きが、愛想の良さも猫かぶりも、何もかも忘れさせていた。
    「おいしい?」
     そんなボクを気にもしないで、カービィはにっこりと笑う。慈愛に満ちた、穏やかで、柔らかな微笑み。
     瞬間、胸がざわめいた。
     カービィがボクを見ている。
     不快感が虫となって皮下を這いずり回る。
     夜空と海と星空の瞳が、ボクを見ている。
     嫌悪感が心の臓を腐らせていく。
     日々、ひとびとに向けられる笑顔が、今はボクに向けられている。
     なんだよ、その笑みは。
     心底ボクが愛おしい、そんな笑顔だ。
     瑞々しい果実の味を知らぬことがそんなに滑稽か。
     カービィはそんなふうに思うひとではない。
     自分は満たされるがままに生まれ育ってきたとでも言いたいのか。
     あの笑顔はそんな意味ではない。
     そんな顔でボクを見るな。
     嬉しい。
     ボクを嘲笑うな。
     もっと見ていたい。
     憐れむな、馬鹿にするな。
     もっと見てほしい。
     ボクを――、
    「マホロア?」
     激情の濁流に呑まれかけたボクの思考は、カービィの声で現実に引き戻された。彼の笑顔――いや、違う。ボクはただ、初めて食べた物が存外口に合ったから、驚いてしまっただけ。そうだ。ボクは旅人だ。よその土地の食べ物なんて、いつだって知らない物ばかりじゃないか。何を、何を今更。
    「コレ、おいしいネ! ボク、ビックリしちゃったヨォ」
     頭を掻く仕草と共に照れ笑いをしてやれば、カービィはホッとしたように息を吐き、そして笑った。
    「そっかあ」
     まるで、自身が褒められたかのように嬉しそうな笑顔だった。
    「ねえ、マホロア。ローアならポップスターに戻るのもひとっ飛びなんでしょ?」
     ポップスターを発つ前、ボクは彼らにそう説明した。異空間ロードを操る力を持つローアであれば、遠く離れた場所も容易く行き来できる。
    「ウン。ソウダヨ」
     ボクが肯定すると、カービィはボクの手を取った。
    「なら、ランディアとの戦いが終わったら一度ポップスターに戻ろうよ。それで、打ち上げパーティやるの! 一緒においしいもの、いっぱい食べよう!」
     ポップスターにはおいしいものがたくさんあるんだよ! カービィはそう言って、ボクの手を握ったまま、ピョンピョンとボールのように跳ねる。
    「ウン、分かったヨォ! とっても楽しみダナァ!」
     ボクが明るく答えると、彼はさらにはしゃいだ。
    「わぁい、やったー! 今のうちに食べたいもの考えとかなきゃ! なに食べようかなぁ? ピザも食べたいし、ケーキも食べたいしぃ、それに……、あ」
     カービィは夢見心地といったようすで料理名を次々羅列する。しかし不意にボクに視線を戻すと、赤い木の実を指した。
    「これね。りんごっていうんだよ」
    「……リンゴ」
     反射的にその名を復唱する。甘くて酸っぱい。それなのに、べたつきもせず、刺々しくもない。ただひたすらに、瑞々しい。ただひたすらに、幸福をもたらすだけであれるもの。
     それはまるで、キミのようだった。あの星に住まう、キミ達のようだった。
    「ぼくね、りんごが好きなんだ。このりんごが育つ、ポップスターが好きなんだ」
     りんごを持つボクの手に添えられた、カービィの小さな手。そっと握ると、ボクの手袋にくるまれて、覆われて、見えなくなった。
     ――ああ、そうだ。
     この桃色のように、何もかも全て、ボクの手の中に収めてしまえばいい。ボクのモノにしてしまえばいいんだ。約束の地も、夢の楽園も、キミも、全て。欲しいがままにしてしまえばいい。
    「いっぱいあるんだよ。おいしいものも、きれいなばしょも、おもしろいことも、たっくさん! ぼくね、ぼくの好きなものを、きみに知ってほしい。きみに教えたいんだ」
     そのためには、やはりマスタークラウンが必要だ。無限の力を手にした時こそ、ボクは満たされる。無限の力を得ない限り、きっとボクは満たされない。埋まらないジグソーパズルをずっと抱えて生きてきた。あの黄金の冠だけが、その欠落を塗り潰してくれるはずなのだ。
    「だから、さっさと終わらせて、みんなでゴハン食べよう!」
     さっぱりとした物言いで笑うキミに、ボクは笑みを返す。
     そうだね、カービィ。
     何もかも終わったら、宴を開こうか。
     そこにいるのは、ちっぽけな魔術師でもなければ、キミの友達でもない。全宇宙を支配する、覇王ただ一人だけだ。
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