「ーーーーー あ」
闇の中、言葉を発したような気がした。「気がした」というのは本当に自分で発したのか分からなかったからだ。意識はここにあるのに自分が自分じゃないような、どこまでが自分までなのかが分からないような不思議な感覚。
あれ?そういえば僕はどんなだったっけ?
分からない、いや…違う。「思い出せない」
名前も、自分がどんな人物だったのか、何故ここにいるのか、何故記憶を失ってるのか。
何も「思い出せない」
何かないのか、手探りで進んでいると、もふもふした何かにぶつかった。
「あっ白澤様だ!やっと見つけた!」
「えっと…君は?」
「シロ」と名乗るもふもふの塊は僕を探してここまで来たらしい。しかし真っ暗な場所を進んでいるうちに、方向が分からなくなり、途方に暮れていた時僕に見つかったようだった。「白澤」というのは僕の名前らしい。
「そっか…ホントに記憶を無くしちゃったんだね」
真っ暗のため姿を見ることは出来なかったけど、何だかションボリしているようだ。
「あっ!でも俺ね白澤様の記憶を取り戻す手伝いは出来るかも」
「本当かい!?」
どうやらシロちゃんは記憶を失う前の僕の事を知っているらしい。もちろん、記憶を取り戻すための方法も。
「それじゃあ行こっか。白澤様」
「行くって…何処にだい?」
シロちゃんは少しの間考えている様子を見せた後、食い気味に「白澤様の1番大切な人がいる所!」と言った。
「僕の…大切な人…?」
驚いた。記憶を失う前の自分にはそんな人もいたのか。家族か恋人か、もしくは友人か。その人について知りたいと思った瞬間、尽きることのない好奇心が湧いてきた。
「白澤様?」
しばらく考え込んでいると「何か思い出したの?」と声をかけられる。
「何でもないよ。行こうか、シロちゃん」
そう言ってシロちゃんを抱えると、彼が来たであろう方向へと歩き出した。