むかし、本当にむかし、隣のアパートには兄がいた。
オレには上と下に一人ずつ男兄弟がいるけど、それとは違った別枠の、血の繋がらない兄が。
近所の頭がいい高校に通っていて、毎朝早くに出て遅くに帰ってくる人だった。それでいてまだガキンチョなオレと仲良くしてくれてた、優しくて綺麗な人。オレはその人と遊べることにどこか優越感を抱いていて、すごく仲がいい友達にだってその人のことを話したことは無かった。兄弟にだって言わなかった。
その人はシュウって名前らしかった。初めて会ってから数ヶ月は経っただろうなってくらいの時に、お互いの名前を教えあった。名前を聞いてから暫くは、一人の時に口の中でころがすみたいにシュウ、シュウって確かめては笑ってた。なんだか、誰も知らない秘密を教えて貰ったような気がしたから。
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