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    岩藤美流

    @vialif13

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    岩藤美流

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    アズイデワンライ第21回お題「お菓子」お借りしました!
    なんかキャンディキスの話を書こうかなと思って、詳細を調べようとしたらマシュマロをちゅっちゅするとそれっぽい感じがするという記事が出てきたので、これアズイデちゃんでやってたらかわいいなあ、と思って書いてみました。
    なお全く描写してませんが、アズールもめえっちゃ練習はしてます。努力の君だもんね。

    ##ワンライ

    イデアはオルトがスリープモードに入ったことを確認すると、いそいそと机の引き出しに隠していた紙袋を取り出した。中に入っているのは、マシュマロとチョコレート、それにキャンディだ。なんのやましいところもないお菓子……なのだが。イデアはそれをこそこそとベッドの上に並べて、溜息を吐き出した。
     そう、これらはイデアにとっては、恥ずかしい品物……つまり、彼はキスの練習をしようとしているのだった。


     経緯を簡単に説明すると、イデアは部活の後輩アズールとお付き合いをする関係になった。アズールが了承してくれたのは奇跡だと思っているし、未だに彼が自分のことを本当に恋愛対象として見ているかどうかは怪しいのだけれど、とにかく、関係は築けたのだ。これまで、部屋デートのようなことや、スキンシップは繰り返してきた。次は、キスだ。年上であるからして、こういうことはイデアがリードするべきだろう、と思っている。しかし、やり方を全然知らない。
     そこで頼ったのがネットの知恵だ。キスをするにはまず清潔感、そしてムード、ダメ押しにテクニック。イデアは熱心に記事を読み漁って、念入りに歯磨きをするようになり、練習に踏み出そうとしていた。
     


     ふっくらとしたタコちゃんのぬいぐるみを抱いて、ハグの練習をする。ムードある抱き方をしながら、一人で顔を赤らめて、目を閉じていた。目を開けたらダメだ。シュールな状況を自覚すると、心が萎びてしまいそうだから。
     アズール氏、と名を呼びながら、タコちゃんを抱きしめ、撫でる。可愛いアズール氏、僕が幸せにしてあげるからね……などとよくわからないことを呟きながら、ベッドの上に用意していたマシュマロをそっと手に取って、おずおずと唇に押し付けた。
     なんか、ネットの情報によると、このムニムニした感じが、相手の唇によく似ているらしい。アズール氏の唇、こんな感じなのかな、むにむに……と、タコのぬいぐるみを抱きしめながらマシュマロに唇を押し付けている。冷静になったら負けだ。これはイメージトレーニング。経験値稼ぎ。レベリングは大切。そう、これはアズール氏の唇。イデアは頭をバグらせながら、妄想の世界へと潜り込んでいく。
     マシュマロの感触を覚えたところで、チョコレートを一欠片口に放り込む。コレを噛まずにとろけさせる感覚が、キスの快楽に似ている、らしい。何情報だよ。わからないけれど、イデアは目を閉じたまま、チョコレートのとろけていく感覚を味わう。キス……キスの快楽……よくわからん……チョコおいしい……。イデアはこれについてはさっぱりわからなかった。
     とりあえずマシュマロをちゅっちゅしたあとでムシャムシャ食べ、最後に手に取ったのがキャンディだ。ディープキスには練習が必須。まずは口内で舌を自在に操る技術が必要らしい。小ぶりなキャンディを口に含み、舌で転がす。
     ううん、なるほど、なるほど? このイチゴミルク味の飴ちゃんが、アズール氏の舌だと思って味わえばいいんですな? うん、おいしい。いや違う、味わうってそういうことではなくて、ディープキスの練習をですな……。
     そもそもファーストキスも未経験なのに、ディープキスの練習をしているのはいかがなものか。しかしイデア・シュラウドは人一倍、自分の『恥』について敏感な男である。アズールとファーストキスに及んだ時、「あなた、童貞らしくキスの一つもできないんですね?」と冷たく言われた挙句に振られたら、恥ずかしくてこの先生きていけない。そうならない為にも、いつキスをしても恥ずかしくない状況になっていなくてはいけないのだ。
     目を閉じたままタコちゃんを抱きしめながら、飴ちゃんを舐め、あんなことやこんなことを妄想しつつ、一生懸命頑張っていたイデアである。
    「イデアさん」
    「……」
    「イデアさんってば」
    「っ、わ、わあああああああああ!?」
     夢中になりすぎて幻聴が聞こえたのかと思ったイデアは、とんとん、と肩を叩かれて飛び上がった。いつの間にか部屋に来ていたアズールが、怪訝な顔でこちらを見ていた。
    「あ、ああああああアズール氏!? どうしてここにぃ!?!?」
    「どうしてって。先日言ったじゃありませんか、忘れて帰ったスカーフを取りに伺いますと。声をかけましたが、反応が無かったので合鍵で入らせてもらいました」
     タコちゃんをぎゅっと抱きしめたまま、イデアは目を白黒させる。そういえば、そんなこと言ってた気がする。ハッ! と目をやると、部屋の棚に、スカーフがきちんと畳んでおいてある。
     そうだ、前回の部屋デートで忘れて帰ったから、今度取りに行くって言ってた。僕が持ってくるって言ったけど、なんでか取りに行くって譲らなくて……。
     その日時をすっかり忘れていた。端末に予定を書き込まなかった末路だ。イデアは夢中で目を閉じてタコちゃん相手に飴玉を転がしているところを、アズールに見られたのだった。
    「ところで、あなた何をしているんです? そのぬいぐるみは?」
    「アッ!! あっ、これは、その、た、タコちゃんです」
    「それは見ればわかります。どうしてその、タコちゃんを抱きしめながらうっとりしてらっしゃったんですか?」
     なんてことを聞くんだ、絶対質問の答えわかってて言ってない? イデアはボッと髪の火が強まるのを感じ、顔も真っ赤にしながらタコちゃんに顔を埋めて、もごもごと答えた。
    「こ、これはその、つまり、あの、拙者が、一人寂しい夜に、自分を慰める用の……」
    「……? 自慰行為に用いていると?」
    「ち、違う違う! そういう意味っぽい字面だけど、そうじゃない!」
     誤解を招いたので顔を離して、アズールを見る。と、アズールの手がイデアの顎に伸びてきた。くい、と上を向かされるようにされて、はへ、と思っている間に、アズールの顏が近付いて、そのまま唇を重ねられる。
    「!?」
     目を見開いて逃げようとするのを、手が優しく留める。彼の唇の感触はマシュマロとは違ったし、キスの感覚は溶けたチョコレートでもなかった。開いた口に舌が侵入してきて、思わず飴を飲み込みかける。慌てて舌を動かすと、侵入してきたアズールの舌が、飴玉をさらっていってしまった。
    「……は、はへ……?」
     先程まで口に入っていたイチゴミルクの飴は、アズールの口内に行ってしまった。彼はと言えば、澄ました表情のまま顔を赤らめて、「甘いですね」と呟くと、イデアから離れる。
    「は……? え……」
     混乱で頭が真っ白になっているイデアは、アズールがサッと棚からスカーフを回収するのを、ボンヤリ見つめていた。
    「ごちそうさまです。また、週末に来ます」
     アズールはそれだけ言い残して、部屋から出て行ってしまった。イデアはポカンとした顔で、彼の消えた自室の扉を見ていたけれど、やがて「わあああああああ」と叫んで、タコちゃんに顔を埋めた。
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