似た者同士「今日も吸えなかったな………。」
耳を垂らしてとぼとぼと歩く二つ結びのサキュバスがそう呟く。
今日はイかせられたのに後もう少しのところで生気を吸うことができなかった。サキュバスは人間の男を誘惑し、生気を吸い取るのが役目。
それなのに彼女、らむはほぼ生気を吸い取れたことがない。
同僚からポンコツと言われることもある。
「ディラ、ただいま。」
自宅の扉を開け明るく灯る電光に照らされる。
すると奥からドッ…ドッ……と小さめに音を立てて巨体が近づいてくる。
「らむ、遅かったな。今日はどうだったんだ?」
赤と青が半分ずつあるニヤリと笑う悪魔がらむを心配そうに見詰める。
「今日も駄目だったわ…、」
気不味そうに苦笑いをする、無理もない。
毎日応援してくれるディライアに、また失敗したと報告するのは申し訳ない気がするからだ。
「大丈夫だ!明日はきっとできるぜ。」
にっこりと笑い彼女を励まそうと頭を撫でる。
「…………ありがとっ……!」
「ディラ、お腹すいたよねっ。今ご飯作っちゃうわね。」
歩いてキッチンまで行きながらそう伝えると、ディライアは嬉しそうに尻尾を揺らす。
「飯か、楽しみにしてるぜっ。」
袋から買ったものを取り出し冷蔵庫に閉まったりパッケージから出したりして夕飯の支度をする。
今の時刻は午前0時、普通なら皆寝静まっているか、こっそりとゲームでもしている時間だろう。
「ディラ、ディラは今日どうだった?何か話聞かせてよ。」
野菜を切りながらさっきより少し明るい顔で問いかける。
「今日はな、可愛い嬢ちゃんを捕まえたんだが……、生憎その嬢ちゃんには心に決めたやつっつーのがいるんだってよ。
でも俺ちゃんに付いてこようとしたから流石に断ったがな……。」
普段から外に居る子に話し掛けてはナンパしたりを繰り返している。
もちろん男女関係無く。
終いには一発ヤッてくるなんてこともあるくらいだ。
「訳ありなのかもねぇ……。
ま、そういうのには近づかないほうが良いわよ。」
フライパンに油をひくと『ジュワーッ』といい音が響いた。
「なぁらむ、今日の飯って何だ?」
その音を聞いて舌なめずりをする。
「ピーマンの肉詰めよ。」
それを聞いた途端尻尾を下に垂れ下げて怪訝そうに「うげぇ……」と声を漏らす。
「何よ、人肉食べていいわけ無いでしょ。
期待しちゃってかわいそーー。なんつて。」
「俺がピーマン嫌いなの知ってるよな?なんでいれるんだよ……。」
舌をべっと出して足を組む。
明らかに嫌そうな態度だがそんな姿は小さな子供と同じような感じがする。
「克服させたいからに決まってんでしょ。」
種をくり抜いたピーマンにひき肉を詰め始め、はぁ、とため息を吐く。
「俺は食いたくないっつってんだろー?」
ぷーっと頬を膨らませてらむを睨みつける。
彼女は特に動揺する様子も無くまた始まったと言わんばかりの顔をする。
「じゃあピーマンは私が食べるから半分の肉はハンバーグにしてあげる。」
それを聞くとにこーっと嬉しそうに笑い再度機嫌を直す。
「ホントは人肉がいいが………、今日はそれで我慢する!」
感情が高ぶったせいか思ったより声が出てしまった。
はっとして口元を抑える、そんな姿を見たらむは思わず吹き出す。
「ちょっとw何デカい声出してんのよw
あはははっw」
それを見てはつられてディライアも笑い出す。
そしてそんなことをしている間に夕飯が出来上がっているのだった。