春の訪れ、恋の始まり 四月某日。暦の上では春だが、春だと感じるにはまだ肌寒い日だった。
「行ってきます、父さん、母さん」
「行ってらっしゃい、玲太」
空港で父さんと母さんに見送られながら九年間過ごしたイギリスを後にした。日本の高校に通うため、四月の入学式に合わせた帰国だ。
「玲太、夏には帰るんだぞ」
「ああ……」
搭乗口へ向かう時、父さんからの一言に小さく頷いた。九月が新学期のイギリスから四月が新学期の日本の高校へ通うことは、入学手続きも大変だった通り簡単な話ではない。だから、父さんにも夏にはイギリスに戻るように言われていた。俺に与えられた時間はほんの僅かだった。その僅かな時間で気持ちの整理をつけなければならない。
飛行機に乗ると、いつか彼女に渡そうと決めている髪飾りをポケットから取り出して見つめる。彼女がいつも身に着けていた髪飾りとよく似たものだ。
1838