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    runrun1155

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    runrun1155

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    初恋アンソロに寄稿したものです
    オンリー本当にありがとうございました!

    初恋の味「初恋の味、ってどんなのでしょう?」
    咲也の言葉に一成が反応を示せば、談話室の中はその話で持ちきりになった。
    「なになに?サクサクがそういうのって珍しくない!?」
    「は、はい。客演の台本の中に出てくるセリフなんですけど……なんか今一イメージがわかなくて」
    「ん〜たかし!やっぱりそういうのは大人に聞くのが一番っしょ!フルーチェさんとかアズーとか!でも他のみんなにも聞いてみたいよねん!」
    そんな感じで速攻で一成の矛先が向いた左京さんがため息をつく。
    「あ?何くだらねぇ事言ってんだ……」
    「ふふ、でも咲也の演技の参考でしょ?教えてあげたら?」
    「私も聞いてみたいです!」
    「てめえら……」
    東さんが微笑みながら言えば、監督ちゃんも乗っかって左京さんの眉間のシワが濃くなった。
    何だかんだで恋バナ、の類は盛り上がるので時折こんな風に話題に上がる。
    初恋の話は前にしたことがあったな。
    俺はないって答えて、兵頭も同じような返事をするのをみてなんだかひどく安心したのを覚えてる。
    アイツに限ってあるはずないと勝手に思ってたけど、やっぱりそうなんだってのがわかって人知れずほっとしたわけだ。
    そんな感じであいつの一挙一動が気になって、もどかしくて、ドキドキして、嬉しくなったりしてずっと俺はこいつに初めての恋をしている。


    「お前は初恋の味って、なんだと思う」
    「あ?」
    部屋に戻ったあと雑誌のスイーツ特集と睨めっこしてたと思ったら、急に兵頭がそんなことを聞いてきた。
    「なんだよいきなり」
    「咲也がみんなに聞いてたやつ、レモンとかカルピスとかバラバラでよくわからなかった」
    「まぁそりゃみんな違うだろ」
    「なんでだ?」
    こてんと小首傾げんな可愛いから。
    「そういうのって思い出と紐づいてることが多いんじゃねぇの?好きなやつと一緒に飲んだ飲み物とか、食べ物の味とかそういうの」
    「あぁ、そういうもんか。じゃあお前は?」
    「まだ聞くんかよ」
    「だめか?」
    「ダメじゃねーけど……つか前に話してたろ。初恋とかなかったって」
    「あぁ、俺もそう答えた」
    「お前が初めてだからよくわかんねぇ……っつか正面切って聞くか?って話だよ。つうか聞きてぇならお前も言えよ」
    「わかんねぇ。俺も、摂津が初めてだし」
    「……そうかよ」
    味、って言われてもピンとはこねぇ。
    強いて言えば血の味だ。地面に転がって、動けないままアイツを見上げた時に口の中に広がった味。ポートレイトを見た時に、それを思い出した。
    焼け付くような痛みと強烈な衝撃と、世界の上書きの味。
    けどそれが恋のはじまりって言うにはあまりに物騒でロマンがねぇっつうか、ぶちのめされた時のこととか負けたと思った瞬間のこととかあんまり本人の前でいいたくねぇだろ。
    とかモヤモヤ考えてたらいつの間にか兵頭の顔が近くにあった。
    「?」
    小さな口の中と舌が見えたと思ったら、頬の辺りを、舐められた。
    「……はぁッ!?」
    思わず後ずさりして自分でも動作の俊敏さに驚いてると兵頭が何とも言えない表情で呟く。
    「味がねぇ」
    「あるわけねぇだろーが!っつうかなんで舐めた!?」
    俺がばくばくする心臓押さえながらなんとかそう返すと、兵頭は途端に神妙な顔になった。
    「……そりゃそうか」
    こいつのこと好きだけど、普段はわかりやすいって思ってるけど、時々飛び出す行動は俺の予想を完全に振り切ってる。ほんっとなんもわかんねぇ。斜め上すぎる。
    「お前しか知らねぇから、こうしたらなんかわかるかもしれねぇって……いや、確かになにやってんだ俺は……」
    本当に衝動的にやっちまったらしく正気に戻った途端に赤くなって小さく体丸めてる姿がかわいくてなんかもうどうでも良くなる。
    「正しいかはわかんねーけど、確かめるんならどちらかっつったらこうだろ」
    そうしてちょん、と唇を触れ合わせてから塞ぐと、少し驚いたような素振りをした後そのままそっと体を預けてきた。
    その重みが嬉しくて、ぎゅっと抱きしめて飽きもせずに唇を戯れみたいに触れさせるのに夢中になって、2人とも無言になる。
    しばらくしてそれが離れると、息を吸いながら兵頭がぽつりと呟いた。
    「……コーヒー」
    「ん?」
    「初めてした時、コーヒーの味で苦かった」
    「あー、部屋ん中だったっけ」
    なんていうか、付き合い始めていつどんな風にキスするのかはかりかねてずっとタイミング窺ってて、最高で記憶に残るシチュエーションでキスするって決めてたはずなのに、結局のところ不意にキスしたいって衝動に逆らえずにプリン食べてた唇を塞いだんだった。
    今思い返してもだせぇなって思う。ほんとこいつ相手にはいつも上手くいかないことばっかだ。
    「……その時は驚いたし、苦かった、けど、キスは……嫌じゃなかったし、コーヒーの匂いも今は結構、好きかもしれねぇ」
    「……そりゃよかった。お前の口ん中もいっつも甘ぇけど、なんかそれが逆に良いって思うわ」
    俺の言葉に兵頭は少し考えるような顔をしてから、ぽつりぽつりと呟いた。
    「……知ってる味だが、それだけでもねぇし、ずっと変わってってる、気もする」
    それは曖昧にも思える表現だったけど、俺には何がいいたいのか伝わった。
    覚えている味や思い出の端に残る味はある。けど、いつも同じ味じゃない。
    喧嘩した時、仲直りの時、嬉しい時、なんかたまらない気持ちの時、全部味が違う。
    多分それは恋がずっと続いているからで、同じ日がないからで、それはきっとたまらなく得がたく尊いことなんだろうと思う。
    だからそんなの一言で言い表せるわけない。
    大事なそれを重ねて、ふたりでゆっくりしっかり味わって確かめたい。 
    「せっつ……もう一回」
    もう一度確かめたいのか、純粋にしたいのかはわかんねぇけどこうやって素直にねだられれば応えない理由はない、けど。
    「キスだけ?」
    俺がそう言うと兵頭はぐっと息を止めて、口元をもにもに動かした後ぽつりと言った。
    「……すけべ」
    「うん」
    素直にそう応えれば元々込めてたらしい期待を隠すのもバカバカしくなったのか、するりと腕を回して抱きついてきた。ほんと可愛いやつ。
    そんなことを思いながらもう一回口付ければ、やっぱり兵頭の口ん中はなんか甘かった。
    この味も、俺より高い体温も、伝わってくる鼓動も、一日だって同じことなんかない。
    毎日違って、毎日好きになってる。
    俺はそんな初恋をしてるし、兵頭もそうだったらいいなと思う。
    恋ってのはほんとに難儀なもんで不安になったり、嫉妬したり、色々あったりするけどそんな風に感情を揺さぶられることが愛しいと思うし、こいつがどれだけ覚悟で俺とこうしてるかなんてわかってるつもりだ。
    だから俺はそれに応えて、硬そうに見えて繊細でやわい砂糖菓子みたいなこいつの中身をとかすことに集中する。

    そうやって夢中でお互いを味わったあと、熱が収まって腕の中でぽやっとしてる兵頭の頬を撫でて聞いてみた。
    「……初恋の味、ちっとはわかったんかよ?」
    兵頭は瞬きを数回して、小さく笑って言った。


    「俺の、好きな味だ」
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