年越しもどきSS 窓越しに見える月を忌々しく一瞥して、墓守の老人は小屋で1人、溜息をついた。仕事を終えた彼は小さなテーブルに置いた茶を飲み、からからに乾いた喉をかろうじて湿らせる。
夏は肝試しがてらに墓地へ侵入する輩が一定数いるものの、12月のこの時期ともなると出入りする生徒は途端に少なくなるようだ。
しかしそれでも例外はある。
ガチャ、と扉が開錠される音がした。次いで僅かに軋んだ音を立てて、長身の男が姿を覗かせる。
「こんばんは」
堂々と侵入しておいてその挨拶はないだろうと思いながら、老人は彼に視線を走らせた。
学生服の上にベストを着て妙なゴーグルを付けたその男ーー葉佩九龍は扉を閉めて靴を脱ぎ始めた。手持ちの荷物を床に降ろしてベストを外し、ゴーグルも外せば精悍な顔が現れる。
1899