0901液晶画面の向こう側から防災訓練のニュースが流れてきたかと思えば、語呂合わせで今日が求愛の日だというニュースが流れる。
365日、何かにつけて祝いたがる気質の人種に珈琲を飲みながら獄は「アホくさい」と息を吐く。
『愛している人に愛の言葉を届けましょう』と楽しむ映像を横目に、今日の午前に対応した浮気調査の依頼を思い出し、これが現実だと革張りのチェアーに背中を預けて残りの珈琲を飲みほした。
そろそろ午後の仕事に取り掛かろうとした時だった。卓上に置かれたスマフォが小刻みに振動をして着信を知らせた。
画面に目をやると『生臭坊主』と登録されている相手からLINEのメッセージが届いた事を知らせていた。
これから忙しくなるのに相手なんかしてられるか。と無視を決め込んでいたが何通も届く着信を知らせに痺れを切らせてスマフォのロックを外す。
(くだらない内容だったら訴えるからな!)
LINE画面を開くと、『よーく心に刻んどけよ!』のメッセージが。
「・・・は?」
意味が解らないまま何通もあるメッセージを遡っていくと、そこには6枚の写真が添付されていた。
「なんだぁ?」
同じ角度から撮られた空却の写真にますます分からん。と頭をかく。
操作ミスか?とも思ったが最後の一文がひっかかる。
意図がわからない事にわだかまりが残るが仕事を放置しておくわけにはいかない。後で当人を問い詰めようとLINE画面を閉じようとした時、つけたままだったテレビから『愛してる。と伝えていますか?』というナレーションが聞こえてきて、獄は勢いよく画面へと視線を戻し、空却の写真を一枚目から順にスクロールした。
『あ』
『い』
『し』
『て』
『る』
『ぜ』
写真の空却の口が言葉を紡いでいた。
「あの、バカっ」
まさか恋人が世間の流れに乗ってくるとは思いもしてなかった獄は恥ずかしさと脱力感に襲われながら最後の一文をもう一度、読み返して口元を緩ませる。
(心に刻んどけだ?たぁけな事、言っとたらかんわ。
とっくに刻まれて消えねぇよ)
FIN