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    tennin5sui

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    ゆるゆる果物版ドロライ:お題「ポケット」

    #マリビ
    malibi
    #ゆるゆる果物版ドロライ
    looseFruitVersionOfDololai

    たくさん入るポケット ぽつりと頭に当たった雫が、一つ、二つ、そして徐々に強まる気配を見せ始めたので、急いでコンビニに駆け込む。目敏い店舗で、雨は降り始めたばかりだというのに、既にビニール傘が数本、レジ近くの目立つ位置に陳列されている。
     手に取ろうとして、自身の部屋の玄関先の、数本のビニール傘のことを思い出す。以前、必要になって買ったり、同様の状況に陥った檸檬が置いていった傘たちだ。これ以上人口密度を増やすのもなんだか避けたい気がして、ビニール傘はやめて折り畳み傘を購入することにした。

     早速、雨空に黒い傘を広げる。新品の張りのある小間に、小気味良く水滴が跳ねる音がする。しかし、それらの水滴が豪雨の音を爪弾く前に不意に鳴り止み、不審に思って傘を少しもたげて見上げると、先ほどまでの真っ黒な雲はどこへ消えたのか、不気味なほど薄青く晴れ渡った空が広がっている。無駄な買い物だったか、と舌打ちが出てしまう。
     今日は軽装で家を出て来たために、鞄の類などもって来なかった。古着屋で買ったパーカーに丁度いいポケットがついていたので、軽く水滴を払い、中に突っ込んだ。意外にも深めの作りだったらしく、すっぽりと傘を飲み込み、外見にも響かない。パーカーなんて滅多に着なかったが、意外と便利なものじゃないか、と感心する。


     慌てた様子の蜜柑からの電話に驚いて自転車を飛ばして来たが、漕いでいるうちに、別段命に別状があるわけじゃなさそうだったなと気づき、鼻歌混じりに、ついでにアイスも三本買って、水分補給代わりに一本を口に含みながら、散歩をするくらいの速度で進む。蜜柑のアパートの前に止めてインターホンを押すと、先ほどよりは少し落ち着いた様子の蜜柑が、それでも神妙な面持ちで扉を開けた。
     ひとまずアイスを勧める。しばし二人でチョコレート味を楽しむ。単なる木の板に成り果てたアイスを口で咥えながら、椅子の上でゴロゴロしていると、アイスの棒をゴミ箱に捨てに行った蜜柑が戻ってくるなり「これなんだが」とパーカーについたポケットを軽く引っ張って見せる。
    「珍しい格好だな。似合ってるんじゃないか?」
    「そうじゃない。見てろよ」
     蜜柑は何でもない風にポケットに手を突っ込むと、ライフルを取り出したので、流石に目を丸くした。
    「おい、どうやったんだよ。手品師にでも転向したのか」
    「してない。これは、どうやらこういうものらしい」
    続いて蜜柑はティッシュ箱やら、リモコンやらを次々に出し始める。テーブルに置かれていく品々を前に、つい背筋を正してしまった。
    「よく分からないが、何でも入るんだ」
    すげえ、と感嘆の声を上げる。
    「ちょっと頭入れてみてもいいか」
    「その試しにで、頭がちぎれたらどうするんだよ」
    「何だよ、入れたもん壊れたりしたのか」
    「してはないが、何が起こるかわからないだろう」
    「さっきおまえ手を突っ込んでたろうが」
    不承不承ながら首を縦に振った蜜柑の腹元に頭を突っ込んでみるが、真っ暗で何も見えない。真っ暗だ、と報告しておく。

     本当にこんなポケットがあるのか、と檸檬はいたく感動した。なぜ小学校に通っていた自分の前に現れなかったのか、と少し悔しくもある。なので、「今後の仕事が楽になるな」と言った蜜柑を信じられない思いで見返す。
    「おい、本気かよ。仕事に使うのか」
    「こんな軽装で重装備をしているなんて、誰にも想像出来ないだろう。相手が油断するし、作戦の幅も広がる」
    「こんなに楽しいものを仕事に使うっていうのかよ」
    檸檬は必死に抗弁する。
    「小さい頃のサンタクロースがよ、思ってたままにクリスマスの晩に現れたところを想像してみろよ。感動ものだろ、本当にいたんだね!ってな」
    「不審者以外の何者でもないな」
    「その上、プレゼントもくれる」
    「プレゼントもくれる不審者に格上げされた程度だな」
    歯噛みしながら説得を続けたが、蜜柑はなかなか納得しない。けれど、数時間に及ぶ抗議の結果、根負けしたようにじゃあこれは楽しい日にだけ着ればいいんだろ、とやっと折れてくれた。

     なので、今はクローゼットに楽しい日にだけ使われる洋服としてハンガーに掛けられている。できれば青い服と合わせて着てほしい、とお願いしているのだが、これにはなかなか頷いてくれない。
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