【無章 零】創世記 それは遠い話です。
世界を眺めるモノがありました。色んな物を作っては眺めるモノでした。
ある日モノは、変わった物を創りたくなり、新しい物を創り上げます。
全ての物より知能は高く、様々な環境に適応し。手先は器用で細かな物を創り出し。そして何より、他の物を慈しむ心を持つ物でした。モノにとっての最高傑作、それはヒトと名付けられました。
ヒトを世界に落とせば、彼らはそれぞれ集落を創り出して生活を初めました。ヒトは面白いものです。物を育て、物を取り、物を食べます。寿命はあまり長くありませんが、死に際すらも面白く、モノは飽きませんでした。産まれて死ぬまで、愛おしくも可愛らしい我が子達を微笑ましく見守ります。
けれど、ヒトは少しばかり賢くなり過ぎてしまいます。武器を持ち、他の物を狩りすぎてしまいます。ヒト同士で争いをしてしまいます。食料があれば、増えすぎてしまいます。生き物を飼い、管理するということは大変ですね。
なのでモノは、ヒトを飼いやすくしました。武器を取り上げ、闘争心を奪い、性欲を禁じました。そして、彼らを管理する『管理人』を創り上げ……またにこにことヒトを眺めます。
欲のない彼らは、正しく人でした。
それは遠い話です。
世界を眺めるモノがありました。モノは様々な物を創りました。
ある日、モノは一つの思いつきをしました。欲のないヒトへ、欲を注げばどうなるのだろう……と。そして行いました。
やるからには、欲の全く無いヒトが良いと。丁度良く絶命する直前のヒトを攫い、欲を与えます。ついでとばかりに、欲を叶える身体も与えます。
さぁどうなるかと、見守れば……全く予想外なことに。ヒトは群れの仲間へ欲を与えました。……人々は今まで知ることのなかった欲望に嘆き、狂乱し、そして─────集落は、獣に溢れていきました。欲の無かったヒトは、獣へ堕ちていきました。
モノは、自らが作り上げた物があっという間に作り変えられていく光景に悲しみました。けれど、同時に悦びました。自分が見たことのない表情を、声を、姿を見ることができたからです。
慈しむ人々は、創造主によって創られました。
そして、創造主によって殺されました。
世界の母は後に邪神と呼ばれました。
こんなにも、世界を愛していたというのに。