ごつん!「もう……もういいだろ、そんなに笑わなくても……」
「いやぁ、笑ってなんか……ふ、あはは。いや、自分は一度も笑ってなんかいないぞ」
「ウゼェ……」
漣がギリギリと歯を鳴らしながら睨みつけてくる。タケルも珍しく拗ねて口をむっと結び、目線を逸らした。
すっかり二人を怒らせてしまった。しかしまた思い出すだけで、笑いが。
「ニタニタすんな!」
「してないしてない。自分は何も見ていないし……」
「……本当か?」
「ああ、もちろん。今起きたばっかりだ。なんだか至近距離で大きな音が聞こえた気がして」
あの音。思い出すだけでかわいくて、笑ってしまう。とはいえそれだけじゃなく心配でもある。あれだけでかい音を鳴らしてたらな。
せめてたんこぶになってないかだけでも確認させて欲しいが、二人の機嫌はもちろん治っていないみたいだし、どうかな。
掛け布団の上から自分に伸し掛かって顔を覗き込んでくるタケルと漣の額に手を伸ばしたい。が、迷って宙に手が止まる。
「ンだこの手」
「えーと……休日に寝坊した自分を起こしに来てくれたお前さんたちに、お礼をしようかと」
「別に礼を言われるようなことじゃ……コイツの方は何をするつもりだったか知らねぇけど」
「ハァ!? チビの方こそヘンなことしようとしてた!」
「まあまあ落ち着け。そこで喧嘩されると朝飯も作れない」
「……悪い、円城寺さん」
「早く起きてメシ作れ」
今度は二人でシュンとなる。その頭にやっと手を伸ばして、そっと額を撫でた。……うん、腫れてはいないな。タケルがきゅっと目を細めたが、痛いという顔ではないようだ。漣は寝癖が付いてそのままの前髪を逆に自分の手に押し付けてくる。
「起こしてくれてありがとうな。……あっはっは」
「……また、笑ってる」
「やっぱ見てたんじゃねーだろうな」
「何も見てない、聞いてない」
二人ともまた口を尖らせてはいたが、機嫌は治ってくれたらしい。
それにしてもさっき自分を起こそうとしたタケルと漣はかわいかったな。寝ている自分の顔をそれぞれ左右からじっと覗き込んでいたかと思うと、何を思ったのか二人同じタイミングで顔を自分に近づけて……。結構、派手な音を鳴らしていた。お互いのおでこがぶつからなかったら、自分は何をされていたんだ?
二人とも、気が合わないようですごく気が合っている。朝からそんなタケルと漣が見れて、いい一日になりそうだ。……もちろん、薄目を開けていたことは隠し通さないと。