導線　水面はおれの足を変わらず押し返した。つま先でぴょんと跳ねる。水面は、鏡面、自然の中にぴんと張られた大気と水の境界線。しなって、つま先を跳ね返す。小さな飛沫が後に残る。
　水面は透明に揺れている。きれいな水だ。近頃の水は随分ときれいだ。どうやらここ何十年かの最近かな。いっときは、どこもかしこも油に濁って目も当てられない様子だったってのに。
　人がいなくなったからだろう。虫や動物もいなくなった。植物も、なくなった。全部形が変わった。いま、この森の中に生い茂っているものは、ほとんど金属製の機械混じりで、随分と質が違う。
　最後に目が覚めたときから、世界はかなり様変わりしている。だがまあ、こっちは妖怪だ。長く生きていれば、そういうことはよくある。水の代わりのなさに安心した。変わらないものもある。
　それにしても妖怪連中はどうしちまったんだ？　機械混じりの時代で、数が減っちまったのか……、きっとその推測で間違いはないだろうな。妖怪ってのも結構繊細な存在だから。
　こうなるとあいつはどうしてるかね。地上のどこもかしこも機械だらけじゃ、いじけてどっかに引きこもってそうだな。あいつは機械が苦手だから。
　どこかにいるはずだ。すっかり何もかもが変わったとしても、あいつはきっとどこかにいるはずだ。どんな時代でも、それだけはわかる。なんだかおれの身体に糸が引っかかってる気がするからさ。こいつを辿っていけばいい。