初体験 騙された。騙されたと思えってらーめん屋が言ってた。わけわかんねーこと言いやがって。つまりこれかららーめん屋はオレ様を騙すつもりだっつー意味だったのかよ!
「そんなに身構えるな。すぐ終わるからな」
「うるせぇ゙……」
らーめん屋が耳元でごちゃごちゃ言ってる。声うるせぇ。いつものデケー声じゃねーけど、わざわざ静かに喋ってんの聞かされると頭ン中までゾワゾワしびれる。
そんだけでもムカつくのに、らーめん屋はオレ様の手を後ろから掴んできた。変な感触……ヌルヌルする。
「う゛ッ〜〜…! キメェ! それやめろ!」
「すぐ終わるって。嫌ならハンドクリームぐらい自分で塗れるようにならないとな」
「ンなの一生いらねえ!」
「それじゃ漣の手がかわいそうだ」
らーめん屋の両手が背中側からオレ様の手を掴んで、手のひらこすり付けて、指絡ませて、全部くまなく触ってくる。ハンドクリームとかいう白いヌルヌルをなすり付けるため、らしい、その感触が最高にキメェ!
らーめん屋の手の感じがいつもと違う。いつももっとガサガサゴツゴツしてんのに今はそのヌルヌルのせいで肌が絡まる感じ……そんで滑って動き回ってオレ様の指の間まで、らーめん屋のぶっとい指の腹突っ込んでこじ開けてヌルヌルをなすり付けてきて、ゾワゾワして熱くなって知らねぇ感覚が腕から頭まで暴れ回った。
それから次は指一本一本を掴んで爪の方まで撫で回していって、最悪のむず痒さで頭が呆然とする。これ、指全部やるつもりかよ。
「漣、なんだかんだいい子にしてるじゃないか。こうしてマッサージも兼ねてやると案外悪くないだろう?」
「ヌルヌルして気持ち悪ィ……よくも騙しやがったな……! 後で覚えてやがれ!」
騙されたと思ってとか意味のわかんねーこと言ってオレ様を膝の上に座らせて、何するつもりかと思えばこんな……クソッ、気持ち悪すぎてどうしていいかわかんねー!
おとなしくいい子とやらをしてやるつもりもねえのに、なんだこれ、なんなんだよ!
頭ン中が熱くて考えがまとまらない。
「オマエ、それでもそこから動かねぇのか」
「るッせぇ、チビのくせに見てんじゃねェ!」
「ハンドクリーム塗ってもらってるとこ見られたぐらいでキレるな」
「はいはい喧嘩するな。漣、終わったぞ。すぐだっただろ?」
そう言いながららーめん屋はオレ様の手をパッと離した。これで終わり?
沸騰しそうに熱くなっていた手が急に涼しくなる。らーめん屋の手が熱すぎるせいだ。離れていくと変な感じがする。
「冬は特にちゃんと手入れしなきゃダメだ。ハンドクリームなら自分がいくらでも持ってるから、日頃から手洗いうがいとセットで塗るようにしような」
「ハァ……?」
らーめん屋の言ってる意味がわかんねー……。日頃からってどういうことだ? こんな気持ち悪ぃこと、いつもやれってのか? 外でも? 昼間も? ありえねーし……。
「タケルも塗ろうか」
「ん」
はぁ? なんでチビは普通に返事してんだ。
らーめん屋がオレ様の太ももをポンポンと叩いて膝から降りろと促す。別にいいけど。
だがチビは恥ずかしがってらーめん屋の膝には座らなかった。らーめん屋の前に正座して両手を差し出す。それは恥ずかしくねーのかよ。
で、黙ってハンドクリームをぐりぐりと塗り込められている。
「こんなことされてヘーキなのかよ」
「……外では困る……でも家の中だし……」
らーめん屋の手が熱すぎるせいで、チビの手もすぐに真っ赤になった。チビの場合は手だけじゃなく顔まで赤い。やっぱ雑魚だ。
「でもいつもやんなゃなんねーんだろ」
「いや、漣が自分で塗ってもいいんだぞ? タケルは自分で塗ってるよな」
「……まあ、覚えてたときは。こういうの今まであんまやってなかったから、結構忘れちまうけど」
「だからか。ちょっと荒れてるな……よしよし、これで治るといいんだが……」
らーめん屋がチビの薬指の先をしつこく撫で回している。チビがくすぐったそうに奥歯を噛んだ。見てるだけでムズムズする。
ヌルヌルの感触。……それを自分で塗れってのか? いつも? そっちの方が最悪じゃねーか! らーめん屋が勝手にやるなら、まだ……許してやらなくもねーけど……。