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    Rahen_0323

    @Rahen_0323

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    Rahen_0323

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    何度か呟いていた視界不良になるカキツバタ、の今書き終わってる部分までです。完成にまだまだ掛かりそうなので尻叩き。
    捏造過多でゴミみたいなモブが出たりします。あとまだ途中ですがそこそこ長いです。攻略本未読なので間違いとかもあるかもしれません。ご注意を。

    閉じた世界イッシュ地方のバトル強豪校、ブルーベリー学園。
    そこの生徒であるオイラ、カキツバタと交換留学生ハルトは、ゴタゴタが終わった後の今日も飽きずにポケモン勝負を繰り返そうとバトルコートに立っていた。
    「今日は新顔も連れて来ましたよ、ツバっさん!!」
    「へっへー、そら楽しみだねぃ。どれ、オイラもちと捻りを入れてみっか!」
    「上等!!さあ、戦りましょう!!」
    今回の舞台はいつものエントランスではなく、オイラ達の記念すべき初戦の場でもあったポーラスクエアだ。
    向こうは先約があった為で、オイラもハルト……キョーダイも何処だろうとあまり気にしないタチなのでこうなった。
    久々のポーラでの彼とのバトル。腕が鳴るってな。

    向かい合った二人は、ボールを片手で上に投げてはキャッチしてを数度する。

    スグリにも真似されたが、どうにもこの動作は男子ウケが良いらしい。オイラ的にはマジでほぼ準備運動とかルーティーンに近くてカッコつけは二割くらいなんだけど、気付けばハルトもよくやるようになったのだ。

    間も無くお互いボールを手中に収めて止め、オイラは伸びをして、キョーダイはしっかり手を握って構えた。

    「さあ行くぜ!!ヌメルゴン、キングドラ!!」

    「行っておいで!!カメックス、ブリジュラス!!」

    そして相手が繰り出したポケモンを見た瞬間、揃って吹き出した。

    「ぶはっ!あーっ!そのヌメルゴン、僕が渡したヌメラでしょ!!」
    「へっへっへー!お前さんのブリジュラスも元はオイラのジュラルドンだろぃ!どうやら考えてたことは一緒らしいねぃ!!」
    そう、キョーダイのブリジュラスとオイラのヌメルゴンは、以前に二人で交換したポケモンが進化した姿だったのだ。
    向こうもそろそろ育成してる頃かとは思ってたが!まさかここで思惑が一致するたぁ光栄極まりないねぇ!
    「ホンッットーにサイコーだよ、ツバっさん!!」
    「同じ言葉を返させてもらうぜぃ!!改めて、ぶっ放してやろうや!!ヌメルゴン、キングドラ!!」
    何気にヌメルゴンに合わせて手持ちを繰り出す順番を変えていたオイラと、初めて見せるカメックスまで連れていたハルトは、一斉に声を張った。
    「カメックス、"だくりゅう"!!ブリジュラス、"ドラゴンクロー"!!」
    「キングドラ"あまごい"!!ヌメルゴンは"だくりゅう"だ!!」
    晴れていたその場に雨が降り出し、水飛沫が飛び散り、ブリジュラスが躍動する。
    「"あまごい"か……!!そういえば今雪降ってなかったけど!!こっちの二匹にもバフ乗りますよ、いいんですかその判断!!」
    「それこそ上等!!お前さんの手持ちがまだ読めねえんでねぃ、ちまちまやらねえで一気に削らせてもらうぜ!!」
    オイラが挑発的に笑って見せれば、チャンピオン様も乗っかって口角を吊り上げる。
    やっぱり良い顔するな、キョーダイは!!
    「じゃあ遠慮無く!!ブリジュラス、"エレクトロビーム"!!カメックス、命中率を下げろ!!"だくりゅう"っ!!」
    「ぶちかませ二人共!!ヌメルゴンは負けじと"だくりゅう"、キングドラ"ハイドロポンプ"っ!!」
    飛ばされた指示にポケモン達は従って、エレキと水流が入り乱れた。
    天気により強化された激しい技のぶつかり合いは、トレーナーにまで流れ弾が飛ぶ程で。
    「うわっ!!」
    「おっとぉ!?」
    オイラとキョーダイは、"だくりゅう"同士が接触して跳ね返った所為で雨以上の量と威力の水攻撃を被ってしまった。
    「ひぃ〜〜っ!!寒い!!」
    「へっへー!!凄えツラだぜぃキョーダイ!!流石のキョーダイも水は避けらんねえか!!」
    「わ、笑わないでよ!!ツバっさんも思いっきり食らってるクセに!!ていうか面白さで言ったら貴方の方が凄いし!!いつもの髪型ガン崩れ!!」
    「ははっ、違いねえ!」
    「否定しないんだ!?偶に貴方の沸点が分かりません!!」
    まあ流れ弾っつっても、既に勢いがそこそこ死んだ技だ。
    ポーラだから冷えちまうのはそうだが、それ以上はなにも、

    「っ!?」

    と、思った矢先、オイラの視界が急に揺れた。

    「とにかく再開再開!ブリジュラス、もう一度………?」

    揺れてる?いや、違う。暗くなって……?

    どんどん視界が狭まってきてボヤけて、頭を振って瞬きする。回復しない。

    えー嘘だ、どうなってんのこれ。

    状態は良くなるどころかみるみる悪化して、最早ポケモン達もハルトもギリギリぼんやり影を捉えられる程度になってしまった。

    しかもまだ暗くなってきてる、ような、

    「ど、どうしましたツバっさん!!ツバっさんも寒い!?大丈夫!?」

    そこでハッとする。


    『カメックス、命中率を下げろ!!』


    オイラ達が被ったのは"だくりゅう"。その効果は、攻撃だけでなく三割程度の確率で相手の命中率を下げる。

    命中率。それ即ち、人間で言う、

    「!! あーっやっちまった!キョーダイ悪い、ストップ!オイラの負けでいいから中断してくれぃ!」
    「えっ!?…………え、あ、まさか!?」
    フラついてるオイラにハルトも察したのだろう。顔は見えないが、声色で焦っているのが伝わった。


    「そのまさかよ!見えねえわ、目!全然!ウケるねぃ!」


    手を叩いてヘラヘラ笑い飛ばしたら、「笑えない!!」とハルトが叫んでスマホロトムでそらとぶタクシーを呼んだのだった。















    「つーことで、めっちゃ視界不良になっちまったわ!いやービックリだねぃ!」

    僕がカキツバタ先輩ことツバっさんを医務室に押し込み、リーグ部の皆にも状況を伝えたら、存外慌ててすっ飛んできた彼らは愕然とした。
    「"だくりゅう"浴びて視力やられるって……」
    「そんなことあるんですか!?ポケモンじゃなくて人間なのに!?」
    「あるみたいです。水が目に入ったのが原因らしく、調べたら数件だけ前例がありました」
    「数件!!!」
    「どんな確率引いてんだべお前!!」
    「オイラに言われてもなあ」
    仲間達は取り乱しているのに、当の本人はなんてことないようにヘラヘラ笑ってる。どういうメンタルしてんだろうこの人……普通は見えないこととかいつ治るかとか不安になったりするもんでしょ。
    「ってあれ?ハルトも一緒に浴びちゃったって言ってたよね!?」
    「大丈夫なのですか」
    「大丈夫。僕は全然なんともないです。ツバっさんと同じくらいは食らったと思うけど……」
    「これ見える!?」
    「蜜入り林檎」
    「正解!!」
    「なんで蜜入りってことまで分かるんだ……?」
    混乱してるのかあちこち話が飛ぶので、僕が戻した。
    「とにかく。えっと、何処まで見えてるかは……ツバっさんからどうぞ」
    「一応光とかそういうのは視認出来てっから、完全にダメになってるとかじゃあないねぃ。でもポーラでさえ結構暗いように感じたし、字やらなんやらは全然見えねえし、余程近距離じゃない限りほぼボヤけてて分かんねえ感じかなあ」
    「私達のことは分かりますか?」
    「髪の色とか輪郭で分かる」
    「そうじゃなくて」
    「あー、顔はまるで見えないねぃ」
    「……どうやらかなり重症な模様」
    皆は頭を抱えて溜め息を吐いた。
    タロちゃんなんて特に懸念が多いのだろう、とても深刻そうに眉間に皺を寄せている。
    「どれくらいの期間で治るかは?」
    「うーん、なにせ前例が少ないからなあ。あんまハッキリとは言えねえと」
    「僕と養護教諭さんが調べた限りでは、最短で一週間、最長で二ヶ月とのことで」
    「うわっ、幅大きい」
    「しかも最短でも一週間?アンタそれ大丈夫なの?日常生活とか授業とか…………」
    「そりゃ勿論!……見えねえからノートとかは取れねえな。ブルレクも軽く死にそう」
    「ダメじゃないの!!」
    「なんでそんな軽いノリなんですか!!」
    「だってえ、悲観したって見えないモンは見えないし」
    「お前時々変に達観してるよな………」
    「もっとちゃんと深刻に捉えて!!」
    「ネリネも同意します」
    ワーワー至近距離で詰め寄られたツバっさんは耳を塞ぐ。さっきまでは笑ってた彼が険しい顔をしていたので、僕は制止した。
    「皆。ツバっさん視力の所為でちょっと音に敏感になってるみたいだから、あんまり大声は出さないであげて。せめてちょっと離れて」
    「あっ、ご、ごめん」
    「それは本当にごめんなさい」
    さて、ともかく。四天王でありリーグ部長である彼がこんな状態なんだ。色々やらなければいけないことはあると思うけど。
    部の運営とかなにも知らない僕からは言えずに、皆の言葉を待った。
    すると考え込んでいたスグリから質問が飛ぶ。
    「それ、道具とかで治らないんだべか?」
    「思った」
    「"だくりゅう"は命中率を確率で下げる技なので、試しにヨクアタールをめちゃくちゃ薄めて飲ませたりはしたんですけど、」
    「不味いだけで全然ダメだったぜぃ」
    「アレ不味いんだ」
    「飲むなよ?木の実ならともかくポケモン用のアイテム摂取すんのは普通にヤバいから」
    「じゃあなんでアンタは飲んだのよ」
    「キョーダイがよ、無理矢理な?」
    「怖過ぎる」
    「殺す気ですか?」
    「横暴なチャンピオンは嫌いよ」
    「み、ミクルの実はどうだべ?」
    「試したよ。効果無しだった」
    人間とポケモンでは勝手が違うから、というより状況が特殊過ぎるのかもしれない。使える道具は使ったものの無駄だったと告げたら、皆一層困った様子になる。
    「じゃあ……自然に治るのを待つしか無いの?」
    「一週間で治るならそれでいいけど、でもいつまで続くか分からないとなるとねえ」
    「ただなにもしないで居るわけにもいかねえべ。やっぱり治療法さ探そう」
    「べーつにオイラは困んないけどねぃ。ダラダラ寝ときゃ治るだろぃ」
    「カキツバタ……気を遣っているのかもしれませんが、そういうの良くないと思います」
    「ポジティブなのは結構ですが、能天気過ぎるとネリネも存じます」
    先輩は「ええー」なんて不貞腐れながらダラリとベッドに横になる。医務室なのにまるで自室や部室のような寛ぎ方だ。いや病人なんだから別にいいんだけど。
    ……当人がいつも通り過ぎて、僕達は益々心配になった。二度目だけどこの人どんなメンタルしてるんだよ。
    「バカの意見はどうでもいいわ!とっとと解決法探すわよ!コレがずっとこんなんとか面倒過ぎて手も出せない!」
    「んだな、ねーちゃん。リーグ部の皆も心配するべ」
    「じゃあオイラ部屋に帰っていい?ここ薬の匂いして落ち着かねー」
    「落ち着かない人の寛ぎ方じゃないですよ」
    「とりあえず今日一日くらいはここに居てください。なにが起きるか分からないので」
    「…………はぁい」
    なんだかんだ優しくて仲間想いな皆は、リーグ部云々よりもツバっさんを優先した。口では色々言いながら、心配で助けてあげたいのは確かなんだな。……当たり前の話か。
    早速どうするかと会議を始めるので、当然僕も加わる。
    「でも先にハルトが色々調べたんだよな?当然先生も」
    「うん……皆が来るまでの短い時間とはいえ、前例が少ないから拾える情報は拾い終わったと思う。先生なんて論文まで読んでた。それでも自然治癒を待つしか無いとしか………」
    「となると、ネリネ達がインターネットで検索しても無意味でしょうか」
    「それなら益々どうすれば…………」
    「本、も、大して変わらんか……今時ネットの方が分かりやすいくらいだし」
    どうにかすると意気込んだとはいえ、方法が一つも浮かばない。
    頭を捻って悩んでれば、思わぬ所から助言が。
    「ふぁあ……分かんねーなら特別講師にでも訊いてみれば?ほら、ボタンっつったっけ。あの子とかネットサーフィン得意なんだろぃ」
    「!! それだ!!」
    発言したのはツバっさんだ。
    彼の欠伸混じりの提案に、僕達はハッとする。
    「偶には良い案出すじゃないフワ男!」
    「あーデカい声止めてって。……まあオイラの問題だしねぃ。付き合ってくれるってんならオイラも考えるくらいせにゃなあ」
    『寝てれば治る』とか言ってたし、本当は放っといて欲しいのかもしれないけど。僕達がそうしないと分かった以上は自分も出来ることをしようって気持ちはあるようだ。
    「じゃあ早速電話してきます!」
    「俺達は一旦出て行くけど、お前変にウロウロすんなよカキツバタ」
    「怪我したら大変だからね!ジッとしててよ!?」
    「はいよー。いってらー」
    「あ、一応ご家族にも連絡してきましょうか?」
    「それはいいわ。どちらにしても勝手に治るモンだし」
    「……そうですか。ではまた後で!」
    医務室で電話は良くないかもしれないということで、僕達は一斉に出て行って。
    邪魔にならないよう部室に移動し、僕のアカデミーの友達ボタンに連絡した。そしてこっちでなにが起きたか語る。
    『……事情は分かった。なんというか、また大変なことになったね』
    「全部僕とツバっさんがはしゃぎ過ぎた所為なんだけどね………」
    「ホントそうよバトルバカ共」
    『いやでも、まあ、普通は"だくりゅう"でそんなんなるとは思わんし。うちだってそんな話初めて聞いたくらいだもん。運が悪かっただけじゃん』
    『ていうかポーラで水被って二人共平気なん?』と訊かれた。僕は「直ぐに着替えたしドライヤーもかけたから」とサムズアップした。ドン引きされた。
    『とにかく、うちに解決策探して欲しいってことね?』
    「そうなんです!私達ではどうにも力不足なので……」
    『そう言われてもなあ……うちだって医者じゃないし、その辺常識レベルの知識しか無いよ?ネットの情報だって限界あるし』
    ごにょごにょと自信無さげに言われて、僕はしょんぼりした。ボタンでもダメなら他にどうすれば…………
    彼女は『うっ』と言葉を詰まらせる。
    『わ、分かった分かった。ハルトの頼みだし、やれることはやるよ。ミモりんとか校長先生とかにも相談してみるけど、あんま期待しないでね?』
    「! ありがとう!」
    「助かるよ。ありがとな!」
    そのタイミングで、不意にスマホの向こうからボタンを呼ぶ声が。
    『ボタちゃん、誰と話してんだ?』
    『"ボタちゃん"言うなペパー!ハルトだよハルト!』
    『ハルト!?やっほーハルト!元気ー!?バトルしてる!?』
    『ネモもいきなりネモんな!』
    ボタンと同じく僕の親友である、ペパーとネモだ。
    二人に割り込まれてボタンは迷惑そうにするが、僕達は喜ぶ。
    「丁度良かった!二人にも相談したいんだけどさ」
    『お?なんだ、困ったちゃんか?』
    『どうかした?トラブル?なんでも言ってみてよ!』
    「実は、かくかくしかじかで…………」
    説明すると、深刻さが伝わったようで二人も真剣に頷いた。
    『あの四天王の人の目がねえ』
    『それって一大事だよ!!目が見えなかったらバトルも出来ないじゃん!!』
    『そうじゃないそうじゃない』
    『そこもだけどそうじゃない』
    「ホント怖いわよアンタ」
    ネモに総ツッコミが入りつつ、どうすればいいか相談した。
    数秒静かになったけど……やがてペパーが『あ!』となにやら思い付く。
    『それならスパイスはどうだ?ひでんスパイス!アイツを全部食えばどんな怪我や病気も治るんだぜ!』
    「あーっ!!その手があったか!!盲点だった!!」
    僕はすっかり見逃していたと叫ぶ。
    確かにアレは怪我の後遺症で立つことすら出来なかったペパーのマフィティフを治した!あのスパイスを使えばどうにかなるかも!
    「ひでん?スパイス?なんですかそれ?」
    「そうと決まればレイドだよ皆!!テラレイド!!行くよ!!」
    「テラレイドバトルで手に入るって話?いやでも待って、ここに居るの六人よ?分かれるとしても二人余るじゃない」
    「そんな時の特別講師よ!!ハッサク先生とアオキさん呼びます!!」
    「まさかのパルデア四天王」
    「どういうチョイスですか」
    「ハッサク先生はなんかツバっさんに世話焼きたいみたいだし、アオキさんは食べるのが好きだから百パー全力で乗ってくれるって寸法よ!!ドラゴンと二種類タイプ使いだからやり易いだろうし!!はい呼んだ!!」
    「はっや」
    僕はパソコンに駆け寄って爆速で勝手に特別講師を呼び、いざテラレイドの準備へ移った。
    「ありがとう三人共!スパイス集め終わったら報告するね!」
    『おー、まあ一応諸々調べておくから』
    『治るといいな、カキツバタの目!』
    『私達のこともいつでも呼んでいいからね!』
    親友達には感謝を念入りに伝えて一旦通話を切り、そのままの流れでボックスを開いて手持ちの見直しをする。
    「ゼイユは僕と特別講師達と行こう!他の四人は先に行ってとにかく高難易度のテラレイドに挑戦!運が良ければ貰えるから!種類は五種類!全種類集めたいからよろしく!」
    「わ、分かった!俺達けっぱるよ!」
    「よっしゃ行くぞー!おー!」
    「あっ、ちょっと待ってくださいー!」
    「ネリネは困惑中……しかしハルトを信じましょう」
    「急に怒涛のペースね。いってらっしゃい」
    皆僕の勢いに押されて出て行き、僕はゼイユと二人きりになる。
    「よーし、頑張ろうゼイユ!」
    「随分自信満々ねアンタ……まあ期待はしないで付き合ってあげるけど」
    最近テラレイドをサボりがちで、スパイスを一つも持っていなかったのは不覚だった。それを誤魔化すように彼らに指示を飛ばしたけど。
    まあ皆が居れば直ぐに集まる!気にし過ぎないで張り切って行こう!

    やがてハッサク先生とアオキさんが現れて、二人に経緯とレイドに付き合って欲しいことを告げた。

    世話焼きな先生とスパイスに興味津々な非凡サラリーマンは喜んで一緒に行こうと頷いてくれたので、スグリ達が結晶全て片付けてしまう前にテラリウムドームへと飛び出したのだった。















    目を閉じても開いても、辺りはまるで真夜中のように暗かった。

    「あ。……寝てた」
    気付いたら寝落ちていたらしいオイラは呟き、欠伸をする。
    ヤベーヤベー今何時だ、と時計を探してから、見つかる筈が無いことと見つけたところでマトモに読めないことを思い出す。
    仕方ないから上体を起こしてスマホロトムを呼び、その機能を使って音声で教えてもらった。
    ………時刻は日が沈みかけているであろう夕方。一、二時間は眠っていたっぽい。
    「んん〜〜〜っ、バトル疲れしてたのかねぃ」
    自分にしては快眠だったから、大して長い時間続かなかったバトルのお陰かと笑う。多分違うけど。
    伸びをした後に、自分の手を大体目の前に持っていった。
    「…………………………」
    言った通り輪郭程度は見えてる、けど。なんかさっきより視野が狭くボヤけてるように感じた。
    周囲も寝る前より暗いような、気がするのは、太陽が隠れようとしてるからということにしておこう。
    「はぁ〜〜あ」
    静かだ。静かで暗くて、独りぼっち。
    保健室の先生は居るだろうか。物音がしないから居ないのかもしれない。まあ暴れたい盛りの学生が山程居て、怪我なんて日常茶飯事の大自然を飼ってる場所だ。別に不思議な話じゃない。
    どうせここで寝てんの今オイラだけだし。謎の信頼を感じるねぃ。
    「…………喉乾いたな」
    とはいえ流石のツバっさんも、ここまで視力が落ちてちゃ困ることは多い。「別に困らない」とは言ったがそんなワケがなかった。
    なんか飲み物無いかな〜と手探りするが、まあ無いに決まってる。
    「んー……オノノクス、ちょいといいかい」
    一応傍らにモンスターボールはあったので、手持ちを呼んで出て来てもらった。
    手を彷徨わせながらどうにかその形に触れ、撫でつつお願いする。
    「オイラの荷物何処にあるか知ってる?ハルトに持ってかれちまってさあ。分かるなら持って来て欲しいんだ〜」
    オノノクスは一つ鳴いて手元を離れ、何処かへ歩き去った。
    「あ、」

    ポケモンが近くから居なくなり、一人残されたことに突然どうしようもない孤独感を覚える。

    こんなにも暗くて周りもほぼ見えてない状態だ。仕方ない、正常な反応だろう。

    友人達には「もっと深刻に捉えろ」と言われたが、彼ら彼女らが思うほどオイラにだって余裕は無かったのだ。

    「どーにもこーにもならねえなら部屋に引っ込みたいんだがねぃ」
    正直こんな風になっても校舎内を歩く分には問題は無いと思う。テラリウムドームは無茶だが、オイラは長く学園に居る。見えなくたってある程度は大丈夫な筈だ。
    だからここから抜け出して自室まで行くのは簡単だし、それにあそこは一番の自分の領域だから気も楽になる、と思う。ポケモンも遠慮なく繰り出せるから尚のこと。
    ……まあ、手間掛けさせてるし、ブチギレられるのは目に見えてるから大人しくしてるけど。
    「そのうち治るんだから、あんなに慌てなくてもいいのになぁ?」
    誰にでもなく笑った直後に、脚の上になにかが置かれる感覚とオノノクスの鳴き声が。
    「おっ、見つかったかぃ?うんうん、この形はちゃんとオイラの鞄だねぃ。ありがとなオノノクス」
    仲間を「偉いぞ〜」と褒めて、ボールに戻って構わないことを告げる。
    心配させちまってるのか、オノノクスは一瞬躊躇ったようだが、素直にモンスターボールへ入ってくれた。
    オイラは改めて感謝しながら荷物を探り、おいしいみずと思われるペットボトルを取り出す。あれ、よく触ってみたら開封済みだ。いつ開けたモンか憶えてないけどまあ行けるか。むしろ力込め過ぎてうっかり零すとかは起きなさそうだしラッキー。
    楽観的に結論付け、キャップを開いて飲み始める。うん、水だな。でもうっかり口にも入った"だくりゅう"はちょっとヤベー味がしたし、乾いた喉に染み渡っていつもより美味く感じる。
    「お菓子も食っちまおうかなあ。いや、医務室のベッドで散らかすのはちとマズいか」
    状態が状態なので、片付けられる自信も無い。流石に自重することにした。
    満足するまで水を飲み、とりあえず荷物と一緒に退けてまたベッドに横になる。
    「…………………暇だねぃ」
    暫くボーッとしてからポツリと言った。暇だ。
    スマホロトムはよく見えない以上触ってもしょうがない。動画やバトルレコードもあんま意味無いだろうし。音楽でも流そうかな?
    ……いやオイラ音楽鑑賞の趣味なんて無えわ。実家に居た頃ちょっと齧らされたから知識はある方だろうけど。
    あーあ、やること無さ過ぎてウケる。
    「もう一眠り………」
    あまりにも退屈だったので、もう一度寝てしまおうかと目を閉じて寝返りを打った。
    「………………………………」
    ゴロゴロと何度か転がっては体勢を変える。
    が、そんな努力も虚しく中々寝付けなかった。さっきたっぷり寝ちまったし、間の悪いことに昨日は「ハルトとのバトル控えてるから」と夜更かしもしなかったので、益々眠気が無い。
    たまーにマトモな生活したらこれか。ツバっさん悲しい。
    「あー……どうしよ」
    暗い。狭い。……不安で退屈。
    とはいえそんな理由で誰かを呼び出すのも気が進まなくて、溜め息を吐いた。
    徐に片手を持ち上げて視界に入れ、開いたり閉じたりする。
    見えるような見えないような。元に戻るまで一週間以上は掛かるかもとは言われたが、段階踏んで良くなる感じなのか?それともコロッと治るのか?後者であれば助かるんだが。
    「まあ、ハルトじゃなかったのは良かったな」
    元々なにもかもサボってばかりのオイラと、チャンピオン様で優等生なハルト。どちらも"だくりゅう"を受けたわけだが、結果として目が不自由になったのが自分なのにはホッとしていた。
    そりゃあどっちも無事でただただヒリつくバトルをして楽しかったねー、の方が絶対良かったけど。不幸中の幸いってやつだ。
    「まあずっと治らなかったら休学か退学だろうけどねぃ〜」
    ヘラヘラ一人で笑う。タロやネリネが憤慨しそうだ。こんなこと考えてたのは黙ってよう。別に言う理由無いし。

    それから段々一人問答にも飽きてきて、結局バトルの動画を音だけでなんとか楽しんでいたら、更に一時間後くらいにノックの音がした。
    「戻りましたよーツバっさん!」
    どうやら仲間達のお戻りらしい。
    オイラはドアの開閉する音を聞きながら、「おかえりー」と起き上がって軽く挨拶した。
    「ぜー……はー……なんでハルトそんなに元気なの……」
    「わやじゃ……こんな、走り回ったの、久々……」
    「情けないわねえアンタ達。息切れとは無縁な完璧なあたしを見習いなさい?」
    「ゼイユはアギャスさんに乗っていたのでしょう」
    「ハァ、ちょっとそっちとは……はぁー、ワケが違います…………」
    「なんだなんだどうした。なんでそんなバテてんの?」
    ハルトとゼイユ以外は随分疲労困憊なようで、ちょっと戸惑う。マジでどうした?
    「ふむ。小生に反応しないとは、本当によく見えていないのですね」
    「!? えっ、その喋り方に声……まさかハッサクの旦那!?なんで居るんでぃ!?」
    心配してたら少し苦手な知人の声がして、つい声が裏返った。
    なんでここに。普通に全然気付かなかったわ。しかしよくよく見たら、デカくて体格の良い、多分成人男性くらいの人影が二つある。片方はハッサクの旦那みたいだが、もう一人は誰だ?全体的に真っ黒で分かんねえ……
    「あ、すみません。喋らないと分かりませんか。どうもアオキです」
    「あー、パルデア四天王の」
    素性は分かったが訳分からん。なにがあってこの二人がここに?特別講師として、にしてはオイラの元まで来る理由が浮かばない。
    一体電話でなに話して三時間もなにしてたんだ、キョーダイ達は。
    「実はあの後、ボタンだけじゃなくてペパーとネモとも話してね?それで、ペパーから『ひでんスパイスを使えば治るんじゃないか』って言われて!集めてきた!」
    「小生とアオキはスパイス集めの助っ人です」
    「……成る程な?しかし旦那はともかく、アオキさんも付き合ってくれるたぁ意外だな」
    「美味い飯が食えると聞いて」
    「成る程な?」
    「後はまあ、自分もここで断るほど人の心を捨てているわけではないので」
    スパイスって言ったしアオキさんの言い方的に、なんか食うモンらしいが。
    食っただけで治るかもって、それ本当に大丈夫なやつか?ヨクアタール飲まされたしちょっと疑うぜ、オイラも。
    「ということで!はいコレ!」
    「飲んで!」
    なんとなく嫌な予感がしていたら、ハルトとアカマツになにかを持たされた。
    この感じ、コップ……?いやスープの器か?
    「なにこれ。変な臭いするんだが」
    「スパイス全種類をふんだんに使ったペパーさん考案アカマツくん特製スープです」
    「飲んでください」
    「え、ヤダ……怖い……」
    「アンタが怖気付いて本音まで出すの珍しいわね」
    いやオイラだってビビるよそりゃ。
    え?スパイス全部?よく分かんないけどそれつまり色んな味が混ざってんだよな?美味いわけないよなそれ?飲めって?嫌なんだけど……
    「ハッサク先生!アオキさん!ゴー!」
    「失礼します」
    「早く飲んでくださいですよ!悪化しては大変です!」
    「ギャーーッ!!強行突破!!止めて止めて勘弁して!!分かった!!自分で飲むからよ!!」
    「信用出来ません」
    「はい!!あーんですよ!!」
    「うわーーーっ!!!」
    飲みたくない意思表示をしたら、パルデア四天王達に取り押さえられて無理矢理スープを流し込まれた。
    「うえっ!!ちょっ、なにこの味うっ!!」
    「あーやっぱりダメな味する?」
    「美味しくなるように頑張ったんだけどね……ごめん先輩」
    「不味いなら尚更一思いに行っちゃいなさい!グイッと!イッキよイッキ!」
    「私達も頑張ったんですから、カキツバタも我慢してください」
    「口直しは用意してありますので」
    「……ハルト、これ全部飲む必要さあんの?」
    全員自分の為に飲ませて傍観してをしてるのは分かっちゃいたが、マジで不味い。この世の物とは思えない味がする。オイラそんなにグルメじゃないけどこれはダメだわ。不味過ぎる。
    ただ、視界不良のまま下手に抵抗するのは危ないだろうから、吐き出したくなりながら頑張って飲み続けた。皆の気持ち無碍にするのもいただけないし。
    「その調子です!あと少しですよ!」
    「窒息しないようお気を付けて」
    それはそれとして鬼だろこれ。皆実は怒ってたりする?日頃の行いの所為?
    やがてなんとかスープを飲み終えたオイラは、直ぐに解放されて咳き込んだ。
    「げほっ、おえぇ…………」
    「よく頑張りましたですよ!」
    「お疲れ様です。感想をどうぞ」
    「…………ムリ……二度と飲みたくない………」
    「流石にちょっと可哀想」
    「本当ごめん先輩………」
    「アカマツってよりこんなモン考えたペパーに文句言いたいねぃ…………」
    「『サンドウィッチでもいいが全種類一気に食べるのは色々キツいだろ。スープの方が効率的じゃね?』とのことです」
    「オイラもしかして嫌われてる………???」
    「そ、そんなことないですよ!ペパーはちょっと、まあ、コミュニケーションが苦手で人に威嚇しがちだけど!良い子だから!」
    よしよしと背をさすられる。優しさが辛い。今さっきマジの善意の地獄を見せられたし。
    スグリが「カキツバタでさえここまでなるって余程凄い味さすんだな……」と震えてた。いつもなら「お前も飲んでみろよ」くらい笑って言って揶揄ってたが、ちょっとこれは冗談でも誰にも飲ませたくない。オイラは黙ってた。
    「それで?目の調子はどうですか?」
    「そうそう、それよ!あたしもアンタも頑張ったんだし、多少は良くなったんじゃないの?」
    それで、こんなことになる原因である視力はどうだと訊かれて。
    オイラはネリネに渡されたチョコで口直ししながら、何度か瞬きを繰り返した。うーん…………
    「あんま変わってないような……」
    「えーっ!?嘘だー!!」
    「ここで嘘吐く理由無いだろぃ。ちょっと妙に身体が軽いけど、目の方はなあ」
    「でも僕、もっと酷い状態だったポケモンがスパイスで治るとこ見たよ!絶対大丈夫だって!暫く待ってみましょう!」
    辺りは暗いままだしボヤけてるしで、効果無しとしか思えないが。ハルトが言うならともう少し待ってみた。

    ……しかし、一向に視力は回復しない。

    「スパイスって怪我や病気に効くんだよな?カキツバタの状態はどっちでもないから効かないとか……?」
    「体調に変化があるということは、全部混ぜたのがダメだったというわけではなさそうですね」
    「うーん、こんな筈では…………」
    「なんか悪いねぃ。折角頑張ってくれたのに」
    「まあこればっかりはしょうがないわよ。許してやるわ」
    「そうそう、謝らなくて大丈夫だよ!誰も悪くないし、切り替えて他の方法探そう!」
    皆は落胆を滲ませながら、仕方ない切り替えようと宣う。
    気ぃ遣われてるなあ……むしろメンタル的にキツいぜ。
    「とりあえず日も沈んできましたし、明日になったら良くなっているかもしれません。ボタンさんもなにか掴んでくれるかも。今日は一旦解散としましょう」
    「異議無し」
    誰かの腹がぐぅ〜〜……と盛大に鳴る。
    「腹減りました」
    「包み隠す気すら無いなこの人」
    「アオキ……」
    「まあでも約束だし、余りのスパイス使った料理作るよ!オレに任せて!」
    とにかくまた明日考えよう、そう皆は解散するのを決めた。諦めるって選択肢は無いらしい。優しいのは彼らの長所だが、お人好し過ぎるのも考えものだ。
    「ツバっさん、誰か残った方がいいですか?一人だと普通に困らない?」
    「いんやぁ、ここトイレもシャワーも備え付けられてるし大丈夫だろぃ。スマホロトムも声で操作出来るし、なんかあったら呼ぶわ」
    「言ったわね?絶対呼びなさいよ?」
    「絶対ですよ」
    流石にこんなんでも全部自分でなんとか出来るとか思うほど自惚れてないのに。信用ねーな。
    ……まあ皆を頼る気があまり無いのは事実だけど。
    「じゃあ後でご飯持ってくるから!ジッとしててね!」
    「はいよー。お疲れーい」
    「やっぱり僕残る……」
    「大丈夫だってのキョーダイ。心配性だな」
    「ポケモンっこも居るし、ハルトはちょっと心配し過ぎだべ。ほら行くよ」
    「うぅ………」
    仲間達と特別講師は引き揚げていき、オイラはほぼ音を頼りに手を振って見送った。
    バタン、と扉が閉まる。浮かべていたスマイルを消して頸を掻いた。
    「表情が分からないって、案外難儀だねぃ」
    皆がどんな顔してたかは大体想像つくけど。オイラなんかの為にそこまで心痛めなくてもいいのによ。
    「明日治ってるといいなあ〜」
    本心から呟いて、ただそんなことにはならないだろうと直感し溜め息を吐く。
    そのまま横になり目を閉じて、なにも考えないよう頭を空っぽにした。

    暗い。暗い。昏い。なにも見えない。

    それが存外、楽に感じることもある。

    「でも、休学させられんのは嫌かもなー……」

    一人でぼんやりしているうちにそこそこ時間が経っていたらしく、そのうちアカマツとハルトが「ご飯持って来たよー!」と飛び込んできた。















    翌日。
    分かってはいたがツバっさんの視力はまるで回復しなかったので、とりあえず僕達はリーグ部員や他生徒達にも事情を話して、彼の行動の制限も解いた。
    「というわけで、はいコレ!持って!」
    「なにこれ。棒?」
    「杖ですよ杖。白杖ってやつです。僕がパルデアまで飛んで買ってきました」
    「目印にもなるし、物にぶつかったり躓いたりしたら普通に危ねえからな。持っとけ」
    医務室を出る前に杖を与えれば、彼はちょっと嫌そうだったけど握ってくれる。
    それから、と僕がつらつら再三注意をした。
    「いいですか?一人で行動するのはなるべく避けてください。道に迷うかもしれないし、怪我して動けなくなったら大変ですからね」
    「迷わねえよぉ」
    「いいから頷く!そもそも今のアンタに付け込む輩が居ないとも限らないのよ!絶対一人にならない!うっかりなっちゃったら直ぐに誰か呼ぶ!いいわね!?」
    「そんなヤツ居ないって」
    「自分の肩書きを今一度振り返ってみてくださいジムリーダー兼市長のお孫さん」
    「それ止めてー」
    「そもそもアンタまあまあモテるでしょ。顔だけは無駄に良いんだから。顔だけ。無駄に」
    「酷えなあ〜〜つーか普通だろぃ」
    中々頷かないことに痺れを切らしたゼイユが言葉で圧を掛けたら、彼はやっと渋々了承する。
    人に頼れないタイプなんだとは知ってたけど、強情だなあ。甘えたって迷惑じゃないのに。
    そもそも普段あんなに迷惑掛けておいてなにを今更って言いたい。言わないけど。
    「じゃあ行きますよ。はい」
    「? なにが『はい』?」
    「ああそうだ見えてないんだった……こういうことです」
    手を差し出すと疑問そうにされたので、問答無用でツバっさんと手を繋いだ。
    そのまま引っ張ると、彼はなんとも言えない表情で抗議してきた。
    「待ってくれよ、そこまでしなくていいって。完全に見えないワケでもないんだしさ」
    「ハッサクさんとアオキさんも認識出来てなかったクセになに言ってるんですか」
    「それともネリネの方がいいですか」
    「オレも誘導くらいなら出来るよ!多分!」
    「うぐ………………うー、あー、んんーー」
    結局僕が一番マシと判断したようだ。静かになってくれたので、全員で養護教諭さんに挨拶してから医務室を出た。
    「とりあえずリーグ部に行きましょう。原因が原因で皆半信半疑って感じでしたし」
    「ええーっ、いーよ別に。信じられてなくてもオイラが部屋に引き籠ってりゃ済む話、」
    「ダメ!!です!!もしもの時があったら困るでしょう!!」
    「どの道カキツバタが部室に顔さ出さなくなったら皆気付くべ。いいから行くよ」
    「ええぇーーっ」
    渋る最年長を引っ張って押して、僕達はリーグ部部室へと歩き出した。
    「ちょっ、は、ハルト。分かったからせめてもうちょっとゆっくり歩いてくれぃ」
    「あ、ごめんなさい」
    確かに誘導があってもいつもの歩幅と速度じゃ怖いか。ひっくり返った声に僕は謝って、少しペースを落とした。スグリ達もそれに合わせてくれる。
    ツバっさんは、いつもの億劫そうな動きとも違う空気感で慎重に歩いた。最初はどういうメンタルしてるんだと思ったが、一応人並みに恐怖も戸惑いも感じているらしい。可哀想だけど、なんだかほんのちょっと安心した。

    途中の教室で、「一旦任せても大丈夫そうだし、じゃああたし達授業あるから」「なにかあったらいつでも連絡して」とゼイユとネリネさんとアカマツくんが離脱して。

    僕とツバっさん、スグリ、タロちゃんの四人となり、そのまま部室に到着した。

    「おはようございまーす!」
    「おーす……」
    早速お邪魔すると、部員達は各々挨拶を返したり会釈しながらツバっさんに注目した。
    「あー、タロ達から聞いたと思うけど。オイラちょーっと目の調子悪いから。暫くはそのつもりで頼むわ」
    彼が白杖を掲げながらヘラヘラ笑うと、「本当だったのか」と言いたげに皆驚いた。
    そして、昨日ゼイユが僕にしてたように「これ見えますか!?」「これは!?」と確認をして、的外れな回答に本当に冗談抜きであることを理解してくれた。
    「"だくりゅう"で視力が落ちたんでしたっけ?」
    「まあ普通は水が目に入ったからってこんなんならないらしいけどねぃ。現にハルトはピンピンしてるし」
    「なんだか大変なことになっちゃいましたね……」
    「私達に出来ることとか困ったことがあったらなんでも遠慮無く言ってくださいね!サポートしますから!」
    「お気遣いどーもー。まああんまりフラフラしないようにはすっからよ。テラリウムドームにも当分近づかないつもりだし、皆はいつも通り好きにやってくれーぃ」
    部長の変わらない振る舞いと言い方に、皆は複雑そうにしながら素直に頷いた。
    「んじゃあオイラは改めて部屋に、」
    「いや部室に居てくださいよ。一人になるのは危ないって言ったでしょ」
    「大丈夫だって、ポケモン居るしスマホもあるしよ」
    「いいから座る!部屋に居るったってどうせやること限られて暇んなるべ!」
    実際昨日、僕達が不在の間に暇してたのかもしれない。ツバっさんはニコニコするばかりで言い返さなかった。
    「他の皆はともかく、僕は時間有り余ってますから。一緒に居てくださいよ」
    特別講師も呼べるから退屈はさせませんよ!と促し続けて、しかし相変わらず中々イエスが返ってこないので。
    「おっとと」
    半強制的に、彼をいつもの定位置に座らせた。
    それから僕がその隣に腰掛ける。
    「とりあえず、部長の仕事は私が。四天王の方はスグリくんが代理で受け持つので、カキツバタは大人しくしていてください」
    「ついでに目ぇどうにかする方法さ探しとくから」
    「………………」
    いつもあんなに仕事をサボっては人に丸投げしてるのに、こんな理由で仲間に任せる他無いことには思うところがあるらしい。
    変わらない作った笑顔で黙るので、タロちゃんは溜め息を零した。
    「返事は?」
    「はぁい」
    この人が面倒な性格をしてるとは分かってたけど。いつもみたいに「サボれてラッキー!」くらい言ってくれれば良かったのになあ。
    こんなにしおらしいとこっちも調子が狂うよ。
    そんな怒りを込めて弱い力で彼の頬をつねった。
    「じゃあ俺、先生んとこ行かないとだから」
    「私もやることが沢山あるので、一旦失礼します。ハルトさん、カキツバタをお願いしますね?勿論他の皆さんも」
    「お任せあれ!」
    「行ってらっしゃーい」
    「頑張ってねー」
    タロちゃんとスグリが居なくなり、自動ドアが閉じた。
    部室が一瞬シンと静まり返ったが、間も無く半分程は雑談やらバトルの用意やらに戻り、残りの半数はツバっさんに近づいて声を掛けた。
    「目って何処まで見えてないんですか?」
    「んー、そこそこ」
    「それって白杖?ハルトくんが用意したの?」
    「ていうかゴミ散らかしっぱなしじゃ危ないよ!片付けるからね!」
    「チョコ食べる?」
    「バトルについて訊きたいことあったんですけど、難しいですかね……?」
    部員達は彼を気遣いつつも、なるべくいつも通り接する。中にはゴミを片付け始める子も居て、『なんだかんだ慕われてるんだよなあ』と僕は微笑ましく思った。
    「うーん、その技構成は命中率の低さが気になるねぃ。強力なのを入れたい気持ちは分かるが、博打ばかりじゃ安定した勝利は中々……」
    「成る程!じゃあこの技を入れて…………」
    「カキツバタ先輩、俺の相棒はどうですか?」
    段々心配からツバっさんへ質問する人が増えて、割と日常的な光景が広がる。
    今は僕がチャンピオンだけど、前々から彼の方が相談相手に選ばれることは多い。彼はこれでも地頭が良いし教えるのが上手いからだ。
    なんかちょっと悔しいけど、信頼感も違うだろうし仕方ない。僕も頼れる先輩、チャンピオンになれるかなあ、という羨望を覚えながら見守った。
    「チャンピオン様的にはどうよ?」
    「えっ!?あ、そ、そうですね。僕なら……」
    そんな矢先に突然話を振られたので、この人本当に表情とか見えてないのか……?と不思議になりつつ自分なりの意見を述べた。
    正直最初は僕もどうなることかとちょっと思ってて。それにツバっさんも若干緊張してるように見えたけれど、少しずついつもの雰囲気になってきた。リーグ部員達も同様で、ホッとする。

    ポケモン勝負に関する話は時間も忘れる程に白熱していき、そのうち予鈴が鳴った。

    次の授業やブルレク等に出て行く人や逆に入って来る人が続出して、談義は自然と終わり僕達は一息つく。
    「いやー、流石はキョーダイ。面白い視点の意見だったぜぃ」
    「そ、そうですかね?ツバっさんこそ、なんか三留してるとは信じられない知識量で……いつもビックリします」
    「へっへー、まあオイラも元チャンピオンでやんすからねぃ」
    ツバっさんは杖を抱えながら楽しそうにする。
    リラックス出来てるようでなによりだ。部屋に籠ってれば〜とか、跳ね除けておいて正解だったな。
    「お前さんは授業とかいいの?用事あるなら全然置いてってくれても、」
    「ツバっさんを置いて出掛けたりしませんよ。親友よりも大事な用なんて無いので」
    「…………ふーん、そうですかぃ」
    それにしてもこの人、自己肯定感とか大丈夫かな?なんでこんなに「一人で大丈夫」みたいな発言繰り返すんだろう?
    あんなに怯えながら歩いてたクセに、大丈夫なワケないじゃないか。もっと図々しく頼ってもいいのにさあ。
    「あ、チョコ取ってー」
    「はい」
    ……僕はツバっさんじゃないから、実際どんな視界になってるか詳細には分からないけど。直ぐそこに居る人間まで認識出来てなかったし、相当なのだろう。もしかしたら言ってないだけで悪化したりしてるのかもしれない。
    今もモタモタと杖を立て掛けてチョコの袋を開けようとしてたから、僕は無言でその手から引ったくって勝手に開封して口に突っ込んだ。
    「あー、悪いねぃ」
    「お気になさらず」
    本心から気にしなくていいことを伝えたら、彼は傍らの杖に手を伸ばして。
    「あっ」
    掴み損ねて倒してしまった。床に当たってカラカラ乾いた音が鳴る。
    「……うーん、難しいねぇ」
    危なっかしくてしょうがない。やっぱ絶対一人にしちゃダメだ。
    身を屈めて拾おうとする彼を肩に触れて制して、僕が白杖を回収してその手に戻した。
    「どーもー」
    「いいえ。というかお菓子くらい言ってくれれば僕が開けますから、慣れないうちは下手に白杖放さない方がいいですよ」
    「はぁい。……って、ハルトなんか怒ってる?」
    「怒ってません」
    こっちを見てるようで見えていないその眼差しに気まずくなって、ぶっきらぼうに返してしまう。
    読めない親友はユルい顔で首を捻った。
    ……僕はどうにかこうにか切り替えようと、スマホロトムを取り出した。
    「そろそろ特別講師でも呼びますか?ずっとここに居たら一日で話題尽きそうだし」
    「んー、お好きなように」
    「じゃあ勝手にします。誰がいいかな……ミモりん、は……もうボタンから話聞いてるだろうし、むしろ変に呼び立てたら邪魔になるかも…………」
    講師を呼び出す為に、誰を選ぶか考えながら立ち上がる。

    その音を聞いてか、一瞬ツバっさんが肩を跳ねさせた。

    「あ……ご、ごめんなさい。何処にも行きませんよ。パソコン操作するだけですから」
    「……分かってるよー。早く行きなー」
    不安になるのは正常な反応だ。なのにまたなんでもない振りするんだから。
    もう本当に本当に呆れ果てて、聞こえないようこっそり溜め息を吐いた。















    予鈴が鳴って、どうやら昼休みに入ったらしい。呼び出された特別講師達は昼食や業務の準備の為離席し、代わりに部員達の足音、声、その他物音が増えて部室は一気に騒がしくなった。
    「カキツバタ先輩!ハルト!ご飯食べよ!」
    「アカマツと色々買ったり作ったりしてきた」
    「やったー、ありがとう二人共!」
    騒々しさを増したのはテーブル周りもで、アカマツとスグリがやってきてオイラ達の正面に陣取る。
    声とぼんやりとしたシルエットで誰かは直ぐ分かったものの、相変わらずその顔はよく見えなかった。故にあまり上手く感情を読み取れない。色々と無理してないといいけど。
    「先輩、サンドウィッチ食べる?辛さ控えめのやつ」
    他にも部員が座って食事に手を付けているようだし、まあ零さない保証は無いがと言いながら受け取った。アカマツ達は「仕方ないから気にしない」「そういうのも今更だし」と自分達の分を食べ始める。
    「二人はずっとここに居たの?座りっぱなしもちょっとキツくない?」
    「まあちょっと腰は痛いけど。ネモ達呼んでたしゼイユ達も時々様子見に来てくれたし、暇はしなかったよ」
    「他のヤツらも構ってくれたしねぃ」
    「ふーん、そっか」
    いやあしかし、ちょっと疲れたなあ。
    とは言わなかった。確かに暇はさせてもらえなかったけど、ほぼ常に話しかけられたり心配されたりするのは、些か心労が重なる。
    特にここは雑音が多過ぎて、敏感になった耳にはちょいとしんどかった。……そんなことは言い出せないけど。
    これが少なくとも一週間以上かあ…………
    「ご飯終わったら軽く歩いてきたら?一日中同じ体勢は身体に良くないべ」
    「確かに。ツバっさんも散歩しに行かない?テラリウムドームまでは行けなくても学園は広いし、一緒に歩こうよ」
    「えー、かったりぃよー。ンなことより部屋戻って寝たい」
    「お前はそればっかだなホント……こんな時間に寝たら夜寝れんくなるべ」
    「先輩も偶には歩いた方がいいって」
    わざと軽薄な言い方したとはいえ、本音だったのになあ。
    もう「放っとけ」と告げるのは無意味だと分からされてきたけれど、一人で部屋に居たらダメと怒られるのは心外だった。こんな状態だからこそ、一人の方が楽な時だってあんのにねぃ。
    サンドウィッチをちまちま頬張りながら肩を竦める。
    「白杖の扱いも一応慣れておかないと」なんて説得されて、結局は頷いてしまった。我ながら押しに弱い。とても不本意だ。
    「それでスグリ。なにか効果がありそうな道具とか…………」
    間も無く話題はオイラの目についてになって、しかしオイラ本人はただぼんやりと聞くだけで会話は進んだ。
    そりゃそうだって感じだが、スグリもアカマツも有効そうな方法も有益な情報も掴めていないらしい。目に見えて落胆していた。……オイラの目ほぼ見えてないけど。
    「案外目薬とかそういうのもいいのかな?」
    「他に効きそうな道具とかも無いしねえ」
    「ていうか今更だけど、ちゃんとした病院で診てもらった方が…………」
    やがてサンドウィッチを食べ終わったオイラは、隣から渡されたティッシュで手や口周りを拭いて欠伸する。
    他の三人の食事がどれだけ進んでるかは、まあ、知りようがないので、とりあえず待つことにした。
    杖を抱えるように持ちながら目を伏せる。早く終わんねーかなあ。眠いし怠い。周囲の騒めきが今ばかりは煩わしい。
    部屋に帰りてえなぁー、バトルしてえなぁー。ブリジュラス達の飯は昨日も今日も誰かしらがあげてくれてたらしいけど、ストレスは溜まりそうだよなあ。
    「カキツバタ、聞いてんの?俺らお前の話さしてんだけど」
    「えーでも平行線なんだろぃ?つーかオイラが加わったって邪魔にしかならねえじゃん?」
    「それは……否定しないけど」
    休み時間が無くなってきたのか、彼らはやっと無駄なやり取りを中断して飯に集中した。咀嚼音がやけに耳に届く。
    そして、間も無く再び予鈴が。
    「じゃあ俺ら行くな」
    「放課後また来るから!よろしくなハルト!カキツバタ先輩も、変なことしないでよ?」
    「うん、任せて」
    「はいよー、いってらぁー」
    音が徐々に減っていく。少しだけ肩の力が抜けた。それでもまだしんどいままだけど。
    「僕達も行きますか」
    「ホントに歩かないとダメぇ?ツバっさん気が進まねえなぁ」
    「はいはい、行きますよ。ほら杖持って。立ってください」
    「はい塩ー」
    今朝と同様手を取られて、立たされる。まるで介護だ。責任でも感じてるのかキョーダイは過保護ったらないねぃ。
    「じゃあ、そうですね……そういえば僕購買で買いたい物があったので、一先ずそこを目指してぐるっと一周しますか。ついでに目に良さそうな物でも探しましょう」
    「…………はぁい」
    拒否権無さそうだし行く行かないの問答は怠い。オイラは嫌々付き合うことにした。
    手を繋いだままハルトは歩き出して、しかし今回は前ではなく隣につく。「迷わない」と豪語したオイラがどの程度道を把握してるかの確認と、あとさっき言ったように杖に慣れてもらう意図だと察した。
    のほほんとしてるようで、案外考えてるんだよな、キョーダイは。流石はチャンピオン様。
    ……本当にちょっと過保護だけど。
    ともあれオイラは杖でそれっぽく障害物の有無を見つつ、記憶と勘を頼りに進んで。
    難無く購買まで辿り着いた、っぽい。扉を潜るとハルトが感嘆の声を漏らした。
    「凄い!ちゃんと着いた!……全然迷い無かったけど、ホントに見えてないんですか?」
    「へっへ、まあツバっさんにかかればこれくらい余裕よ!」
    完全に目隠しされても大丈夫な自信がある。
    そうドヤ顔したら、「三留の賜物だろうから誇っていいことなのか分かんないなあ……」と呆れられた。
    「それで?なんか欲しいモンあったんだろぃ」
    「あっ、そうだった。最近ツバっさんやスグリ達との勝負の為に色々ドカドカ使っちゃってて……補充したかったんです」
    「熱心だねぃ」
    グイグイ引かれて売り場まで同行させられつつ、そこまで準備してくれたのにオイラの所為で勝負止まって勿体ねえなあ、と思う。
    運が悪かっただけなので落ち込むまでは行かないが、申し訳なさは多少あった。
    「別にツバっさんの所為じゃないし、気にしなくていいですよ?」
    「おっとぉ?別にオイラなーんも気にしちゃねえけど?」
    「ふーん」
    「へっへっへー」
    そこで妙に気を回されて、オイラは誤魔化すように笑った。
    ハルト、は……買い物に集中し始めたのか、それ以上はなにも言わなかった。喋ってくれないと機嫌の良し悪し分かんないの不便だなあ。よく考えたら顔色とかも全然さっぱりだし、いつかのスグリみたいに誰かが無茶しても気付ける自信が無い。大分深刻だねぃ。
    まあオイラが手助けなんてするまでもない環境にはなってるだろうが。『なにも出来ない』を強く痛感して、自嘲的に笑った。
    「ツバっさん?大丈夫ですか?」
    「おうよ。早く終わらせてくれぃ。座りてえから」
    「座ってばかりじゃ足腰弱っちゃいますよ」
    「大丈夫大丈夫、竜の子ってのは丈夫だから」
    「純度百パーの人間でしょツバっさんは……」
    キョーダイはオイラを連れてまた歩き出す。
    この位置は会計かな。BPでの支払いをサクッと終えて、鞄に道具達を詰める音を立ててからまたオイラの手を掴んだ。
    「よし!オッケーです!じゃあ行きましょう!」
    するとそのタイミングで、

    「あっ!チャンピオン!こんな所に居たんですね」

    「!」
    誰かがどっかから出て来て、キョーダイに話しかけた。この声は知ってる。
    「先生」
    そうそう、先生だ。確かバトル学を担当してるうちの一人。
    バトル特化なだけあり、この学校にはバトル学を受け持っている教師が複数人居るのだ。オイラも面識はあったので、影の大きさ的にこの辺りに居るかな?と推測して軽く会釈しておいた。
    「てっきり部室に居るかと思ってたのですが。放送で呼んだ方が早かったですね……」
    「どうかしましたか?なにかトラブルでも?」
    「トラブルではないのですが。ハルトさんの交換留学期間についての話があるんです。貴方は現チャンピオンですし色々複雑なので、今から職員室に来ていただけませんか?」
    「えっ、今から?」
    ハルトはギョッとして、あからさまに慌てた声色になる。
    「そんなに急ぎなんですか?せめて彼を部屋か部室に送ってから……」
    「申し訳ないのですが、立て込んでいて時間があまり無く……直ぐに終わるので!」
    仕方ないなあ、このチャンピオン様はお人好し過ぎるんだから。
    オイラの方からパッと手を放すと、ハルトが振り向く気配がした。
    「行ってきなよ。オイラここで待ってるからよ」
    「でも…………」
    「ダイジョーブだって、ちゃんとジッとしてっから。いざとなったらポケモン達も居るし?長引きそうだったら電話なりメッセージなりで教えてくれぃ」
    メッセージも読み上げ機能で分かるし!そう笑ったら、ハルトは暫く悩んで。
    なにかガサゴソタンタンと音を立てて、改めてオイラに言った。
    「今ゼイユ達に連絡したから、直ぐに誰かここに来ると思います。それまでジッとしててください!いいですね!?絶対ですよ!?」
    「はいよー任せなー。そんじゃ行ってらっしゃい」
    「行ってきます!」
    「ごめんなさいチャンピオン……カキツバタさんも申し訳ない、お大事に」
    チャンピオン様は随分不満気な強い語調で、先生は労りの言葉を最後に職員室へと立ち去った。
    二人が居なくなったのが分かると、邪魔にならない位置へ移動する為に白杖を動かす。
    「ふぅ」
    なんとか誰ともぶつからずに隅っこに行って、突っ立ってリーグ部員が来るのを待った。
    全然普通に帰れると思うけど。そんなことしたらハルトは今度こそ一人にしてくれなくなりそうだ。視線を感じるが我慢して待機しておく。

    ……あまり時間が経たないうちに、なにやらヒソヒソとした声が聞こえてくる。

    と思ったら、直後に足音が真っ直ぐ向かってきた。

    「ねえ、リーグ部長さん」
    「ちょっとお話いいですか〜?」
    聞き覚えの無い声だった。多分リーグ部員でも部を辞めたヤツでもない。人数は五人くらいか。
    「なんだぃ?」
    顔も見えないし髪色や体格にこれと言った特徴も無く、マジで全員誰か分かんなかったけど。トラブルを起こすのは避けたくて、営業スマイルで応じた。
    どう考えても穏やかなことなど企んでいないだろう連中は、「いやあ実はさあ」と胡散臭く話す。
    「なんだっけ?元チャンピオンのアレ。俺達の友達がアレにちょーっとお世話になっててさあ」
    初っ端から頬が引き攣りそうになったが、どうにかポーカーフェイスを維持した。
    「ああ、別に仕返しとかは考えてねえよ?でもさあ、アンタらのやり方に不満あるんだよね」
    「なんでアレのこと野放しにしてるワケ?休学して謝ったからって許されるとでも思ってんの?」
    「どれだけの生徒がアレに迷惑被ったか、分かってんでしょ」
    「アンタ今部長なんだろ?もっとあるだろ、俺達被害者への誠意の見せ方」
    「アレもそうだがアレの姉貴も大概だろ。普通もっと厳格に対処するよなあ?」
    白々しい。見えてねえからってきっとニヤニヤ笑ってんだろう。
    確かに過去のスグリの横暴さやゼイユの性格に反感を抱くヤツはそこそこ居るが。まあコイツらの場合は完全に口実、出鱈目だ。
    相手をするだけ無駄……だが、どうしたもんか。
    「先ずはさあ、ほら」
    「BP寄越せよ。千……いや万くらいは無いとなあ」
    「チャンピオンにもあげてたんだろ?なら俺らにくれてもいいじゃん」
    「早くスマホロトム出せ」
    めんどくせーーー。視力落ちてるってだけでイキり過ぎだろ。普段のオイラにはなんにも出来ないクセに。
    もうポケモン出しちまおうかな。周囲の騒つきからして証人は居る。指示しなくても追い払うくらいなら、
    「おい、聞いてんのかよ」
    「!!」
    ボールに手を伸ばそうとしたら、気付かれたらしく手首を掴まれて。
    おまけに白杖まで奪われてしまった。
    「こんなモンが無えとマトモに歩けねえクセに」
    「ずっと言いたかったけどさあ、お前チャンピオンだったからって調子に乗ってるよな?」
    「ちょっとポケモン強いだけで勉強出来ねえのに」
    「三留してるバカがイキがるなよ」
    好き勝手言いやがる。お前らが貶す姉弟だってそこまで言わねえぜ?
    まあこの程度の暴言で怒ったり怯えるような性格でもないので、オイラは溜め息を吐いた。
    「あ?なんだよ」
    「BPだけで済ませてやるって言ってんのに、なんだその態度は?」
    すると胸倉まで掴まれて、誰かが「先生呼んできた方が」と呟く。その生徒が睨まれたのか息を呑むのが聞こえた。
    「チッ、涼しい顔しやがって。スカしてないで一言くらい謝ったら?」
    「大体お前らリーグ部はなあ」
    次々罵詈雑言が飛んで、関係の無いタロ達の悪口まで放つモンだから。
    流石にそろそろ苛立ちも募って口を開いた。

    そして、手持ちの名前を呼ぼうとした瞬間、近くでパシッと音がした。


    「アンタら、なにしてくれてんの?」

    「手ぇ放せよ」


    「!! お、お前らは……!!」

    おっと、噂の姉弟の登場だ。

    どうやらオイラに掴みかかってたヤツの手首をゼイユが掴み返していたらしい。
    舌打ちと共に乱暴に解放されて、スグリらしき腕に支えられる。
    「大丈夫かカキツバタ?」
    「おー」
    連中の影が後退った。
    どうにもご姉弟は激オコらしく、地を這うような低い声で再度尋ねる。
    「で?もう一度だけ訊くけど、アンタらなにしてんの?その杖、返しなさいよ」
    「目が見えてねえ相手に寄って集って、楽しいの?いつものカキツバタには手ぇ出せねえクセに。腰抜けな上に最低だな」
    うーん、穏便にやり過ごす気ゼロだねぃ。
    堂々と煽るスグリに対して、一人が「なんだと」なんて言い返そうとするが何故か口を噤んだ。
    「そんなに喧嘩したいならあたし達が相手になってやるわよ」
    「それとも、ポケモン勝負の方がいい?」
    「っ、ぐっ……!」
    「…………クソッ!!覚えてろよ!!」
    結局、連中は三下らしい捨て台詞を吐いて消えていった。放り出されたのだろう白杖が床でカラカラ鳴る。
    「フンッ、口程にもないわね」
    「ビビるなら喧嘩売る相手は選べよな」
    本当にその通りだけど、二人も二人でキレ過ぎでは?もっと他に追い払い方あったよね?
    助けられてしまった手前そんな発言は出来なかったが、呆れ果てた。
    「カキツバタ。ほら、杖」
    「あ、どーも」
    「大丈夫だった?怪我とかしてねえべな」
    「お陰様で無傷よ。助かったぜぃ」
    白杖を受け取って平気であることをアピールしたら、二人はホッと息を吐く。思ったよりも心配してたっぽい。なんか申し訳ねえ。いやオイラ悪くないけど。
    「ていうかなんなのよアイツら!!ほんっとサイテー!!やり返せない相手選んで脅すとか、虫唾が走るわ!!」
    「カキツバタがわやうざいのは分かるけど、同感だべ。先生に報告さしとこう。顔は憶えたし」
    マジギレだねぃ。オイラなんかの為にそんなに怒らなくても。
    まあ他の部員にまで危害を加える可能性もあるしオイラは顔分かんないし、任せることにした。
    「一先ず無事で良かったけど。これで一人にならない方がいいってよく分かったでしょ?」
    「今回は仕方ねえけど、ホント気ぃ付けてな」
    「ウス……お世話になります…………」
    変に騒ぎを起こすと却って面倒になるとも痛感した。少しは頼る……頼………頼るしか無いかあ………やだなあ…………
    「じゃ、行くべ。部室戻るよ」
    「はぁい」
    それからスグリに手を取られて引っ張られて、部室へ逆戻りすることまで決まってしまった。部屋に帰りたいんですけどねえ。

    ゼイユがリーグ部に騒動を伝えていたのか、到着すると一層心配されて後からハルトにも泣かれて、「本当に一人になるな」と再三念押しされたのだった。
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