Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    .🚨.

    @410_gg01

    クソデカ拗らせ激重純愛

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    .🚨.

    ☆quiet follow

    ジュンブラの孫さに新刊の冒頭(1万文字程度)

    恋仲になったものの、まだ身体を繋げるまでには至ってない孫さにが身体を繋げるためにゆっくりと準備をする話。

    概念ポリネシアンセックス(R-18)のため、本文の八割ほどエロシーン(の予定)

    またの名を孫六による主人を骨の髄から来世の魂まで俺の女にする話。

    あまりにも進まなすぎるので多めに晒して退路を絶つ! という強い意志で公開します。懺悔。

    欲落つること知る劣情 孫さに 「ははっ。随分と愛らしい顔をするなあ、主人」

    ぎゅう、と緊張からかたく握りしめている主人の手のひらの上に自分の手のひらを重ね、ゆるりと撫でる。びく! と、大袈裟に反応した主人にくつりと笑えば、みるみるうちに顔が羞恥心で赤く染まった。薄らと目尻に涙を溜めたその顔が、どれほど目の前の男を煽るかなんて少しも考えたことがないのだろう。白無垢を連想させる真っ白な寝間着を身につけた主人からは、あまり馴染みのない異国を連想させる花の香りがする。石鹸の類だろうか。そう思って顔を近づけると、主人が目を閉じた。……随分と可愛らしい勘違いだ。口付けられると思ったのだろう。

    お望み通り主人の腰を抱いて引き寄せて、ちう、とひとつ口付ける。そして、その花の香りを……俺に愛されるために身を清めたことを表している香りに混じる女の香りに口角を上げながら、もうひとつだけ口付けて。主人の目が開いて俺と視線が交わったのを確認してから、たっぷりと吐息を混ぜた、意図的に主人の好む低く掠れさせた声で言った。

    晴れ、時々、花嵐。何処吹く風で、人のかたちをした刀が見様見真似で人を愛す。人間が身勝手に被せた神の冠すら傘代わりにして、恋模様の赴くままにあんたを愛そう。ただひとり、唯一の。近代の主に情けないほど惚れ込んだ男に出来るのは、あんたを人の子として死なせてやることと、これでもか! と愛して、安らかに朽ちるまで、恋刀として共に呼吸をすることくらいなのだから。

    「俺の愛に溺れ死ぬ覚悟はあるかい?」


    01


    「理由なくとも、あんたに触れられる権利がほしい」

    幾度目かの夜の逢瀬。顕現してから一年と数ヶ月ほどの短い期間で、思わず口から零れてしまうほど主人に恋をしていたのだと実感したのは、その言葉が凪いだ静寂の中に落ちてからだった。ひっそりと胸の内に秘めておこうと思った言葉は、主人の真っ赤に染まる顔をみて呆気なく続けて口から零れ落ちる。思わず許可を取らずに主人を抱きしめ、少しだけ震えた情けない声色で「好き、だ」と告げた。信じられない、と言わんばかりに『……嘘』と小さく呟く主人に妙に腹が立って、ちう、とひとつまろい頬に口付けて、「あんたを、一人の女として好いている」と真っ直ぐに見つめて言うと、主人の目が大きく零れそうなほど見開いて、それから直ぐにぽろぽろと大粒の涙を零したのをよく覚えている。

    あの時の俺は大いに焦って、人間の涙を拭った経験すらなく、強く擦らないようにと意識しながら「どうした、主人。なぜ泣く? 泣かないでくれ。あんたの涙には弱いんだ」などと言いながら、恐る恐る涙を拭ったのが少しだけ懐かしい。主人に想いを告げるのは、目の前にいる愛おしい人の子が黄泉路を歩いている時だと決めていたのに、現実はそう上手くは行かないようだ。もっと女が喜ぶような伝えた方があったはずなのに、刀を振るうことしか上手に出来ない俺には難しかったらしく、なんとも締まらない告白になってしまった。それでも、主人と俺は想いあっていたらしく、泣きながら主人が『私も孫六さんが、好きです』の言葉に浮かれて歌でも詠みたくなるほど喜んでしまった。

    これは余談だが、俺と主人が想いあっていたのに気付いてなかったのは、当の本人たちだけだったらしい。固定近侍の元政府刀の脇差には「やっとくっついたかよ」と盛大に舌打ちをされたし、同じく元政府刀の一文字のご隠居からは「待ちくたびれたぞ!」と大声で笑われた。この本丸の始まりの一振である、虎徹の真作からは祝いの言葉と同時に「一人の女性としての主を頼むよ」と真剣な顔で言われたので、刀に誓いを立て、初鍛刀である粟田口の短刀には「人妻だ! やったー!」と喜ばれた。念の為、「俺は主を人のことして死なせてやるつもりだ」と隠さずに言うと、それを聞いた初鍛刀は一瞬だけ戦場で見せる鋭い視線を俺によこしてからゾッとするほど綺麗に笑い、次の瞬間には「知ってる!」と子供のように無邪気に笑ったので、流石だな……と身を引き締めるしかなかった。

    比較的に新刃である俺が主人と恋仲など……と、浮かれている反面、一抹の不安もあったが完全に杞憂だった。お互いに公言したわけではないのに、何故か次の日には本丸中に知れ渡っていたし、通りすがる刀たちにもこちらが驚くほど祝福されてしまった。気になって五条の鶴を連想させる太刀に聞いてみれば「主の幸せを願うのは当然のことだろう?」と優しい顔で言われ、悟る。

    要するに、祝福と共に刀を向けられながら主を必ず幸せにしろ、と幾振りもの神に言われているのだ。元より俺が与えられる限りの幸せの全てを与えるつもりでいたし、本当はこの想いを伝えるのは黄泉路のつもりだったと告れば、なにが面白かったのかその太刀は通りすがりの一文字のご隠居に概要を話し、それが終わると二振りでゲラゲラと笑った。「なにかおかしなことを言ったか?」と聞けば、ヒイ、と笑って呼吸を落ち着かせたあとに「君も相当、主に惚れ込んでるな」と当たり前のことを言われたので、「愛してると言ってくれ」とだけ言い返しておいた。

    この本丸の古参も多い新選組の刀たちには、事ある毎に恋バナを強請られるが、話しすぎると「惚気け話でお腹いっぱいなんですけど!」と言われる。全くもって惚気けているつもりはないんだが、そうでもないらしい。粟田口の乱れ刃は随分とお気に召したらしく「もっと聞かせて!」とキャッキャと可愛らしい顔ではしゃがれる。

    どの刀も戦場とはまるで表情が違う。
    主人がこの本丸の主人となってから数年。それだけ刀に愛を注ぎ、共に成長してきた結果だろう。戦場と本丸内での表情があまり変わらない近侍の脇差にそのことを言えば、ハッと鼻で笑われた後に「あんたが言えることじゃねえだろ」と言われてしまったので、「今度、深夜にカップ拉麺を食べる時は俺も呼んでくれ」と言うと、「はあ」と大声を出された。気付かれていないとでも思っていたのだろうが、それはあんたの言う先生の温情だ。「彼の密かな楽しみを奪わないであげてくれ」と朗らかに笑われてしまえば、こちらも微笑ましく見守るしかない。そのことは、本刃にはもちろん秘密だ。

    主人と恋仲になって半年と少し。
    まあ、なにはともあれ、なんとも情けない告白になってしまったが俺と主人は順調だ。……概ね、順調だ。恋刀になったからと言って、特に大きく変わりはない。恋刀、という肩書きはあれども、俺も主人も戦の真っ只中。業務を疎かにするつもりは更々ない。審神者と刀剣男士。人と刀。人間と付喪神。やるべきことはきっちりとこなして、というのが大前提だ。それでも、俺と主人は恋仲であるし、男と女としての触れ合いもある。主人の気持ちを疑うなど有り得ない。顕現当初から表情豊かな人だとは思っていたが、恋仲になってからはそれがより顕著に現れるようになった。手を繋ぐだけで頬を赤く染めるし、口を吸った日なんかは雛鳥が餌を待つように口をはくはくとさせ、照れる。その顔をよく見たくて「顔を隠さないでくれ」と言っても、『恥ずかしいので!』と突っぱねられるのも、愛らしくて心地よい。

    それだけ、主人が俺を一振りの刀剣男士ではなく、自分を愛す男として見てくれている証拠だ。多少の触れ合いはこなしてきた。手を繋ぐ。抱き締め合う。口付ける。そして、その先となれば一つしかない。閨を共にして朝日を見ること。要するに、肌と肌の触れ合いだ。俺と主人は口付け以上の性的な触れ合いまでには至っていない。正確に言うと、何度かそう言う雰囲気になったことはあるが、なんやかんやとはぐらかされ、そのまま共寝をするだけに終わる。俺としては、それだけでも幸せだと言えるのだが、もう少しだけ欲を言うのなら足りない。刀の頃は覚えたことのなかった欲は、主人と恋仲になってからは限度を知らずに溢れてくる。

    俺とて、男の身をしている。
    そういう欲がないはずがない。端的に言うと、主人を抱きたい。奥まで全て、濡れた欲で暴きたい。あの、薄くて柔らかい腹の中に、己の欲を埋めて、快楽で泣かせたいのだ。そろそろ、一人で慰めるのにも限界がある。なら、直接、主人にハッキリと伝えるしかない。主人が性的な触れ合いについてどう思っているかすら知らないのだ。主人の嫌がることはしたくない。主人が嫌だと言うなら諦めて幾らでも待つつもりだが、それよりも先に主人の寿命が尽きてしまったら意味がないだろう。

    「主人、俺だ。あんたの孫六兼元だ」

    思い立ったが吉日。夕餉の際に部屋に訪ねる許可を得た俺は、湯浴みを済ませてあとは寝るだけ、の状態にして主人の私室がある離れへとやってきた。『どうぞ』という声に「失礼する」と返事をして、襖を開けて今では見慣れた主人の私室へと入る。主人も湯浴みを済ませたのか、それっぽいから、という理由で普段使いしている巫女服からゆるい寝間着へと着替えていた。主人の私室は主屋にある執務室とは別に離れにある。理由は簡単。主人がまだ二十代という若い女性であるからだ。数百年と生きてる俺たち付喪神からすると、人間の寿命が尽きる年齢でも若いと思うが、人間の感覚に合わせても主人は若い。それに女性だ。刀剣男士と名のつくように、刀の付喪神で主人に忠誠を誓っているとは言え、男の身体だ。なにより、主人にも「本丸の主」という肩書きを下ろして静かに一人で休める場所が必要だろう、と配慮された結果だ。もちろん、主人に許可を取れば部屋に入ることはできる。ただ、この本丸の刀剣男士の中では暗黙の了解があり、主人が私室にいる時は不必要に近づかないようにしよう、ということになっている。

    心優しい主人への配慮の一つだ。
    なにかと俺たちのことを優先してしまう主人にも一人の時間は必要であり、なにより女性だ。もちろん、この本丸にいる刀の中には女性に仕えてきた刀もいるし、女だからどうこう、ということはないが、実際問題、俺たちは男の身体で顕現されている。それに、どうしたって刀だ。人の子である主人の複雑な心の全てを理解出来るわけではない。主人を主人として慕っているからこその距離感だ。人間は脆い。どんなに屈強な身体を持っていようと、強い精神を持っていようと、いつかは必ず朽ちる。それを、刀である俺たちは、良く、知っている。

    「近寄っても?」

    少し離れた位置で向かい合う状態を寂しく思い、部屋に入って五分もせずにそう言うと、主人は今ここにいる俺が刀剣男士としての俺ではなく、自分の恋刀としての俺だと理解したのか薄らと頬を赤らめて『どうぞ』と口にした。先程の入室許可の言葉と同じだと言うのに、随分と甘く聞こえる。許可を得たので遠慮なく近寄ると、ふわり、と鼻をかすめたのはあまり馴染みのない異国を連想させる花の香りだ。最近、主人が気に入って使っているという石鹸の類だ。髪につける香油のようなものも愛用しているらしい。あまり自分の物に金をかけない主人が、こうした物に手を出すようになったのが俺に少しでも可愛く思われたいから、と知った時はあまりの愛らしさと嬉しさにどうにかなってしまうかと思った。

    「そんなに緊張しないでくれ。俺まで緊張するだろう」
    『孫六さんでも緊張することがあるんですか?』
    「主人は俺のことをなんだと思ってるんだ? 緊張くらいするさ。好きな女の近くにいるんだ。緊張くらいする」

    好きな女、という部分を強調して言うと、主人の顔が更に赤く染まった。俺に恋愛経験がないのはもちろん、主人も聞けば今までに恋人がいたことはなかった、らしい。初恋は済ませていると言っていたが、実ることなくひっそりと穏やかに枯れたそうだ。主人にとって、どんな形であれ初めての男、というのが俺だという事実に柄にもなく舞い上がった。俺以外の男は、主人が少し口説くだけで顔を赤らめることや、口付けようとすると言う前に無意識に瞳を閉じて待っていること。それから、こんなにも柔く甘い体温をしていることを知らないのだ。

    「主人」

    暫くの間、何気ない会話をして主人の緊張を解す。そうガチガチに緊張されると、さっきも言ったが俺の方まで緊張してしまう。好きな女とこの距離でいるのだ。しかも、私室。完全に二つの命しかない、ふたりぼっちの世界は、あまりにも許されていて……あまりにも、俺みたいな主人に心底惚れ込んでいる男にとっては欲の出る空間だ。一つ呼びかけて、欲に濡れた感情を隠さずにじっと見つめると、意味がわかった主人が頬を赤らめ、それから俺の衣服を控えめに掴んで近寄ってから、すう、っと瞼を閉じた。ほら、見たことか。俺が今ここであんたの首を斬り落とす、なんて可能性すら主人は想定していない。まろい頬を指先で数回なぞって、今誰が主人に触れているのか意識させる。ふ、と思わず零れた笑いを不思議に思ったのか、主人が薄らと瞼を上げた頃合いで、その顔に影をさした。

    『ん、』

    ちう、とひとつ。主人の身体をぐう、っと抱き寄せて閉じ込めて。そのまま、何度も口付ける。柔い唇を重ねる度に体温が上がって、主人の身体が小さく震えていく。この震えが恐怖からくるものではないとわかっているので、後頭部に手を回し、髪を梳くように数回撫でてから、ちろ、と舌先で唇を舐めると主人の身体がわかりやすく跳ねた。初めてではないと言うのに、いつまで経っても初心な反応をされるとこちらも困ってしまう。可愛すぎて、愛らしすぎて。早く、この愛おしい花の柔いところに刃を立ててぐちゃぐちゃにしてしまいたい、という欲で喉奥がつまる。軽く触れるだけの口付けの隙間で、下唇を柔く食むと主人が僅かに口を開いた。

    いい子だ、と褒めるように髪を梳きながら頭を撫で、その隙間から主人の口内へと舌を侵入させる。ぬるりとした感触がゾワゾワするのか、俺の衣服を掴む主人の手の力が少しだけ強まる。息継ぎをして、もう一度。遠慮なく主人の口内を己の舌で暴くと、甘く掠れた声が主人の鼻から抜ける。たったこれだけのことで簡単に煽られる自分に内心笑いながら、歯列をなぞり、縮こまった舌を誘い出して絡め、時折、その舌を甘噛みしてやるとビクビクと身体を震わせ、終いには身体の力が抜けてしまったのか、俺の方へと体重を預けてきた。……少し、やりすぎたのかもしれない。

    「大丈夫か、主人」

    ちゅっ、と最後にわざと音を鳴らしてから唇を離す。大丈夫かと問えば、主人は小さな声で『大丈夫です』と返してきた。反応を見るに、不快感があったようではなさそうだ。人間の感情の機微には聡い方だと思っているが、女の複雑な感情は少々難しい。呼吸を落ち着かせるために背中をトントン、と優しく撫でる。少しすれば落ち着いたのか、主人が甘えるように俺へと腕を伸ばしてきたので、お望みの通り抱きしめると嬉しそうに笑われた。

    『孫六さんって、キスするの好きなんですか?』
    「なぜそう思う?」
    『……なんか、いつも長い、から』
    「主人がそう言うならそうなんだろうな。あんたに触れられるなら、なんだって好きだ」

    顔に流れてきた髪を耳にかけてやりながら、愛おしさを乗せるように鼻先に口付ける。ふふ、と擽ったそうに笑った主人は『私も孫六さんにされるならなんだって好きです』と言う。……俺の気持ちも知らないで、よくもまあ、そんな殺し文句が言えるもんだ。背中に回していた手を腰へと滑らす。無防備なのは信頼されているとも言えるが、ここまで来ると少しだけ不安だ。あんたの目の前にいるのは、あんたに忠誠を誓った一振の刀だ。けれど、今あんたの柔い身体に触れているのが、あんたに心底惚れ込んだ、ただの男だと言うのを忘れてもらっちゃあ、困る。そろそろ次の段階に進みたい。話の流れ的にもおかしいことはないだろう。尾てい骨から項まで。指先でつつー、と遡らせると擽ったいのか主人が小さく声を上げた。その反応に気を良くして、吐息をたっぷりと含んで「主人」と呼びかけ、そのまま耳朶を軽く食む。ひあ、となんとも言えない愛らしい声にくつりと笑い、腰を撫でると主人が少しだけ息を呑んだ。

    「主人を、抱きたい」

    包み隠さずはっきりと言えば、主人の身体がわかりやすく強ばった。何度も言うが、無理強いをするつもりは更々ない。数秒か、数十秒か。主人の返事を待っていると、主人が小さな声で俺の名を口にした。

    『あ、あの……』
    「嫌なら断ってくれ。無理強いをしたいわけじゃない。俺はあんたが好きだから抱きたいが、あんたが嫌がることはしたくないんだ。それだけはわかってくれ」

    このままだと主人がなにか良からぬ勘違いをして、自分の気持ちを押し込めて了承してしまいそうだと思った。主人の言葉を遮ってしまったのは悪いと思っているが、先に言っておかないといけないと思ったのだ。主人が再び口を閉じたのをいいことに、ゆっくりと言い聞かせるように、決して、咎めるような口調にはならないようにと意識しながら俺の想いを伝えると、主人が先程よりも大きくなった声量で俺の名を再び口にした。

    『好き、です』
    「ああ。俺も、主人が好きだ」
    『だから……孫六さんにされて嫌なことは、ありません。ただ』
    「ただ?」
    『……わ、私にとって、孫六さんが初めての恋人なので、その』
    「大丈夫だ、主人。あんたが何を言うとあんたのことを嫌いになったりはしないさ。愛おしく思っても、あんたを嫌いになることなんて、有り得ない。教えてくれ」

    言い淀んだ主人にそう言いながら、あやすように頭を撫でる。香油の香りが鼻を掠めて、無条件に体温が上がった。

    『上手に、出来ないかも……だから』
    「上手に?」
    『私、いつもいっぱいいっぱいで……孫六さんに触れてもらえるのは嬉しいけど、いつも恥ずかしくて緊張してしまって。それなのに、孫六さんはいつも余裕そうにしてるから』

    いつも余裕そうにしてる、から。
    主人のその言葉に少しだけ驚いて、主人の頭を撫でる手を止めてしまった。それに気づいた主人が『孫六さん?』と不安そうに言うので、視線が合うように体勢を変えた。

    「余裕そう、ねえ」

    くく、と思わず笑いが出る。余裕そう。
    こんなにも刀に似合わぬ人間のような劣情を抱えた男を見て、主人は余裕そう、というのか。幸か不幸か。好きな女に余裕のない男だと思われるのも癪だが、それとこれとは話が別だ。頭から頬へと手を滑らせて頬を撫でる。耳の縁を指先でなぞって、そこへ口を近づけて、はあ、とわざと欲を隠さずに熱っぽい息を吐いた。

    「しゅじん、」

    あんたの一等柔いところを己の手で傷つけて、ぐちゃぐちゃに掻き乱して。あんたが泣いても快楽で溺れさせて、口付けで呼吸を奪って、愛を口移しで与えて綺麗に誤魔化して。俺のことしか考えられなくなっている主人を想像して自分で自分を慰めている男に、余裕なんてあるわけないだろう。あんたに触れる度に、その温度に酔って欲が出る。触れたい。抱きたい。暴きたい。傷つけたいと愛したいは平等に天秤にのって、それが刀の本分だと左右に小さく揺れるのだ。

    「あんたのことをめちゃくちゃにしたい、と思っている俺に先程と同じことを言えるか?」

    ハ、と主人が息を吐いたと同時にその唇を奪う。
    嫌ではないと言うのなら、少しくらい味見させてもらうくらいはかまわないだろう。二、三度だけ柔く口付けて、それからは呼吸を奪うつもりで唇を重ねた。いつもは主人の気持ちの速度に合わせているが、今はそれすらやめて自分本位で熱を混ぜ合わせる。多少……いや、そこそこ強引だが、主人が本気で嫌がるのなら今すぐにでもやめるつもりだ。主人に触れている手に殆ど力は入っていない。女性の主人でも、本気を出せば容易く逃げられる加減だ。それでも、主人は俺から与えられるいつもより少し強めの口付けを受け入れ、ましてや、俺の衣服を自らぎゅう、と縋るように握って身体を預けてきているのだからたまったもんじゃない。男を煽るのも大概にしてはくれないか。あんたが思うより、俺は優しい男ではない。

    『っ、はあ』

    一度様子を見るかと、幾度目かの息継ぎで口付けを切り上げる。鼻呼吸が上手く出来なかったのか、主人は数分間の口付けで息が軽く上がってしまったようで、肩を僅かに上下させながら酸素を求めていた。その、薄らとあいた唇の隙間から覗く舌はあまりにも赤く、俺と長く口付けていたせいで唇は唾液で濡れていた。ごく、と思わず喉がなる。ほしい。ほしい。目の前の、心底愛おしいと思っている女が、ほしい。そんなことを思いながら、再び身体を抱きこもうと伸ばしそうになった手をなんとかその場に留める。俺の葛藤を知らない主人は、いつもの審神者としての凛とした声ではなく、ただの一人の女を容易く連想させる、どこか熱の籠った声を出した。

    『孫六さん、あの』
    「……すまない、主人。少々、やりすぎた自覚はある」
    『あっ、いえ。その……キス、のことは気にしないでください』
    「だが、主人の了承を得ずに強引に事を進めてしまった。あんたの嫌がることはしたくない、なんて言っておきながら……怖かっただろう? 主人が嫌だと言うなら、俺は部屋に戻……」

    俺の言葉を遮るように、主人の身体が俺の腕の中へと飛び込んできた。反射的にそれを受け止めると、主人は恥ずかしいのか顔を真っ赤にさせながら、それでも、真っ直ぐに俺と視線を合わせて『嫌じゃないです!』とハッキリと言った。嫌、じゃない。その言葉に驚いて、なんと返せばいいのかと考えていると、主人がそのまま言葉を重ねた。

    『そもそも、孫六さんは優しすぎるんです! 貴方が私の恋刀だと言うように、私だって孫六さんの恋人なんですよ。貴方に触れられて、嫌だと思ったことは一度もありません。いつも恥ずかしくて、積極的になれなくて。どうしたらいいかわかんなくて……だから、私の態度のせいで孫六さんを不安にさせてしまうのかもしれないけど、私だって』

    ほんの少しだけ、主人が背筋を伸ばして俺の唇に口付けた。

    『私だって、孫六さんに……抱いて、ほしい』

    です。という丁寧な語尾は羞恥心に負けたのかか細くなってしまい、上手く聞き取れなかった。それでも、主人が勇気をだして俺に胸の内を伝えてくれたということはわかる。十分すぎるくらいだ。好きな女にここまで言われて無下にできる男なんてこの世にいないだろう。不安そうにしている主人を優しく抱きしめて、「ありがとう」と礼を言った。

    「いい女すぎると言うのも困りもんだな」
    『どうしてですか?』
    「主人に毎秒惚れてたら、あんたからもらった心が忙しなくて落ち着かない」

    好きだ、主人。主人が、好きだ。
    あんたに忠誠を誓う一振ではなく、あんたの命に触れることを許された、ただの男の俺を捨てたくはない。

    「強請った俺が言うのもなんだが、ゆっくりでいい。あんたを愛したいから、俺は主人を抱きたいんだ。なに、最初から全てこなさなくてもいいだろう? ゆっくり俺たちの歩幅で進もうじゃないか。主人は徐々に俺に触れられることに慣れてくれればいいし、俺は俺であんたに触れる力加減を覚えていけばいい」

    そう言うと、主人は安堵の滲んだ笑みを浮かべてから『嬉しい』と口にした。基本、始まりの一振と短刀、それから近侍の脇差以外には敬語で喋る主人の、こうしてたまに垣間見える砕けた口調はグッとくるものがある。恋仲になってから何度か主人に楽に話していいと言ったことはあるが、主人曰く、もう慣れてしまっているらしく敬語も苦ではないらしい。いつかはもう少しだけわかりやすく、主人の内側に入れてもらえたように感じる砕けた口調だけで話してもらいたいとも思うが、今でも十分許してもらえているので、それは追々、だ。普段は敬語で話す主人が、俺の行動一つでいっぱいいっぱいになって、思わず敬語が崩れて砕けた口調になるというのも、それはそれでくるものがある。

    とりあえず今日はもう休もう、という話になった。俺が部屋から出ていこうとすると、主人が俺を呼び止め『一緒に寝ないんですか?』なんて可愛らしいことを言ってくるもんだがら、二つ返事で踵を翻し、そのまま主人と同じ布団に入った。……まあ、正直な話、ここまで無防備な状態で好きな女と共に布団に入る、というのは拷問に近い何かがあるが、主人が嬉しそうに『あったかいですね』と笑うので、これっぽっちのことどうとでも良くなってしまう。息苦しくない程度に抱き込んで、「おやすみ、主人」と言うと、うとうととしていた主人から少し甘えたような声で「おやすみなさい」と返事が返ってきた。

    暫く、その場で主人を眺め、主人が完全に寝付いたのを確認してから身体中の力を抜く。血迷った俺でも、流石に寝ている主人に手を出すような男じゃない、はずだ。すうすうと穏やかな寝息を立てている主人の前髪をそっと退かして、その額に唇を落とす。どうか、いい夢を。今夜はいろんな意味で中々寝付けずに長い夜になりそうだな、と思いながら目を閉じ、胸の中の命をそっと抱きしめ直した。

    ゆっくりでいい。あんたが完全に俺の愛に溺れてくれると言うのなら、俺はなんだってしよう。




    新刊へ続く
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖😍👍☺💖🇱🇴🇻🇪💖💖💖💖💖💖👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    .🚨.

    PROGRESSジュンブラの孫さに新刊の冒頭(1万文字程度)

    恋仲になったものの、まだ身体を繋げるまでには至ってない孫さにが身体を繋げるためにゆっくりと準備をする話。

    概念ポリネシアンセックス(R-18)のため、本文の八割ほどエロシーン(の予定)

    またの名を孫六による主人を骨の髄から来世の魂まで俺の女にする話。

    あまりにも進まなすぎるので多めに晒して退路を絶つ! という強い意志で公開します。懺悔。
    欲落つること知る劣情 孫さに 「ははっ。随分と愛らしい顔をするなあ、主人」

    ぎゅう、と緊張からかたく握りしめている主人の手のひらの上に自分の手のひらを重ね、ゆるりと撫でる。びく! と、大袈裟に反応した主人にくつりと笑えば、みるみるうちに顔が羞恥心で赤く染まった。薄らと目尻に涙を溜めたその顔が、どれほど目の前の男を煽るかなんて少しも考えたことがないのだろう。白無垢を連想させる真っ白な寝間着を身につけた主人からは、あまり馴染みのない異国を連想させる花の香りがする。石鹸の類だろうか。そう思って顔を近づけると、主人が目を閉じた。……随分と可愛らしい勘違いだ。口付けられると思ったのだろう。

    お望み通り主人の腰を抱いて引き寄せて、ちう、とひとつ口付ける。そして、その花の香りを……俺に愛されるために身を清めたことを表している香りに混じる女の香りに口角を上げながら、もうひとつだけ口付けて。主人の目が開いて俺と視線が交わったのを確認してから、たっぷりと吐息を混ぜた、意図的に主人の好む低く掠れさせた声で言った。
    10318