五日月 痛みには強い。
そう言ったら、そうでしょうね、と呟いたきりあいつは黙ってしまった。
仕事で廃材を抱えた時にその端部で二の腕の内側を裂いた。仕事柄こんな傷は数に入らないものだし、半袖で現場に入っていた俺に落ち度がある。その程度の知識は持つようになったあいつにそれを咎められるのも面倒に思い、簡単な止血を施し、血で染まったTシャツは捨てて着替えて帰宅した。
だが、先に食事を済ませていたあいつに出された夕飯を喰っている間に、袖口に滲んだ血を見つけられてしまった。怪我をしたんですか? という声を俺は億劫に感じたから、さして痛くない、そういう意味で言ったのだ。
黙りこんだままだったあいつは、消毒薬と俺用に常備されている大きな絆創膏を取りに行きテーブルに置くと、なにも言わずにリビングを出ていってしまった。感じた動揺で手当を期待した自分に気づく。きっと大騒ぎするだろうと思っていた。大丈夫だ、たいしたことはない、そうやってあいつを宥めているうちに、本当になんでもないことのように自分でも思えてくるはずだった。
2000