パティシエのタルタリヤと大学の先生な鍾離先生の話⑥「公子殿、ちょっとそこに座ってくれないか」
酷く真剣な顔で呼ばれ、示されたのはリビングに敷かれたラグの上。毛足の長いそれは、直接腰を下ろしても冷たくは無いだろうが、正直さっきまで布団の中にいた身としては、座りたくないなぁと思うのが本音だった。え、いきなりなんで…?とまだ眠気から覚醒しきれていない頭で考えつつ、しかし、相手の雰囲気は明らかに逃がしてはくれそうになくて。とりあえず「はい」と答えて大人しく腰を下ろした。呼びつけた張本人が正座をしていたのでそれに習い、同じように足を折って。膝を突合せたところで「あれはどういう事だ?」と、スラリと長い指が示したのは、キッチンの片隅にある冷蔵庫だった。
「冷蔵庫…だね?」
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