英雄の器とは 手土産片手に訪ねた骨董屋。
パワーストーンだという貴石を惜しみなく敷いた中庭は、夏至の強い日差しを受け、今日も独特な色を放っている。
夏の盛りにも拘わらず縁側が涼しいのは、もしかしたらこの妖しささえ感じる庭の所為なのかもしれない。
そんな失礼な事を考えながら入道雲を眺めていると、不意に涼やかな声が耳膜を打った。
「『英雄と云うものは天と戦うものなのだろう』……」
「え?」
視線を落とせば、俺の膝を枕に昼寝を楽しんでいた筈のアヤさんが、くふくふと喉を鳴らしている。
いつ起きたのだろう。全く気づかなかった。
睡魔の残る瞳を撓ませる彼は、無言で驚く俺を見上げて言葉を繋ぐ。
「『英雄の器』に出てくる言葉だよ。急に思い出しちゃった」
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