お兄ちゃんはフレンチトーストよりも甘い ざあざあと雨音のする部屋で、ひとりの男が目を覚ました。
気だるい目覚めだ。湿度が高いのだろう。顔を洗おうと起き上がりかけたところで、自分の身体がやけに重たいことに気がついた。
「…………」
腕の中でもぞもぞと動いたのは、俺と似た顔をしているくせにできの悪い、愛しい弟だった。
外はどんよりと重たい雲が空をおおっているというのに、ここには晴れた日の空のような美しい青色があった。そっと髪を梳けば指のすきまからハラハラと落ちていく。ずいぶんと、伸びたものだ。
陶器のような白い肌に触れれば、てのひらに吸いつくようにしっとりとしていて、若さって恐ろしいなぁ、なんて、自身も顔に似つかわぬ年齢をしておきながら、他人事のようにそう思った。
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