雨の森を二人、歩いていた。
一刻ほどで構いません、あなたの時間をくださいませんか、と差し出された手を取って、連れ出されれば一面の翠。
日暮れ前の天気雨。傘はささずに、けれど紡いだ呪文が纏わせた煙管の煙に護られて、体は濡れることもなく。せっかく出かけるのにこれじゃあ、と雨模様に思い置けば、いいえ、これでいいのです、と振り返った横顔が笑んだ。
「着きましたよ、ヒースクリフ」
「え、ぁ……! すごい、」
「美しいでしょう?」
青、紫、紅桃に白。鞠のように丸く咲いた紫陽花はどれも鮮やかに色付いて、眼前を埋め尽くしどこまでも広がる。息を呑むヒースクリフの傍らで、雨粒を乗せた葉を露の一滴が滑った。そうして滴り落ちた先で、次の花もまた透明な彩りに濡れる。
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