テラさん、と僕を呼ぶ耳慣れた声は、記憶にある限り今まで聞いた中で最も焦っていたように思う。
予報になかった降雪のおかげで街中どこも大混乱だ。電車は遅延し、スノータイヤへの交換なんていう習慣はない都会の車で道路は渋滞とクラクションの嵐。『午後からはぐっと気温が下がり冷たい雨が降るでしょう、外出の際は暖かくしてお出かけください』。どこの予報を確認しても、総じてそんな一言が添えられていた。天候が崩れるのは覚悟していたけれど、まさかここまで冷え込むとは。
「防寒とか、そういう話じゃないんだよねぇ、こうなっちゃうと……」
雨はみぞれ混じりになり、そして雪へと姿を変えた。雑踏の中、踏み付けられて溶けるよりも早く降り積もり、やがて道行く者たちの足を止める。物珍しさからの行為であるのははじめだけだ。慣れない雪路に帰宅を阻まれ身動きが取れなくなっていく。
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