薔薇が赤い理由ざくり、ざくり、スコップを地面に突き立て、土を持ち上げ、横に捨てる。人間一人分の穴を掘るのにも慣れてしまった。野犬が掘り起こす心配もない私有地だから浅くてもいいのが有り難かった。
「ヴァージル」
暗い闇に浮かぶ炎。夜の庭とは不釣り合いの声変わり前の少年の声。
「ミカ、こんなん暗いとこで何しとるん?」
贄は館の主に捧げた。その亡骸を埋めるために余すことなく養分とするため、穴を掘っている。何度も、幾夜も、何年も。
「もう、」
ミカが贄へ視線をやった折から顔を歪める。その言葉が続く先を音にする前に、そっと人差し指を唇へ押し付けた。
「あかん。夜の庭では言ったらダメや」
早々に心が砕けたヴァージルと違い、ミカは心を手放さないでいる。だからこそ、贄の死に痛みを覚えてしまう。心で思っていても主の腹の中でいってしまえばどうなるかはわからなかった。
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