Δノスクラ出会い編3 作業は難航している。
自然のものではなく科学の力でもなく、人ならざる化け物の特殊な力で作り出されたらしき氷の塊は尋常ではない硬度を誇り、かつ雑な強硬手段を取れば『中身』にどのような影響が出るか解らない。聖別された銀のナイフで氷の表層を削り落とせることが判明したが地下室の壁面を覆う氷はぶ厚く、文字通りの手作業では運び出せる状態まで切り出すなどどれだけの時間がかかるのか考えたくもなかった。
「今はデータを取って、明日以降出直すしかない」
というのが、“D”を除いた部隊全員の結論だった。ノースディンとしても、土木作業にも似た重労働は可能な限り避けたい。
“D”は、おそらくはノースディンを含む彼が直に選抜した隊員達以外からは察せられない程度の表情の変化で、ごく僅かに落胆の気配を覗かせたものの特に異論は無いようだった。もしここで彼が「ヤダ、今すぐ持って帰る」などと言おうものなら、勿論全員が死ぬ思いで『何とか』したのだろうが。
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