んまちゃん
DONE20220807-0808赤い退治人をねらい撃ち!2
展示物②
9月発刊予定のドラロナ短編小説集、収録作品
サンプルとしてどうぞ
決して厭うべからず あっと思ったのは、とある花曇りの夜のことだった。
肌寒さが残るから今晩はお鍋にしようと言ったドラルクが、どうやって手に入れたのかも知らないような立派な土鍋と格闘し始めて、もう半刻程が経ったろうか。休日、宵の口。
昼過ぎにフットサルの練習へと出かけたジョンは、まだ帰らない。もうすぐ試合があるのだとヌンヌン意気込んでいたから、長引いているのかもしれなかった。だからここに居るのは人間一人と、吸血鬼が一人と一尾と一台だ。優秀な門番はおやすみモードで、そのせいかいつもは騒がしい筈の室内は極めて静かだった。包丁がまな板に触れる音と、エアーポンプの音だけが聞こえてくる。それでいて米の炊ける甘い匂いと、出汁の含み豊かな香りが漂うばかりなのだから、鼓膜が、静寂の形を保っていくのが分かるようだった。
15422肌寒さが残るから今晩はお鍋にしようと言ったドラルクが、どうやって手に入れたのかも知らないような立派な土鍋と格闘し始めて、もう半刻程が経ったろうか。休日、宵の口。
昼過ぎにフットサルの練習へと出かけたジョンは、まだ帰らない。もうすぐ試合があるのだとヌンヌン意気込んでいたから、長引いているのかもしれなかった。だからここに居るのは人間一人と、吸血鬼が一人と一尾と一台だ。優秀な門番はおやすみモードで、そのせいかいつもは騒がしい筈の室内は極めて静かだった。包丁がまな板に触れる音と、エアーポンプの音だけが聞こえてくる。それでいて米の炊ける甘い匂いと、出汁の含み豊かな香りが漂うばかりなのだから、鼓膜が、静寂の形を保っていくのが分かるようだった。
んまちゃん
DONE20220807-0808赤い退治人をねらい撃ち!2
展示物①
9月発刊予定のドラロナ短編小説集、収録作品
サンプルとしてどうぞ
てぐすねまんでー すっかり夜明かしをしてしまった。
本を読み終えたタイミング。端までぴったりと閉めていなかったらしいカーテンの隙間から、細く強い日が射し込んでいるのを見て、私はそう思った。街はもうすっかり、太陽に照らされている。一度気づくと周りの様子が鮮明に拾えるようだった。
窓の向こうからは、薄らと喧騒が聞こえて来る。耳を澄ますと、小さな子供の、きゃらきゃらと楽しそうに母親を呼ぶ笑い声がした。今日のお昼はなあに、と尋ねる様が微笑ましくてつい笑みが漏れる。お昼、お昼ご飯、昼食。おやもうそんな時間だったのかと驚き、壁掛けの時計を見やれば、針が指していたのはてっぺんを少し過ぎた辺りであった。
私としたことが、本に夢中ですっかり朝を通り過ごしてしまったらしい。
2804本を読み終えたタイミング。端までぴったりと閉めていなかったらしいカーテンの隙間から、細く強い日が射し込んでいるのを見て、私はそう思った。街はもうすっかり、太陽に照らされている。一度気づくと周りの様子が鮮明に拾えるようだった。
窓の向こうからは、薄らと喧騒が聞こえて来る。耳を澄ますと、小さな子供の、きゃらきゃらと楽しそうに母親を呼ぶ笑い声がした。今日のお昼はなあに、と尋ねる様が微笑ましくてつい笑みが漏れる。お昼、お昼ご飯、昼食。おやもうそんな時間だったのかと驚き、壁掛けの時計を見やれば、針が指していたのはてっぺんを少し過ぎた辺りであった。
私としたことが、本に夢中ですっかり朝を通り過ごしてしまったらしい。