魔法少女スグツバ第○○話「魔法少女カッキーとスグリ 運命の出会い」
「うわぁぁ」
スグリは走っていた。まがまがしく黒く得体のしれない「何か」が意味不明にスグリを追い立ててくるからである。
「うわっ」
最悪な出来事というのはどうしてこうも重なり合うのか。疲れてきた足で、それでも鞭打って駆けていると、石に躓いた。盛大にこける。振り返る。「何か」がもう一寸先まで迫っている。ああ、もう駄目だ。ギュッと目をつむる。
その時、なぜか体がふわりと持ち上がる。目を開けてみる。
「大丈夫かい?いやぁ、危なかったねい」
自分を横抱きにしていたのは、なんだかふわふわな舞台衣装のようなものをその身にまとい、微笑む少女だった。横には何かよく分からない黄色の竜が翼をはためかせているが、スグリはもうどうにでもなれの境地に達していた。
その少女は、なぜか自分が片思いしているとある先輩に似ていた。白い絹のように細い髪や、蜂蜜の溶けたような金色の瞳がそう思わせるのだろうか。なんだか口調も似ている気がする。しかし、スグリの片思いの相手、学校の同じ部活の先輩のカキツバタは、食えない「男」であって、「女」の目の前の少女であるはずがないのだ。
その少女は、スグリがじろじろと不躾に自分を見つめる視線に「エッチ」と小さく零した後で
「怖かったねぃ。でも、もう大丈夫だぜ。おいらが護ってやるからよ」
とにんまりと笑った。
その瞬間。スグリの脳内をびりびりと電流が一瞬にして駆け巡った。フラッシュバックというのだろうか。いつもニコニコと笑顔の仮面を張り付けている先輩の、滅多に見ない本当のにんまりとしたその笑顔と、少女の笑顔が重なる。やはり似ている。いや似ているなんてものじゃない。少女はカキツバタが性転換したなら、まさにかくやであった。そんな少女が、俺だけをみて、俺だけを護ってくれている。まるで、カキツバタがスグリを護ってくれているように。スグリの胸はドキドキと暴れ回った。
「くそ…出たな、魔法少女カッキー」
「はいはい。そういうのいいからとっとと消えなめんどっちぃ」
スグリが動けずにいる間に「カッキー」と呼ばれたその少女はステッキのような何かであっという間にその「何か」を消し炭に変えた。「うぎゃぁ」と響く断末魔さえ一瞬のように消え去り、なぜか少女もいつのまにか消え、そこに残されたのはスグリと静寂のみであった。
「何座り込んでるんで?こんな道端で。変人として通報されちまいやすよ」
バッとそちらを見上げると、件の先輩カキツバタが呆れたようにこちらを見下ろしていた。じっとカキツバタを見つめる。
「何じろじろ見てるんで?エッチ」
キャッとふざけて照れたように体をくねらせる、そんなむかつく、でも大好きな先輩。少女も可愛かった。けれどやっぱり
「お前のがめんこいな。」
「ん?何のお話?」
こっから、「で、何で座り込んでるんで?」って聞かれて、「腰抜けて立てねんだ」っていうスグリを「しゃあねえな」って負ぶってあげるカキツバタパイセン。その帰り道に魔法少女の話と、彼女に惚れた話をして自分自身にジェラる先輩が見たいんじゃぁぁぁ