何度だって教えてオレ、はじめてだからいいとことかよく分からないしちゃんと教えてね、と楽しそうに言われて瞬きを数回。辛党のこいつの口から甘さを含んだ声色でそんな言葉を貰い受けるなんて少し前には思いもしなかった。ベッドの上で向かい合わせの俺達は今日"初めて"そういうことをするつもりでいる。
「初めてって、ほんとうに初めてってことか」
「えー。それ聞いちゃうの」
正直どうでもいいことを聞いてしまったと言った途端に後悔した。ケイトが気を遣ってなにかを話してくれたとして俺が勝手に思わぬ所で傷ついてしまうかもしれないというのに。
「……これで勘弁してくれない?」
しかしそれは杞憂だったというか、手首を掴まれたかと思えばそれは胸元に持っていかれて、手のひらに握らされた心音は部屋着のシャツ越しにどくどくと煩い位響いていた。
「ケイト」
「なんか、ごめん。余裕無くて……だっさ」
ケイトが俯くと、いつもはピンで留められている前髪がぱさりと目元にかかって、伏せられた瞳にドキッとした。俺だって余裕なんかなくて早く触れて欲しいのに、なんとなく気持ちが噛み合っていない気がした。
「……ケイト、好きだ」
「っ…急にどうしたの」
「急じゃない。ずっと、思って、る」
「ね、トレイくんオレの心臓止める気なの…?」
「そんなつもりは無いんだが…」
俺の言葉を聞くと動揺した様子で顔を上げたケイトが俺を見つめる。勢いで普段改めてなんてとてもじゃないが言えない気持ちを口にすると、つかえて途切れ途切れになってしまったし、止まるどころか余計にケイトの心音が早足になった気がした。じっと見られるのは得意じゃないが、視線を逸らしてはいけないと思った。
「俺は、まだ知らないお前の顔を知りたいだけなんだ」
ふぅん、と呟いたケイトは、顔こそ真っ赤なのだが細めた瞳からちらりと覗くエメラルドの向こうに欲望の炎が揺らめいていた。ケイトと恋人になって、今まで見たことのない顔に遭遇する度にどうしようもなく嬉しくなるし、俺だけが知っているお前ならいいのにと考えてしまう。
「じゃあさ、トレイの可愛い所…たくさん見せて。気持ち良かったら教えて。そしたら、オレも…本当のオレを、見せるから」
唇を塞がれて、深くなっていく口づけの中で
胸元に置いた手を背中に回した。