untitled / 恋衣都「ごめん、もう少し一緒にいたい」
いつものレイトショー。いつもというには回数が少ない気もするけど。
そんな帰り際、彼らしくない言葉に耳を疑う。
彼らしくないというのも失礼だと思うけれど、本当に彼らしくはないのだ。
私の知る綾戸恋さんは、映画や好きなことには饒舌になっても、自分のことも他人のことも多くは話さない。
だから私たちが繋がっているのは仕事と映画だけで。それだけ、
それだけで――
夜道を隣歩いて寮まで送ってもらってそれだけだったのに、彼に腕を引かれて入ったのは二回目のレイトショー。
本当に最後の時間帯のレイトショーだ。恋さんとも滅多に来ない。
ポップコーンの売り場も閉まる時間帯なのだと彼に引かれる腕に意識がいかないようにする代わりに焦げたキャラメルの残り香がやけに鼻についた。
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