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    こーゆー

    小説とからくがきとかワンクッションしたいもの置き場

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    こーゆー

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    エル琴 幼少期に出会った2人の物語
    (本編ではないifの世界ですが私のエル琴の世界ではこんな感じのことがあった2人です。)
    またいつか書いたら設定が変わってるかもしれませんが、今回はこんな感じの設定で一気に書いてみました(*´ω`*)

    エル琴と幸運のハンカチ……いつから気を失っていたのだろうか…。
    ガタンと大きく揺れた振動で俺は頭を打ち意識を取り戻した。

    薄暗の中、木箱の隙間から周囲を見回す。
    大樽や自分が隠れていた木箱と同じようなものが数個と木でできた床。それらすべてを覆うように布がかぶさっている。
    「よーしよし、長時間お疲れさん。やっと着いたなぁ、飯と水をやるからな」
    人間の声と馬の嬉しそうな鳴き声。ハッと息と気配を消し様子を俺はうかがった。
    …俺にはナイフが1本。
    布をはがされ、箱を確認され俺の姿を見られれば終わりだ。
    いざとなれば…やるしかない。

    カチャカチャと金具を外す音が消えると同時に馬の足音が遠のき木製のドアが開閉する。そのまま馬の主と馬はどこかへ行ったようだ。


    用心深く周囲を警戒しながら幌から抜け出し辺りを見回すと、どうやらここは商人の納屋のようだ。
    ……しかし、どこのだ?

    クワや鍬のサイズがやや小さい。子供用…というわけでもなさそうだ。
    …ドワーフ領か?
    何度も仲間とも呼べないその場凌ぎの盗賊たちと食料や雨風をふせげる寝床を奪いに参加したことはあったが、それにしてはどうも何かが引っかかる。

    人の気配がないことを確認し俺は納屋を出た。
    辺りはのどかな森林が広がり、見たこともない場所だと悟った。
    いつまたさっきの奴が帰ってくるとも分からない。
    身を隠すならこの森はちょうど良さそうだ。
    ザクザクとできるだけ土を避け落ち葉や木の根を踏み足跡が残らないように奥へ進んだ。集落に行けばなにか食べ物はあるだろう…。
    だがまずは周辺を調べることが先だ。


    …意識を失う前の記憶が徐々に蘇ってくる。
    そうだ、俺はロンボーズの谷で仲間と盗んできた多少の食料を数人で奪い合いかじりついた。数日ぶりの食事を腹に詰めれるだけ詰めやっと一息ついた矢先、通報があったのだろう。エルフの兵士共に追われ仲間が2人殺された。

    子供特有のすばしっこさでとにかく遠くへ走り逃げてみせた。
    馬車に飛び乗り検問や荷台からの積み下ろしを察してはその都度ただ追ってから逃げ続けた。

    港まで来たのは初めてで、ここまでくれば大丈夫だろうと安堵するもここでもダークエルフの悪評はどこからともなく聞こえてくる。ヴルヴァリアとかいう組織の影響も強いようだ。

    …生まれながらに肌の色が濃い。
    それだけで蔑まれてきた。

    エルフであれば喜ばれ周囲にも生まれただけで感謝されるらしい。
    自由に何不自由なく生活でき貴族であれば言葉を交わすだけで何でも手に入る。
    そして、エルフは俺達を嫌う。
    犯罪に手を染めるしか生きる道のない俺たちに、手を差し伸べる奴などいない。

    走り疲れ、途中で転んで擦りむいた足や腕にもズキズキと痛みがある。

    (さすがに…アジトから離れすぎたな…。ほとぼりが冷めるまでここらで潜伏するしかないか)

    「こっちにダークエルフが逃げ込んできてるらしいぞ」
    「またダークエルフの盗賊共か!?ドワーフやエルフ船のにでも乗ろうものならとっ捕まえてやれ!」
    「見つけ次第海に投げ込んでやってもいいぜ!」
    「アイツらあちこちに潜伏しやがるからな、気を抜くな!探して引きずり出せ!!」

    ………!!

    このままではやられる…
    ここに居ては見つかる…!

    俺以外にも港へ逃げ込んだ奴が数名いるらしい。
    …なんて迷惑な。

    「いたぞ!!」
    「捕まえろ!!」
    「うわあああ!!」

    別のダークエルフが発見され周囲の視線が集中したのを確認し、慌てて俺は見張りのいない方へ走った。物陰を探しまわっている時、ちょうど一隻の船の入り口ががら空きなのを見逃さなかった。

    船員は積み荷や乗員が全て乗ったかを大声で聞きながら甲板のほうで他の船員とやりとりをしている。

    (…どうする…?これはどこに行く船だ?帰ってこれるのか?もしも中で見つかれば……)
    戸惑う俺の後ろからはさっきのエルフが注意をよびかけながらこちらへ向かってきている。

    (一か八か…、行くしかない…!)

    サッと船に乗り込み積み荷に紛れこむと、声を聞きつけた船員がエルフと話しをしているのが聞こえた。

    「…というわけでダークエルフは数名捕まえましたが、奴らは盗みや殺しをする凶悪な存在です。厳重に注意してください」
    「わかりました。ご忠告ありがとうございます」

    それからしばらくして俺は船の中でようやく警戒をとくことができた。
    貨物室には誰もいない。うかつに物音を立てたり食料に手をつけ見つかっては元も子もない…。
    深夜の奇襲から明け方の現在までをずっと気を張り続けていた俺は大きな木箱の中に身を潜めているうちに気を失ってしまった……。


    エルフ領の着飾った町並みはどこにもない
    かといってドワーフ領のような機械やパイプも見当たらない。
    そういえばあの船員の耳は短かった気がする。

    船に飛び乗ってからどのくらい経ったのだろう。
    日が落ちてきている…。
    生き延びるには盗むしかない。
    立て看板を頼りに村を探す。
    小さな集落であればあるほど都合がいい。
    こんなド田舎、土地勘がなくとも森林にさえ逃げ込めばやり過ごせはするだろう。
    (何でもいい、休む場所と食料と水の確保をしなければ。)

    「…ぅお!!」

    辺りを見回しながら歩いていると、足場がズッとぬかるみ俺は足を踏み外してしまった。
    ガザガザ!!っと大きな音を立て数メートルの崖から落ち、急いで立ち上がろうにも運悪く手の平を割れてとがった小枝にひっかけ怪我をし足もくじいてしまい動けずに動揺した。


    …この地域では昨日にでも雨がふったのだろう。
    失態だ。

    小鳥のさえずり、風で揺れる草木の音。
    俺の気も知らずこの森は平和そうに静かだった。


    「誰…?レーナ?フォルク??」


    幼い女の声がした。
    どうにか動いて逃げようにも痛みで動けない
    バレないようにと気配を殺す暇もなく、その声の主は草むらをかき分け現れた。

    「え!!?だ、大丈夫!?」
    少女は俺の姿を見て大慌てで周囲の草木を払いのけ、俺の腕を引き肩に回して近くの芝生へ移動させた。
    小さな女のくせに意外と力があるものだ。

    「あっ怪我してる!今お医者さん呼んでくるからね!」
    「やめろ!!」
    「えっ……!??」

    グッと腕を掴みながら怒鳴った俺に少女は目を白黒させどうして??と困った顔をする。
    ポンチョのような服についているフードとマスクで顔をぎゅっと隠した。
    「俺は…誰にも知られたくない。見つかれば殺される」

    俺の言葉に少女は「そんなこと誰もしないよ!」とすぐ反論してきたのは俺の正体を知らないからだろう。
    それか、ここが見た目通り平和な場所なのか…。

    「俺はお前とは種族が違う。」
    「しゅぞく??」
    「お前にその気がなくとも、お前の周りの奴らは俺のことを知れば捕まえて殺す。そうなればお前も同罪だ。」
    「…???」

    よくわかっていなさそうな顔をしているが…
    口封じに殺すしかないか…?
    まだコイツにしかバレてはいない。

    いやしかし…コイツを探しに誰かが来ても厄介だ…。
    どうする………

    しばし悩んでいると少女はこういった。
    「じゃあ誰にも言わなかったら、その怪我、治してもいい??」
    「………は?」
    「だって痛いもん、そんなに血が出たら。私もよく転んじゃうからわかるもん」
    「………。誰にも、言わないんだな?」
    「うん。お父さんにもレーナにもフォルクにもパンドさんにも、えーっとそれから村の皆とかにも、言わない方がいいんだよね?」
    「…そうだ。」

    「待ってて!今救急箱取ってくるから」
    「い、いや待て!」
    「え?」
    「…俺はお前を信用できない。取りにいくと言って誰かに伝える可能性があるからな。…お前が離れるなら俺もここから消える」
    「ええーっ!??…うーん……」

    まともに動ける状態ではないが、過去にもこれより痛い思いをしながらでも逃げたことはある。無理にでも…どこかへまた隠れるしかない…。

    「わかった、じゃあ薬草をこの辺で摘むから見てて!それならいいよね?」
    「………それくらいなら。仲間を呼ぶような変な真似をすれば命はないと思え」
    「う、うん…。あとお水も汲むね」


    俺はじっと見張っていた。自分の身を最優先に考えながら。
    だが「命はないと思え」と脅したにも関わらず気づけば少女はマイペースに見える範囲で草や何かの実を集め近くの小さな浅い洞穴に入った。
    「こっちこっち!薬草作るから見てて!」
    「………。」

    よく見ると小さな板切れに『ひみつきち』と書かれている。
    小箱から、子供の手書きであろう『きずにきく やくそうと くすりのつくりかた』というペラペラなノートを取り出し、少女は読みながら子供用のおもちゃのような薬研に先ほどの薬草をゴリゴリと潰し始めた。

    「私のお友達のお父さんがね、お医者さんなの、だから色んな事しってていつも手当してくれるんだ!この薬、すごく効くからすぐ治るよ~!」

    汲んだ湧き水で少女は俺の傷にかけ、「しみるよね?もうちょっと我慢してね」と心配そうな声をかけた。
    「かすり傷にはこっちの薬」
    ぺたぺたとすりつぶした薬草の液体を塗り葉を包帯でまきつける。
    「捻挫もしたの?えーっとね…それならこの前使って残った薬あるならこっち使うね」

    不慣れながらもあちこち少女は治療をしていく。

    「あと他には…あれ?もしかして手も怪我してる?」
    「………。」
    「みせて!」

    暗くなってランプをつけた少女が渋々出した俺の手を見てようやく違和感に気づいたようだった。
    「……?」
    「…………。」

    「私より肌の色が濃いんだね」
    今更という気もするが、はっきりそう言われ気づかれるとドキリと心臓が跳ねる

    …俺は……、こんな色に生まれたかったわけじゃない…。
    蔑まれ忌み嫌われ続けてきた…こんな……肌なんかに……。


    「種族が…、違うからな」
    「! そっかぁ、そうなんだ」
    「………。」
    「なんだかカッコいいね」


    「かっこいい………だと……?」

    俺はぽかんと呆気にとられた。
    何を言っているのか分からない。


    「私ね、この村から出たことないんだ。お父さんは昔すっごーく遠い場所まで冒険したことあるんだって。色んなしゅぞくと出会ったって話してたよ。」
    「……。」
    「はじめて『いしゅぞく』っていうのに出会えちゃった!凄いね!」
    「異種族……。」

    「…あ、包帯さっきので全部使っちゃったみたい。手の傷、薬は塗れたけど縛っておかないと…なんかないかな」
    「…いい。気にするな。」
    「止血っていうのしないとだめなんだよ、手はいっぱい使うから、ばいきんも入っちゃいそうだし…!」

    きょろきょろと周りを見回しても先ほど使った小箱をひっくり返してもなにも出てこない。うーんうーんと悩む少女がはっとして「そうだ!!」と嬉しそうな声をあげた。


    「これも布で出来てるし長いから使えそう!」

    そう言って少女は髪飾りに浸かっていたヘアバンドの布をほどき、そのまま俺の手のひらに結んだ。

    「お、おい…!いいのか……?」
    「えへへ、いいよ!」
    「……大事なものなんじゃないのか…?」
    「大事だよ、お小遣いで買ったお気に入りのやつだから」
    「なら……何故…」

    「これね、『幸運のハンカチ』なんだよ。行商のおばちゃんがくれたの。」
    「幸運……?」
    「うん、私にはおっきくて薄いタオルみたいな感じだったから、カチューシャっぽく縛ってたんだけどね!怪我の手当にも使えてらっきーだね!」

    「…………。」

    少女は笑っていた。
    見ず知らずの俺に、手当をして
    自ら大切なものを使い、何も求めてこなかった。
    初めて、心の奥が熱かった。
    でも心から信じるにはお互い何も知らなすぎる。

    そして、知ってはいけないのだろう。
    もう、二度と会ってはいけない。
    俺のような悪い奴とコイツとでは…住む世界も考え方も価値観も……違いすぎる。



    「みてみて!夕焼け!綺麗だよ~!」
    「……ほんとうだ…すごいな」

    『ひみつきち』から見える夕焼けと海があまりにも綺麗で、別の世界に紛れ込んだ自分が異質に感じられた。


    「あー!そうだ!すっかり忘れてた。」
    「なっ!急にどうした」

    少女が立ち上がり、洞穴の奥のへたくそな小さな机の上に置かれたバスケットを持って俺の元でそれを開ける。

    「ここで夕焼けをみながら夕食のサイドイッチ食べようと思ってきたんだった!すっかり忘れてたよ~。一緒にたべよ!私が作ったんだ~!」

    ゴクリとつばを飲み込む。
    何か変なものでも入ってるのではなど、もうこの少女の前で思うことはなかった。

    「いっただっきまーす!」
    はむっと頬張る少女は本当においしそうな表情で、隣で食べる俺もつられて表情が緩んだ。

    「美味いな……」
    「ほんとー?良かった!上手にできて良かった~♪お水もどうぞ!たくさん食べてね!」
    「あぁ」

    冷えた湧き水もサンドイッチも、体に染み渡る。
    心地いい風がさわさわと草木を揺らした。


    「…それにしてもこんなに大量に食べるつもりだったのか?」
    2人でお腹いっぱい食べてもバスケットの中にはまだ少し残っている。
    コイツ、本当は食いしん坊なのだろうか……?

    「こ、こんなには無理だよ~~!今日本当はお友達と3人でひみつきちに来て遊ぶ予定だったの。でもレーナはお父んが風邪ひいちゃって、フォルクは急用ができちゃったんだって。だから1人で来たんだよ。お父さんが居たら遅く出歩けないし怒られちゃうけど今日はちょうどいなくて。昨日ここに忘れ物もしちゃったから取りに来たついでに。おうちで食べるより楽しいかなってサンドイッチも全部もってきちゃった。」

    「そうなのか…。寂しくはないのか?」
    「1人ぼっちだったら寂しかったけどあなたがいたから今は寂しくないよ!」
    「そうか…」


    「あれ?名前…そういえば聞いてないかも!なんて言うの?」
    「……言えない。」
    「どうして?」
    「…お前は俺と今日会わなかった。いいな」
    「え…?でも…」
    「俺のことは誰にも言うなと言ったはずだ。」
    「そ、それはそうだけど…、名前もダメなの?」
    「ダメだ。」


    「…俺のことは忘れてくれ。お前にまで災いを招きたくない。俺のせいでお前が」
    「そんな…せっかく仲良くなれたのに……」
    「頼む」

    「………うん」

    しょんぼりとうなだれる少女に俺は小さな声ですまないと言った。


    コイツが知らずとも、冒険をしたことがあるというコイツの父親ならばダークエルフのことを知っているだろう。
    そして、なにかをきっかけに噂が広まれば 俺を助けたコイツを許さないかもしれない。のどかで平和そうな場所だが……種族や領を超えて商人が俺をここまで運んだことは事実。この世界で、情報だけ遮断されているとは到底思えない。



    「…傷も痛みも引いてきた。俺はここにはもういられない。」
    「そうなんだ…」
    「自分のいるべき場所に帰る。…ここではない、遠い場所へ。」

    そう。
    俺は自身がダークエルフであることから逃れられない。
    エルフ共がいる世界に戻るんじゃない。同じダークエルフがいる世界に帰る。

    せめて…、この少女は俺達とは無縁のまま生きて欲しい。


    「どうやって帰るの?」
    「ここに来た道と逆をたどる。積み荷にまぎれ息を殺し気づかれないよう…気配を消す。それしかない」

    「そっか………。」
    「…だがいつそれが来るかまでは分からん。身を潜め時を待つしか…」
    「だったらちょうど、フォルカ村から明日の朝収穫した野菜を売りに出る人がいるから、それに乗れるよ!街までいつも行ってるからきっと大丈夫だよ!」
    「……!」


    「琴音ー!どこにいるんですかー!?」

    ドキーンと2人は急な人の声に飛び上がり、少年はサッと身を隠した。
    慌てて少女がバスケットをもち、声のする方へ走り去る。

    「ど、どうしたのフォルク!こんな時間に!」
    「やっぱりここに来てたんですね。まったく、ウェインさんがいないからって夜に出かけるなんて危険だって言ってるじゃないですか」
    「あはは!来るときはまだ明るかったから。それに忘れ物しちゃって…」
    「…あれ?バスケット。もしかして何か僕たちのために作ってきてました?」
    「うん。でもいっぱい食べちゃったからあんまりないよ~。いる?サンドイッチ。」
    「ではもらっておきましょうかね」
    「そうだ、レーナのお父さん具合どう?」
    「往診に行ったときはお腹もやられてつらそうでしたがさっき会いに行ったときは平気そうでしたよ。」
    「そっかぁよかった~。」


    静まり返ったひみつきち。
    人の気配もなくなり、また誰かが来ては困ると俺はその場を後にした。


    翌朝。

    「珍しいね、琴音ちゃんが街までついていくなんて」
    「荷馬車ってどんな感じで街まで行くのかなーって気になったから。お父さんもお迎えに行けそうかなって」
    「あぁ、昨日はウェインさんは泊りがけの仕事になっちゃったんだってね。こんなこおめったにないのに。琴音ちゃん寂しかったろう」
    「えへへ、ちょっとだけ」
    荷台に乗りながらお喋りをする少女は昨日の男の子をこっそり探していた。
    まだいない。
    どこにいるんだろう。

    昨日は暗くて、そしてフードとマスクで良く分からなかったけれど今出会ったらどんな子なのかちょっと見えるかもしれない。

    忘れて欲しいと言われているけれど、ちょっとだけ気になる。
    それ以上に彼がちゃんと自分の場所に帰れるかも心配で、他人事ながらどきどきする。


    「おっと琴音ちゃん、追加の積み荷があるから寄り道するよ」
    「うん」

    荷馬車が方向転換をした瞬間、森の奥に小さな人影に少女はハッとなる。
    昨日の子だ……!!!

    ガタンと荷馬車が止まり、近所のおじさんの家の納屋に入ると少女が座っていた場所に新たな荷物が数個入って行く。

    「わざわざどうも。うちの分もよろしくお願いします」
    「はいよ、支払いは帰ってからすぐしますんで」

    2人のおじさんが会話をしている際中、少女が少年に手招きをすると彼はさっと俊敏な動きで荷馬車の隙間に隠れた。あっという間の出来事すぎて少女はびっくり。
    居るけれどパっと見ただけでは分からない。ここまで彼が隠れながらやってきたのはそういう感じだったんだ…!と少女は感動した。

    (かっこいいー!!かくれんぼすっごく上手ですごーい!)
    (シッ!静かにしろ)
    (ごめんごめん)


    「それじゃ琴音ちゃん、動かすよ 落ちないようにね」
    「うん!」


    鼻歌まじりに歌うおじさんと荷台に乗る少女、そして潜伏している少年。
    どきどきしたけれどヴァルメルまではあっという間だった。

    荷台から積み下ろす時琴音が会話でおじさんの気を引き、その間に少年は街の中に消える。最後のさよならも、またねも、元気でねも 何も言えないまま
    呆気なく別れの瞬間が終わった。


    (忘れないとダメ…なんだよね。出会ったことも。)



    こうして2人の縁は途切れてしまった。
    もう二度と会うことのないはずの、のどかな田舎に住むヒューマンの少女と盗賊の闇の世界に生きるダークエルフの少年の物語。



    「……しまった…。返しそびれたな。」

    彼の手のひらにだけは、幸運のハンカチがまだついたままだった。
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